真夏に咲いた恋の花

朝食ダンゴ

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生徒会役員が現れた

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 昼休み。俺は中庭のベンチで本の虫になっていた。
 校舎の間に挟まれた狭い中庭は、適度な風が吹いて涼しい。木陰にいれば、日差しも気にならない。夏の屋外にしては快適な場所だ。例年に比べて冷夏ということもあって、じっとしていれば拭うほどの汗も出てこない。

「すー」

 と、隣で寝息を立てているのは、七緒だ。俺の肩に頭を乗せて気持ちよさそうに眠っている。滑らかなストレートの髪に首筋をくすぐられ、俺は身をよじった。
 この場所は校舎から死角になっているのがいい。そうでなければまたいらぬ視線を集めることになることだろう。ここは穴場だ。

「そこのあなた方」

 前言撤回。読むこともなく文章を眺めて呆けている俺に声がかかった。気の強そうな女の声だ。

「校内恋愛は校則で禁止されていますわ。わたくしは立場上あなた方を注意しなければなりません」

 またこいつらか。心中で悪態を吐き、顔を上げる。見事なまでの縦ロールをこしらえ偉そうに胸を張る女子と、その傍らで影のように付き添う眼鏡の女子が歩み寄って来る。
 生徒会役員の二人だ。それを確認し、俺は再び本に目を落とした。

「何度言ったら理解して頂けるのです。校内でのイチャイチャはおよしなさいと、去年からずーっと申し上げているでしょう!」

 縦ロールの女子は俺の目の前で声を張り上げる。

「それを俺に言わないでください。俺は本を読んでいるだけです。注意するなら彼女の方にお願いします」

「あなたが拒んで突き離せばいいだけのお話ですわ!」

「そんな酷いことはできません。心が痛みます」

 というかお前の髪型は校則違反じゃないのか。
 と思ったが言わないでおく。刺激して話が長引いたら堪らない。

「あなた達は恋人同士ではないはず」

 眼鏡の方、肩までのポニーテールを結わえた女子が口を開いた。聞いた二秒後には忘れてしまいそうな平坦で抑揚のない声だった。

「それが何か?」

「あなた達のやっていることは恋愛?」

 さて、どうだろう。俺と七緒の仲がいいのは、単なる幼馴染だからであって、それは男女の垣根を越えた友情であると言えなくもない。
 あるいはこうも考えられる。愛というものは男女の想いが互いに向けられて初めて成立するものであるので、仮にどちらかが片想いをしていただけだとしたら、もしくは当人がそのつもりであるのなら、それは愛のないただの恋であり、それは恋愛ではない、と。つまり、

「恋愛ではないです」

 ということになるだろう。

「なので、校則違反ではないですね。まさか、友情を妨げる校則があるわけでもないでしょうし」

 眼鏡は相変わらずの無表情だったが、縦ロールは眉を寄せて唇を歪めていた。肩に震えも見える。

「詭弁ですわ! 誰がどう見ても恋人同士にしか見えません! 言い訳するにももっとマシな言い分があるでしょう!」

 俺は溜息を吐いた。勘違いするのは構わないが、そのせいで言いがかりをつけられるのはご勘弁願いたい。

「……むにゃ」

 肩にかかる重みが消えた。
 七緒が頭を起こし、眠たげに目をこすっている。目の前で大声を出されたら、そりゃ眠ってなどいられない。大きな欠伸を一つ。寝ぼけ眼だが、生徒会役員がいることに疑問を抱いたようだ。俺を見て、小鳥のように首を傾げた。

「あら、ちょうどいいですわ」

 縦ロールが七緒の手を掴む。

「あなたにお話があります。生徒会室までご同行頂けません?」

「私? えっと、何か悪いことしたかなぁ?」

 七緒は不安げな様子で俺を一瞥した。

「少しお話を聞かせくだ――」

 言い終わる前に、俺は縦ロールの手を七緒から引き剥がした。

「な、何を」

 俺は七緒の手を握り、ベンチを立つ。

「行きましょう、七緒」

「え、でも」

 七緒は生徒会役員の二人を見やる。

「構うことはないです」

 強引に七緒の手を引き、その場を離れる。
 当然、縦ロールから制止の言葉をかけられる。

「お待ちなさい!」

 縦ロールは慌ててついてこようとするので、俺はできるだけの迫力を以て彼女を睨みつけた。「ついてくるな」という俺の気持ちが伝わったのだろう。縦ロールは一瞬怯んだような表情をして立ち止まった。
 俺はそのまま七緒の手を引いて校舎の中へ。
 幸いにして、彼女達が追ってくることはなかった。
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