5 / 24
①
生徒会役員が現れた
しおりを挟む
昼休み。俺は中庭のベンチで本の虫になっていた。
校舎の間に挟まれた狭い中庭は、適度な風が吹いて涼しい。木陰にいれば、日差しも気にならない。夏の屋外にしては快適な場所だ。例年に比べて冷夏ということもあって、じっとしていれば拭うほどの汗も出てこない。
「すー」
と、隣で寝息を立てているのは、七緒だ。俺の肩に頭を乗せて気持ちよさそうに眠っている。滑らかなストレートの髪に首筋をくすぐられ、俺は身をよじった。
この場所は校舎から死角になっているのがいい。そうでなければまたいらぬ視線を集めることになることだろう。ここは穴場だ。
「そこのあなた方」
前言撤回。読むこともなく文章を眺めて呆けている俺に声がかかった。気の強そうな女の声だ。
「校内恋愛は校則で禁止されていますわ。わたくしは立場上あなた方を注意しなければなりません」
またこいつらか。心中で悪態を吐き、顔を上げる。見事なまでの縦ロールをこしらえ偉そうに胸を張る女子と、その傍らで影のように付き添う眼鏡の女子が歩み寄って来る。
生徒会役員の二人だ。それを確認し、俺は再び本に目を落とした。
「何度言ったら理解して頂けるのです。校内でのイチャイチャはおよしなさいと、去年からずーっと申し上げているでしょう!」
縦ロールの女子は俺の目の前で声を張り上げる。
「それを俺に言わないでください。俺は本を読んでいるだけです。注意するなら彼女の方にお願いします」
「あなたが拒んで突き離せばいいだけのお話ですわ!」
「そんな酷いことはできません。心が痛みます」
というかお前の髪型は校則違反じゃないのか。
と思ったが言わないでおく。刺激して話が長引いたら堪らない。
「あなた達は恋人同士ではないはず」
眼鏡の方、肩までのポニーテールを結わえた女子が口を開いた。聞いた二秒後には忘れてしまいそうな平坦で抑揚のない声だった。
「それが何か?」
「あなた達のやっていることは恋愛?」
さて、どうだろう。俺と七緒の仲がいいのは、単なる幼馴染だからであって、それは男女の垣根を越えた友情であると言えなくもない。
あるいはこうも考えられる。愛というものは男女の想いが互いに向けられて初めて成立するものであるので、仮にどちらかが片想いをしていただけだとしたら、もしくは当人がそのつもりであるのなら、それは愛のないただの恋であり、それは恋愛ではない、と。つまり、
「恋愛ではないです」
ということになるだろう。
「なので、校則違反ではないですね。まさか、友情を妨げる校則があるわけでもないでしょうし」
眼鏡は相変わらずの無表情だったが、縦ロールは眉を寄せて唇を歪めていた。肩に震えも見える。
「詭弁ですわ! 誰がどう見ても恋人同士にしか見えません! 言い訳するにももっとマシな言い分があるでしょう!」
俺は溜息を吐いた。勘違いするのは構わないが、そのせいで言いがかりをつけられるのはご勘弁願いたい。
「……むにゃ」
肩にかかる重みが消えた。
七緒が頭を起こし、眠たげに目をこすっている。目の前で大声を出されたら、そりゃ眠ってなどいられない。大きな欠伸を一つ。寝ぼけ眼だが、生徒会役員がいることに疑問を抱いたようだ。俺を見て、小鳥のように首を傾げた。
「あら、ちょうどいいですわ」
縦ロールが七緒の手を掴む。
「あなたにお話があります。生徒会室までご同行頂けません?」
「私? えっと、何か悪いことしたかなぁ?」
七緒は不安げな様子で俺を一瞥した。
「少しお話を聞かせくだ――」
言い終わる前に、俺は縦ロールの手を七緒から引き剥がした。
「な、何を」
俺は七緒の手を握り、ベンチを立つ。
「行きましょう、七緒」
「え、でも」
七緒は生徒会役員の二人を見やる。
「構うことはないです」
強引に七緒の手を引き、その場を離れる。
当然、縦ロールから制止の言葉をかけられる。
「お待ちなさい!」
縦ロールは慌ててついてこようとするので、俺はできるだけの迫力を以て彼女を睨みつけた。「ついてくるな」という俺の気持ちが伝わったのだろう。縦ロールは一瞬怯んだような表情をして立ち止まった。
俺はそのまま七緒の手を引いて校舎の中へ。
幸いにして、彼女達が追ってくることはなかった。
