元魔王おじさん

うどんり

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三章

第87話 駄々をこねてみた/まったく気づかないのもいた

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今日はマヤは町へパン売りに出るらしい。

先に行かせると、俺はお隣のツリーハウスをねめつけた。

窓はやや高い位置にあるので、背伸びして手で縁につかまりながら、めいっぱい上を向く。とても不安定だ。
ラミナもすぐ隣で同じようにしている。

意を決して、ソファに座って紅茶を飲んでいるウォフナーの方を向いた。

「ウォフナー!あれと同じの作ってくれ!」

「私に言うな」

「同じの欲しいのだ。頼む」

「ノームにでも頼んだらどうだ?」

「素直に作ってくれるか?」

「頼んでみなければわからんな」

ううむ、メシで釣ればいけるだろうか。

シオンに頼んで、何かスペシャルな料理でも作ってもらうか……?

「だがその場合、今住んでるこの家は私がもらうぞ」

「……なんだと?」

「住む家は一つあれば十分だろう。ツリーハウスを作ってもらったらこちらの家はいらなくなるはずだ」

「こ、こっちにも住むから!だから構わんだろう!」

「体が二つないと無理だな。ソウマに分裂する薬でも作ってもらうか?」

「いや、体はいつも一つ……」

「ならこの家を手放せ」

「それはできん!こっちも大事だ!」

「だったらツリーハウスはあきらめるんだな」

「お、お、お――」

俺は悠々と紅茶を飲むウォフナーに怒鳴った。

「お母さんのいじわる!」

「誰がお母さんだ!」



ウォフナーは一人で狩りに出かけてしまった。

俺はラミナと教会までやってくると、神父と世間話を始めた。

「……はあ。敵かもしれない方がお隣に引っ越してきたと」

「そうなのだ。まあ、問題はないといえばないんだがな。ただ、現状俺に牙をむいてくるのがめんどくさい」

外で遊ぶ子どもやラミナたちを眺めながらである。

今朝は熱くなりすぎたかもしれん。少し冷静さを取り戻さねばいかんな。

「古りゅ――いや、あいつにとって、いい納まりどころがあればいいんだがな」

「相手を恨んでばかりがすべてではありません。ときにはお互いを許し、わかり合い、助け合わなくては」

「その考え方はさすがだな神父よ。あいつに聞かせてやりたい」

淹れてもらったローズマリーティーをすすりながら、俺は正直に神父をほめる。

「恐れ入ります」

神父は柔和な笑みをたたえながら言って、

「しかし、コーラルさんも不思議な子ですね」

「なにがだ?」

「どうも、子どもと話している気がしません。むしろ年上と対等な立場で話をしているような感覚になりますよ。ああ、いえ、悪い意味ではありません。それほど達観しているということですから」

まあ、年上だからな、実際。

「神父も悩みや愚痴があれば聞いてやるぞ」

「ありがとうございます。そのときが来たらよろしくお願いしますね」

話していると、子どもたちが教会の入口を見てはしゃぎだした。

「あっ、サリヴィアねーちゃんだ!」

「サリヴィアねーちゃん!」

サリヴィア?

見ると、教会の敷地にサリヴィアが入ってきたところだった。

俺は立ち上がった。

「なんだ、サリヴィアもここに遊びに来るのか。ちょっと行ってくる」

「ええ、どうぞ」

俺が行くと、すでにサリヴィアはちびっこたちにもみくちゃにされていた。

「お前はここでも有名人か」

その輪から一歩引きながら、俺はサリヴィアに言った。

商人といい教会といい、どこにでも顔が利くな。

「ああ、こんにちは。はじめまして。――って、ラミナじゃないか。コーラルどのは一緒じゃないのか?」

俺の隣に来たラミナに、サリヴィアは尋ねた。

「いる」

ラミナはそう言って俺を指す。

「おう、俺だ」

「…………コーラルどのの娘か何か?」

「違う」

そういう反応になるよな。
まあ、そういう反応になる。わかってた。

何か言い返そうと思っていると、サリヴィアにふわりと持ち上げられる。

地から足が離れ、軽々とサリヴィアの目線まで上がる。不思議な感覚だ。

「では赤の他人か?よく似てるなあ」

「本人だ」

「はははっ、冗談がうまいな!」

言ってもこの反応である。まあ期待してはいなかったが。

「しかし妙に重いな、きみ!」

「むしろよく軽々と持てるな、お前は」

実感はないが、俺はまだ重い。

筋力が半分になったとはいっても、もう半分は残っているわけだからな。
その分の質量は残っているのだろう。しかもこの小さい身体に凝縮されている。
普通の子どもよりずっと重いはずだ。

「いつもありがとうございます、サリヴィアさん」

神父がやってくると、サリヴィアはそのまま俺を胸に抱える。

「おい離せ。さすがに恥ずかしい」

子どものようにだっこされている状態だった。

神父も何か言ってくれ。

「年長の子たちの剣術指南、よろしくお願いします」

「ええ、私でよければ、よろこんで」

神父はうなずきながら俺にほほえましい視線を送る。

そうそう、それがあなたのあるべき姿ですよ。といいたげな表情だ。

さっきまで対等な立場で~とか言っていたのはなんだったのか。

「そういやサリヴィア、ここで子どもたちに剣を教えているのか」

抱っこされているので顔が近かった。

足元でちびっこたちが羨ましそうにこちらを見ている。

「ああ。ただお金を取るほど達人ではないので、完全なボランティアだ。それに希望する者だけだぞ。いても二、三人だろうな。あとは、きみみたいな小さい子と遊ぶのがメインだ」

「コーラルだと何度言ったらわかるのか」

話していると、シオンがこちらに近づいてきた。

「お久しぶりですサリヴィアさん……今日はよろしくお願いします」

「シオンか。兄様がたまに教えているようだが、私の方からも一つ頼む」

「はい」

うなずくシオンと目が合い、

「…………っ!?」

一瞬信じがたい表情になり、それからそっと目をそらした。
……いや、助けてくれよ!
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