戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える

遊鷹太

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第1章

第11話「ここに居場所がある」

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翌朝、商人組合の事務所に呼ばれた。

組合長と、主要な商人たちが集まっている。ギルベルトもいる。

「恒一さん、座ってくれ」

組合長が、椅子を勧めた。

恒一は、指示に従った。リーナも、隣に座る。

組合長が、羊皮紙を広げた。

「単刀直入に言う。我々と、専属契約を結んでほしい」

「専属契約、ですか」

「ああ」

組合長が、羊皮紙を恒一に見せた。

「月額固定報酬、銀貨五十枚。それに加えて、個別依頼ごとの成功報酬。条件は、組合員の依頼を優先的に受けること」

恒一は、契約書を読んだ。

月額銀貨五十枚。金貨五枚に相当する。

宿代と食費を差し引いても、十分な収入だ。

「それと、これ」

ギルベルトが、別の書類を出した。

「市場の一角に、組合が所有する倉庫がある。それを、お前の作業場として提供したい」

「作業場?」

「ああ。宿に住むより、ずっといいだろう。冷蔵庫や浄水器を置く場所もある」

組合長が、続ける。

「家賃は、月に銀貨五枚。相場の半額だ」

恒一は、条件を整理した。

月額報酬、銀貨五十枚。

家賃、銀貨五枚。

差し引き、銀貨四十五枚が手元に残る。

宿代は、一泊銀貨一枚。月に三十枚。

つまり、宿暮らしより、月に十五枚の余裕ができる。

経済的には、有利だ。

「条件を確認させてください」

恒一は、契約書を見た。

「組合員の依頼を優先的に受ける、とあります。これは、すべての依頼を受ける義務があるという意味ですか?」

「いや」

組合長が、首を振った。

「お前が判断して、受けるか決めていい。ただし、組合員の依頼を、他より優先してほしい」

「断る権利は?」

「ある。お前の魔力や時間に限界があることは、分かってる」

恒一は、頷いた。

判断権が保持されるなら、問題ない。

「分かりました。契約します」

組合長が、笑顔を見せた。

「よし。では、署名を」

恒一は、契約書に署名した。

これで、商人組合と正式な契約が成立した。




作業場を見に行った。

市場の一角。石造りの小さな倉庫だ。

ギルベルトが、扉を開ける。

「ここだ」

中は、広かった。十畳ほどのスペース。天井も高い。

窓が二つ。換気も十分だ。

床は石畳。清掃すれば、使える。

壁には棚がある。道具や材料を置けるだろう。

奥には、小さな水場もある。井戸が近いのだろう。

「どうだ?」

ギルベルトが、尋ねる。

「十分です」

恒一は、空間を観察した。

冷蔵庫の設置位置。浄水器の場所。記録をつける机。

すべて配置できる。

「それと」

ギルベルトが、隣の建物を指差した。

「あっちに、小さな部屋がいくつかある。リーナさんも、部屋を借りたいって聞いたんだが」

リーナが、顔を上げた。

「本当ですか?」

「ああ。家賃は、月に銀貨三枚だ」

リーナは、少し考えた。

「借ります」

「よし。じゃあ、こっちも契約だな」

ギルベルトが、リーナに書類を渡した。

二人は、作業場の整理を始めた。

埃を払い、床を掃除する。棚を拭く。

リーナが、楽しそうに働いている。

「恒一さん、ここに冷蔵庫を置いたらどうですか?」

「そうしましょう」

「浄水器は、水場の近くがいいですよね」

「効率的です」

二人で、配置を決めていく。

机と椅子は、商人組合が提供してくれた。古いが、使える。

恒一は、記録用の道具を並べた。羽根ペン、インク、羊皮紙。

リーナが、棚に布を敷いている。

「これで、氷を置けますね」

「そうです」

作業を終えると、日が傾いていた。

恒一とリーナは、作業場の中央に立った。

「ここが、私たちの仕事場です」

リーナが、嬉しそうに笑った。

「はい」




その夜、ギルドから使者が来た。

ヴェルナー自身だった。

作業場の前に立ち、中を見る。

「ここが、お前の拠点か」

「はい」

恒一は、淡々と答えた。

ヴェルナーが、周囲を見回した。

「市場に、深く根を張ったな」

「商人組合と契約しました」

「そうか」

ヴェルナーが、恒一を見た。

「お前は……もう引き返せないぞ」

「引き返す必要は、ありません」

「ギルドとの対立が、深まる。それでもいいのか」

恒一は、ヴェルナーを見た。

「規約違反をしていません」

「規約の話ではない」

ヴェルナーの声が、低くなった。

「お前は、ギルドの管理外で活動している。それは、秩序を乱す」

「秩序とは、何ですか」

「魔法使いを管理し、その力を適切に運用することだ」

「私は、適切に運用しています」

「お前の基準でな」

ヴェルナーが、ため息をついた。

「分かった。もう何も言わない」

男が、背を向ける。

「ただし、覚えておけ。お前がここに根を張れば張るほど、ギルドは警戒する。いずれ、もっと大きな圧力がかかるだろう」