校舎の間に挟まれた狭い中庭は、適度な風が吹いて涼しい。木陰にいれば、日差しも気にならない。夏の屋外にしては快適な場所だ。例年に比べて冷夏ということもあって、じっとしていれば拭うほどの汗も出てこない。
「すー」
と、隣で寝息を立てているのは、七緒だ。俺の肩に頭を乗せて気持ちよさそうに眠っている。滑らかなストレートの髪に首筋をくすぐられ、俺は身をよじった。
この場所は校舎から死角になっているのがいい。そうでなければまたいらぬ視線を集めることになることだろう。ここは穴場だ。
「そこのあなた方」
前言撤回。読むこともなく文章を眺めて呆けている俺に声がかかった。気の強そうな女の声だ。
「校内恋愛は校則で禁止されていますわ。わたくしは立場上あなた方を注意しなければなりません」
またこいつらか。心中で悪態を吐き、顔を上げる。見事なまでの縦ロールをこしらえ偉そうに胸を張る女子と、その傍らで影のように付き添う眼鏡の女子が歩み寄って来る。
生徒会役員の二人だ。それを確認し、俺は再び本に目を落とした。
「何度言ったら理解して頂けるのです。校内でのイチャイチャはおよしなさいと、去年からずーっと申し上げているでしょう!」
縦ロールの女子は俺の目の前で声を張り上げる。
「それを俺に言わないでください。俺は本を読んでいるだけです。注意するなら彼女の方にお願いします」
「あなたが拒んで突き離せばいいだけのお話ですわ!」
「そんな酷いことはできません。心が痛みます」
というかお前の髪型は校則違反じゃないのか。
と思ったが言わないでおく。刺激して話が長引いたら堪らない。
「あなた達は恋人同士ではないはず」
眼鏡の方、肩までのポニーテールを結わえた女子が口を開いた。聞いた二秒後には忘れてしまいそうな平坦で抑揚のない声だった。
「それが何か?」
「あなた達のやっていることは恋愛?」
さて、どうだろう。俺と七緒の仲がいいのは、単なる幼馴染だからであって、それは男女の垣根を越えた友情であると言えなくもない。
あるいはこうも考えられる。愛というものは男女の想いが互いに向けられて初めて成立するものであるので、仮にどちらかが片想いをしていただけだとしたら、もしくは当人がそのつもりであるのなら、それは愛のないただの恋であり、それは恋愛ではない、と。つまり、
「恋愛ではないです」
ということになるだろう。
「なので、校則違反ではないですね。まさか、友情を妨げる校則があるわけでもないでしょうし」
眼鏡は相変わらずの無表情だったが、縦ロールは眉を寄せて唇を歪めていた。肩に震えも見える。
「詭弁ですわ! 誰がどう見ても恋人同士にしか見えません! 言い訳するにももっとマシな言い分があるでしょう!」
俺は溜息を吐いた。勘違いするのは構わないが、そのせいで言いがかりをつけられるのはご勘弁願いたい。
「……むにゃ」
肩にかかる重みが消えた。
七緒が頭を起こし、眠たげに目をこすっている。目の前で大声を出されたら、そりゃ眠ってなどいられない。大きな欠伸を一つ。寝ぼけ眼だが、生徒会役員がいることに疑問を抱いたようだ。俺を見て、小鳥のように首を傾げた。
「あら、ちょうどいいですわ」
縦ロールが七緒の手を掴む。
「あなたにお話があります。生徒会室までご同行頂けません?」
「私? えっと、何か悪いことしたかなぁ?」
七緒は不安げな様子で俺を一瞥した。
「少しお話を聞かせくだ――」
言い終わる前に、俺は縦ロールの手を七緒から引き剥がした。
「な、何を」
俺は七緒の手を握り、ベンチを立つ。
「行きましょう、七緒」
「え、でも」
七緒は生徒会役員の二人を見やる。
「構うことはないです」
強引に七緒の手を引き、その場を離れる。
当然、縦ロールから制止の言葉をかけられる。
「お待ちなさい!」
縦ロールは慌ててついてこようとするので、俺はできるだけの迫力を以て彼女を睨みつけた。「ついてくるな」という俺の気持ちが伝わったのだろう。縦ロールは一瞬怯んだような表情をして立ち止まった。
俺はそのまま七緒の手を引いて校舎の中へ。
幸いにして、彼女達が追ってくることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる