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悪役という人達が物語にはいると思う。例えば王子様をヒロインから奪おうとしたり、ヒロインを傷つけようとしたり·····
この人たちによって物語はもっと引き立ち、読者は惹かれていくのである。悪役というものは素晴らしいと思う、しかしそれは·····
自分がならなければの話…



「·····というわけ!よろしくね、悪役令嬢さん!」
「·····ようするにあなたは私に悪役令嬢になれ!と言うのですね?」
「そうそう!お願い!」
公爵邸の隅で私はよく分からない人と口論しています
「·····ふざけないでもらえますか?誰が自分から望んで悪役令嬢になると思うのですか?」
「やりなさいよ!文句は聞かないわ!!」
なんなんだ、このうるさい方は!
「それにあなた分かっていらっしゃいますか?私の方があなたより身分が上ですよ。喋り方も失礼ですし·····家が潰されてもよろしいのですか?」
「おぉ!!悪役令嬢ぽい!!そんなかんじでよろしくね!私のことを虐めてちょうだい!」
「·····もう一度整理してもよろしいかしら?」
「もう、時間ないんだから早くしてよね!」
だから私の方が身分が上だってば!
「男爵令嬢ターシャ・キルクス様はザノン国第一王子ヴェルデ・コンシオン様とご結婚なさりたいのですね?」
「うん!」
「そしてそのためには私が悪役令嬢となり、あなたを虐めなければならない、ということですね?」
「よく分かってんじゃん!」
「では、一つお聞きします。私のメリットはなんでしょうか?」
「メリット?」
「はい、もしもこれを実行した場合私は多くの方から反感を買うことになるでしょう。ここまでして私が得られるメリットはなんでしょうか?」
「えっ!そんなの私の幸せに決まってるでしょ?」
「·····話になりませんね、別に私はあなたの幸せなんて望んでいませんし、私が虐めただけであなたが殿下と結婚出来るのですか?」
「出来るわよ!!未来は決められているのよ!!」
「なぜ、そう言いきれるのでしょうか?」
「だってここはゲームの世界だから!そして私はその世界の主人公!そしてあなたは悪役令嬢よ!!」
「·····全く理由になっていません」
「なんなのよ、あなた!!いちいち理屈っぽく返さないでよ!」
うるさい·····
「·····帰って貰えますか?」
この人に礼儀を教えた方はいらっしゃらないのかしら?
「ちょっと、ちゃんと私を虐めてくれるんでしょうね!!」
「虐めません、どうか帰ってください」
虐めるわけないでしょ
「これだから悪役令嬢は!!あなたが私を虐めるのは運命として決まっているのよ!」
運命ですって·····そんな·····
「うるさいです!!·····運命なんてないのです!!」
「悪役令嬢は人の話も聞けなくてワガママみたいね!!そろそろあなたはヴェルデ様と婚約するわ!あなたから奪うのが楽しみだわ!また、会いましょうね」
「二度と会いません!」
ピンク頭の女はヘラヘラとした笑みを見せながら部屋から出ていった
一人になり、やっと大きなため息をついた
「·····まさか、他にも転生者がいたなんて。それもヒロインが·····」


いきなり始まってしまい申し訳ありません、私の名前はシャルロット・ハイデンロール。ここザノン国は緑溢れる美しい国、私はその国の公爵家の長女。妹が一人、お兄様が一人います。お兄様は騎士として遠い遠いところへ行っています。とても寂しいです。そして妹は·····
「お姉様!!また私の服を盗みましたね?」
バタンとドアを開く音と共に怒声が耳に響いた
まただわ·····
「盗んでいないわ、証拠でもあるの?」
「そんなのお姉様しかしえないじゃない!!」
なんでこの世界の人は話が通じないのか·····
「なんだ、この騒ぎは!」
ドタドタと肉付きの良い豚·····じゃなくてお父様とお母様が私の部屋へやって来た
「どうしたの?コレットちゃん?」
「お姉様が私のドレスを盗んだの!」
「シャルロット!なんでそんなことをしたんだ!」
「していませんわ、証拠がありますの?」
「そんなのお前しかいないだろ!盗むような奴は!3日間外に出ることを禁ずる!反省しろ!」
娘がこれなら親もこれなのね·····
「コレットちゃんは私に似てこんなにも可愛いのにあなたは本当に醜いわね!」
「申し訳ございません、お母様·····」
お母様に言いたいわ、コレットは顔が分からないほど、太ってるということを!そしてあなたはそれ以上に太ってるということを!
「とにかくいくらコレットが可愛くて嫉妬したとしても、虐めるなよ!」
「あの·····嫉妬などしていませんわ」
あっ·····言っちゃった·····
「なんですって!!それはどういう意味なのよ!!お姉様なんてブスのくせに!!」
「コレットちゃんを侮辱するの!!これだからあの女の娘は!!」
2人の金切り声が耳に響き、ジンジンする
耳が壊れそうになり、苦しんでいると、どこからか足音が聞こえてきた
「奥様、お嬢様、そろそろお出かけのお時間ですよ」
そう言ったのは目を見張るほどの美青年だった
翡翠のような瞳に綺麗な鼻筋、真っ白で陶磁器のように滑らかな肌。男らしい体つきだが、肩幅はあまり広くない。つまりイケメンだ。
彼は黒く長い美しい髪を後ろで纏め、朗らかな笑顔でお母様たちにそう伝えた
「そうだったわね、じゃあねお姉様~私はお姉様に盗られたドレスよりもっと高いの買ってもらってくるからぁ~お姉様は部屋に閉じこもってな」 
「いっぱい買ってあげるからね、コレットちゃん」
気持ち悪い声をあげながら去っていき、安堵した
「ありがとう、リオン」
「いえいえ、シャルロット様も大変ですね」
そう微笑む彼だけが今、この屋敷で唯一の味方である。彼の名前はリオン・アスファル、どこの家かは知らない。幼い頃から私の執事である。彼はとても優秀で家族からも好かれている。妹に奪われかけたのだが、彼自身が私に仕えたいと言ってくれた。妹は怒ったが、最近新しく入った使用人が好みだったらしく今はそっちに夢中になっている。彼がいなければとっくに心が折れ、自殺してしまっていたかもしれない

さっき見て分かったように私は家族から嫌われている、私の母は私が幼い頃に亡くなってしまった。そして妹、コレット・ハイデンロールは父の浮気相手の娘だった。母が亡くなったあと、これ幸いと父と結婚したのだ。この人は私の母のことを恨んでおり、その娘である私のことも憎く、嫌いなのである。父は再婚してからあのように太り、馬鹿になってしまったようだ。前までは立派な方だったのに、今では軽蔑してしまう。リオン以外の使用人達は私のことを空気のように扱い、たまに部屋を掃除してくれるだけである。だから私の世話はほとんどリオンがやってくれている。リオンがどうしてここまでやってくれるか分からないが、とても嬉しい

まぁ、家族の説明はこれぐらいにしておこう
私、シャルロットは転生者である。しかし、前世の記憶を持っているわけではないが、少し知っていることがある。ここはあるゲームの世界であるということとそれに関するちょっとした知識。
私は前世で死んだあと、うろ覚えだが魂が天に昇った。その時にルシファーと名乗る男に捕まってしまった。そして言われたのだ
「悪役令嬢になれ」·····と
そして言われた瞬間辺りが真っ白に光り、私はこの世界に生まれたのだ
最初はただの夢だと思っていたが、会う人の情報が頭に流れ込んできたときに夢ではなかったと悟った。リオンも攻略対象の一人であるらしい。ゲームの中では悪役令嬢に虐められ、心に深い傷を負った設定だったがそんな様子は全くない。しかしやはり怖い·····いつかリオンが離れていってしまうのでは無いかと·····どういうルートを辿るのかが全く分からないから何もしようがない·····私はただただ
運命に身を任せるしかないのだ
運命·····私はこの言葉が一番嫌いだ
この言葉を聞くとなぜか分からないが頭の奥が酷く痛む

「シャルロット様?大丈夫ですか?」
「あっ、リオン!大丈夫よ」
「そうですか、ドレスは妹様のベッドの下から見つかりました、新しいドレスを買ってもらいたいのなら普通に言えばよろしいのに」
「私が叱られるところが好きなのよ」
「困った方です·····」
「ねぇ、リオン·····私から離れない?ずっと·····」
「·····はい·····もちろんですお嬢様」
毎日これを聞いて安心している·····彼はいつまでこう答えてくれるのだろうか·····
今日も虚しく、心を痛めた
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