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イキールの意志
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「なかなか尻尾を出さないわね」
「グランブレイドの連中か?」
イキールは首肯する。
「あの黒づくめも、本物の王女も、至って普通だわ」
「実際、無実かもしれないぞ? そもそもが怪しいってだけで、はっきりとした証拠はないからな」
「いいえ。私の勘によれば、あいつらはクロだわ。王都での事件に、きっと絡んでる」
「はは。勘かよ」
とはいえ、バカにはできないな。イキールの勘はドンピシャで当たってる。
すごい嗅覚だ。
「なぁイキール」
俺は言いながら、隣に腰を下ろす。
「な、なによ」
さっと身を引くイキールだが、立ち上がろうとはしない。
「明日はランスピア山を越える。そうすれば、グランブレイドの領土だ。何か仕掛けてくるとすれば、下山した後だろう」
「それは私も考えたわ。それがどうかした?」
「夜が明けたら、お前は帝都に戻れ」
「は……はぁ?」
思いもよらぬ言葉だったのだろう。
イキールは目を見開いていた。
「どういうことよっ」
「危険なんだ。わかるだろ」
「そんなの最初から承知の上よ。私がお遊びでここにいるとでも思ってるの?」
俺の胸倉を掴み、きっと歯を剥くイキール。
この反応は想定済みだ。だから俺は驚かない。
「お前の想いはわかってる。だが、だからこそここまでにしておくべきだ」
「なんでよ」
「ここから先は、引き返せなくなるぞ」
「……どういうこと?」
「国内を走り回るのはまだいい。デメテルの中は皇帝の勢力圏内だからな。だが、一歩でも国境をまたげば、皇帝の庇護はない。たとえそこが属国だとしてもだ」
胸倉をつかむイキールの手に、俺はそっと触れた。
「なぁイキール。俺はお前を、危険に晒したくないんだ。もしお前の身に何かあったらガウマン侯爵に顔向けができない」
「お父様は関係ないでしょ」
「ある。俺はアルバレスの公子で、お前はガウマンの令嬢だ。貴族である以上、家門の存在は無視できないだろ」
「……関係ないわ。私は、妾の子だから。お父様の興味も、期待も、ぜんぶ兄上に向けられてる。あの人は、私を政略結婚の道具としか考えていないのよ」
俺は一時言葉を失った。
こいつが典型的な令嬢としての振る舞いを疎んでいるのは、そういう背景があったからなのか。
だから、令嬢としてではなく、自分の力で価値を示すことに執着しているわけだ。
「酷なことを言うようだが、ガウマン侯爵がお前をどう思っているかはこの際どうでもいい。万が一があれば、家門同士の問題になる。有力な家門同士のイザコザが起これば、デメテルの内政にも大きな影響があるだろう。俺達は、国にとってそれだけ重要な人間なんだ。俺がエルフに拉致された時だって、大問題になっただろ。ただでさえ今は帝都が荒れているんだ」
そこでやっと、イキールは俺の胸倉から手を離した。
「……アレコレ言ってるけど、要は私が足手まといって言いたいんでしょ」
イキールは思いつめた面持ちで、ベッドのシーツを握りしめている。
正直、なんと声をかけるべきか迷った。
「グランブレイドの連中か?」
イキールは首肯する。
「あの黒づくめも、本物の王女も、至って普通だわ」
「実際、無実かもしれないぞ? そもそもが怪しいってだけで、はっきりとした証拠はないからな」
「いいえ。私の勘によれば、あいつらはクロだわ。王都での事件に、きっと絡んでる」
「はは。勘かよ」
とはいえ、バカにはできないな。イキールの勘はドンピシャで当たってる。
すごい嗅覚だ。
「なぁイキール」
俺は言いながら、隣に腰を下ろす。
「な、なによ」
さっと身を引くイキールだが、立ち上がろうとはしない。
「明日はランスピア山を越える。そうすれば、グランブレイドの領土だ。何か仕掛けてくるとすれば、下山した後だろう」
「それは私も考えたわ。それがどうかした?」
「夜が明けたら、お前は帝都に戻れ」
「は……はぁ?」
思いもよらぬ言葉だったのだろう。
イキールは目を見開いていた。
「どういうことよっ」
「危険なんだ。わかるだろ」
「そんなの最初から承知の上よ。私がお遊びでここにいるとでも思ってるの?」
俺の胸倉を掴み、きっと歯を剥くイキール。
この反応は想定済みだ。だから俺は驚かない。
「お前の想いはわかってる。だが、だからこそここまでにしておくべきだ」
「なんでよ」
「ここから先は、引き返せなくなるぞ」
「……どういうこと?」
「国内を走り回るのはまだいい。デメテルの中は皇帝の勢力圏内だからな。だが、一歩でも国境をまたげば、皇帝の庇護はない。たとえそこが属国だとしてもだ」
胸倉をつかむイキールの手に、俺はそっと触れた。
「なぁイキール。俺はお前を、危険に晒したくないんだ。もしお前の身に何かあったらガウマン侯爵に顔向けができない」
「お父様は関係ないでしょ」
「ある。俺はアルバレスの公子で、お前はガウマンの令嬢だ。貴族である以上、家門の存在は無視できないだろ」
「……関係ないわ。私は、妾の子だから。お父様の興味も、期待も、ぜんぶ兄上に向けられてる。あの人は、私を政略結婚の道具としか考えていないのよ」
俺は一時言葉を失った。
こいつが典型的な令嬢としての振る舞いを疎んでいるのは、そういう背景があったからなのか。
だから、令嬢としてではなく、自分の力で価値を示すことに執着しているわけだ。
「酷なことを言うようだが、ガウマン侯爵がお前をどう思っているかはこの際どうでもいい。万が一があれば、家門同士の問題になる。有力な家門同士のイザコザが起これば、デメテルの内政にも大きな影響があるだろう。俺達は、国にとってそれだけ重要な人間なんだ。俺がエルフに拉致された時だって、大問題になっただろ。ただでさえ今は帝都が荒れているんだ」
そこでやっと、イキールは俺の胸倉から手を離した。
「……アレコレ言ってるけど、要は私が足手まといって言いたいんでしょ」
イキールは思いつめた面持ちで、ベッドのシーツを握りしめている。
正直、なんと声をかけるべきか迷った。
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