「覚悟しています」

ヴェルナーは、何も言わずに去っていった。

リーナが、不安そうに恒一を見ている。

「恒一さん……本当に、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

恒一は、作業場の中に戻った。

「ギルドとは、いずれ対立が深まるでしょう。ですが、私は市場の人々との契約を守ります」

リーナが、黙って聞いている。

「あなたは、巻き込みたくありません」

「巻き込みたくない?」

リーナが、首を傾げた。

「私、もう巻き込まれてますよ」

「ですが――」

「それに」

リーナが、笑った。

「私も、ここに残りたいんです。恒一さんと、ずっと一緒に働きたい」

恒一は、リーナを見た。

「後悔しませんか」

「しません」

リーナの声は、確信に満ちていた。

「私、ずっと自信がなかったんです。でも、恒一さんと一緒にいて、変わりました」

「変わった?」

「はい。判断すること。優先順位をつけること。全員は救えないこと。色々、学びました」

リーナが、恒一を真っ直ぐ見た。

「だから、私もここにいます。恒一さんのパートナーとして」

恒一は、何も言わなかった。

ただ、頷いた。

「分かりました」




翌日、市場に小さな変化があった。

作業場の前に、看板が立っていた。

木製の看板。文字が彫られている。

『三浦恒一 契約魔法使い』

ギルベルトが、ニヤニヤしながら立っていた。

「組合で作ったんだ。どうだ?」

恒一は、看板を見た。

自分の名前。職業。

それが、公に示されている。

「ありがとうございます」

「礼なんていいさ。お前は、俺たちにとって必要なんだ」

ギルベルトが、肩を叩いた。

「これで、誰が来ても分かる。ここに、恒一がいるってな」

リーナも、看板を見上げている。

「すごいです……恒一さんの看板」

「大げさです」

「大げさじゃないですよ。これ、すごく大事なことです」

リーナが、嬉しそうに笑った。

夕方、商人たちが集まってきた。

「聞いたぞ。恒一が、正式に組合と契約したって」

「看板も立ったな」

「祝わないとな」

誰かが、酒を持ってきた。食べ物も並ぶ。

即席の宴が、始まった。

恒一は、戸惑った。

こういう場は、得意ではない。

だが、商人たちは気にしていない。

「恒一! 乾杯だ!」

「お前のおかげで、商売が成り立ってる!」

「これからも、頼むぞ!」

次々と声がかかる。

リーナが、恒一に小声で言った。

「恒一さん、みんな喜んでますよ」

「そのようです」

「受け入れてくれてるんです。恒一さんを」

恒一は、周囲を見た。

笑顔の商人たち。酒を酌み交わす人々。

ここに、自分の居場所がある。

ギルドではなく、ここに。

恒一は、少しだけ緊張を解いた。

「乾杯」

小さく、声を出した。

商人たちが、歓声を上げた。




夜、宴が終わった後。

恒一とリーナは、作業場に戻った。

二人で、片付けをする。

「今日は、楽しかったですね」

リーナが、嬉しそうに言った。

「そうですね」

恒一は、机に記録をつけた。

専属契約の締結。作業場の確保。看板の設置。

市場での祝宴。

すべてを記録する。

ギルドからの警告も、記録した。

対立は、深まるだろう。

圧力も、強まるだろう。

だが、もう後戻りはできない。

恒一は、ここに根を張った。

市場に。商人たちの間に。

契約を守り、信用を積み重ね、居場所を作った。

それが、恒一のやり方だった。

リーナが、窓の外を見ている。

「恒一さん、これから、どうなるんでしょうね」

「分かりません」

恒一は、正直に答えた。

「ただ、やることは変わりません」

「やること?」

「契約を守る。判断を続ける。できることを確実にやる」

恒一は、記録を閉じた。

「それだけです」

リーナが、笑った。

「恒一さんらしいです」

二人は、作業場を出た。

看板が、月明かりに照らされている。

『三浦恒一 契約魔法使い』

恒一は、看板を見上げた。

ここから、何が始まるのか。

分からない。

だが、恐れない。

やるべきことは、明確だ。

契約を守る。判断を続ける。信用を積み重ねる。

それが、恒一の仕事だ。

「ここから、始まるんですね」

リーナが、呟いた。

「始まっています」

恒一は、淡々と答えた。

二人は、それぞれの部屋へ向かった。

明日も、同じように動く。

ギルドの評価は、低いままだろう。

圧力も、かかるだろう。

だが、それでいい。

恒一には、居場所がある。

市場に。商人たちの間に。

契約と信用で築いた、居場所が。

それが、すべてだった。

恒一は、部屋に入った。

窓から、市場が見える。

暗闇の中、いくつかの灯りが点っている。

人々が、生活している。

その中に、恒一もいる。

切り捨てられた男が、新しい場所で根を張った。

理解されなくても、評価されなくても。

必要とされていれば、それでいい。

恒一は、目を閉じた。

明日も、仕事を続ける。

それが、恒一の答えだった。

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