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四章
第99話 敵の名は『魔王』
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魔界には魔の国の領地を治めている王族はいるが、魔王と呼ばれているのはダストだけだ。
つまり、こいつらの言っている『魔王』とは誰なのだ?
いや、考えるより、確かめた方が早いか。
俺は魔王ダストの首根っこをつかんで、男二人の前に出した。
「こいつの顔に見覚えは?」
「はあ?知らん!」
男たちは口をそろえて魔王ダストを全力否定する。
「知らんのか」
「知ってたら逆に驚きですよ」
ダストはかなり不本意そうだ。
「じゃあ魔王とは誰だ?どのような奴だ?」
「それも、知らん」
と男たちは言った。
「知らん?」
「俺たちは末端だから……『魔王様の直属の部下』といわれている人物にしか会ったことはない」
「直属の部下だって?」
俺は汗ばむリィサの顔を見た。
冷汗じゃない。普通に疲れてにじみ出ている汗だ。
リィサは少し体を動かしただけなのに、すでに息が切れてきていた。
「いや私じゃないですって」
だよな。
引きこもりのこいつに魔界と人間界を行ったり来たりするようなフットワークがあるはずない。
「もしこいつらの言うことが本当だとして、魔王軍にいるか?こっそり人間界に来て何かしら企みを働かせるような『魔王の部下』が」
「百パーセントないと言えないのがつらいですが」
まあ、普通に考えてないだろうな。
そもそも簡単に世界間転移ができるような魔力を持っている奴は今ここに集結している。
「その魔王の部下にはまた会うのか?」
「ふ、二日後に素材を引き渡す約束をしているが……」
「素材とは、その古い羊皮紙に書かれているものでいいのだよな?」
「あ、ああ……」
羊皮紙には、『獣の肉』のほかに『マンドラゴラ』『ベラドンナ』『オダマキ』と書かれている。
……どこかで聞いたような単語だが、何なのかはわからない。
まだこちらの物でも知らない物はたくさんあるな。
「で、何の素材なのだ?」
「何に使うかなんて、俺たちには知らされてないからわからない……」
男は言ってから、ハッとして首を振った。
「いや、あんたを恩人だと思ってしゃべりすぎた。これ以上は……」
「ああ、よいのだ。ありがとう」
俺は言うと、黒猫に向き直った。
「猫よ、お前の仲間は、すでに殺されてしまったらしい」
黒猫は、やはり警戒して近づこうとしない。
だが、俺の言葉を聴いているかのように、耳をピクリと動かした。
「どうだ?一人身になってしまって、お前の家もこんなになってしまった。うちに来る気はあるか?」
黒猫は澄ましたように動きを止める。
それから尻尾を垂らして、やや姿勢を低くしながら、俺たちに背を向け、歩き出した。
「フラれましたか」とダスト。
「……まあよいさ」
黒猫がその場を後にすると、
「俺たちも行こう」
俺たちも男たちに別れを告げて、歩き始める。
行く先は、城下町ラール・プラエスだ。
魔王の部下を自称する男たちは、このまま泳がせることにする。
「……リィサ、覚えたか?」
「ええ、あの男のひとたちの魔力ならいつでも追えますよ」
リィサの顔についている複数の邪眼が、うっすらと開いた。
普通の人間もほんの少しだけ魔力を持っている。
魔法が使えないほど微弱で、普通の魔族には感知できないほどだが、リィサは別だ。
魔界一の捕捉能力を持つ彼女なら、微弱でも十分。
「二日後、男たちを追って、魔王の部下とやらを見に行こう。その間に、町で『魔王』について情報を集めてみるぞ」
俺が言うと、ダストはうなずいた。
「……もし『魔王』の名が貶められていたら解せませんしね」
そういうことだ。
どこかのだれかが何をしようが構わんが、魔王の名を使って好き勝手しているのだとしたら、少々水を差してやらねばなるまいよ。
……ということで、俺とラミナはダストとリィサを引き連れて、城下町までやってきた。
「ずいぶん賑わっていますね」
バクルモアティ領随一の賑わいをみせる町である。
昼近くになるにつれ、人々の往来は増していっている。
大通りの出店の方も、元気な人の声が飛び交っていた。
そして、飛び交うのは、人々の声だけではない。
「ここには様々な情報も飛び交っている。噂に上っているようなら、『魔王』の情報の一つや二つ容易く手に入るだろうさ」
まあ、少々工夫は必要だろうがな。
「こ、こわっ。密度、密度がやばいです……!」
震える声のリィサは、人込みを前に俺の背中に隠れた。
構わず歩き始める。
「……ん?」
俺たちが人の波に入ると、なんだか俺たちを中心にざわめきが増していっているような気がした。
「ちっ、父上……!」
歩きつつダストがそろそろと近づいてきて俺に耳打ちした。
「道行く人々がこちらを振り返ってくるようなのですが、本当に魔族とばれていないのですか?絶対怪しまれてますよ」
「ううむ、大丈夫だと思うんだが」
言いつつ、人々を観察する。
こちらに注目しているのは、女性がほとんどだ。
道行く女性たちの熱を持った視線が、主にダストに集まっているのだった。
「ああ……」
そういうことか。
「お前がイケメンすぎるだけじゃないか」
たしかに、人間界の造形としては、ダストは美しい部類に入るな。
加えて、魔王としてのカリスマ性もある。
「どういうことです?」
「人間の女からしたら、お前はかなり魅力的に見えるということだ」
「は?何言ってるんですか。この弱そうな状態で?嘘でしょう?」
ダストは信じられないといった風だ。
まあ、魔界じゃ強さが一番のステータスみたいなところあるからな。
「人間界じゃ見た目のいい奴の方がモテる」
「なんですかそれ、人間の美的感覚でってことですか」
「そういうことだ」
「そんなメリット少なそうな方向に需要があるとは…………もしかして父上とか人間にとっては怖いだけなのでは?」
「それを言うな!あとちゃんと強さにも需要はあるぞ!」
言い合いをしていると、ラミナが何かを見つけてリィサの手を引いて歩き出した。
歩いた先には、一人のパン売り――マヤがいた。
「あっ、ラミナさん!コーラルさんも!」
マヤがラミナたちと一緒に元気にこちらにやってくる。
ちょうどいい。マヤに魔王のことを聞いてみるか。
つまり、こいつらの言っている『魔王』とは誰なのだ?
いや、考えるより、確かめた方が早いか。
俺は魔王ダストの首根っこをつかんで、男二人の前に出した。
「こいつの顔に見覚えは?」
「はあ?知らん!」
男たちは口をそろえて魔王ダストを全力否定する。
「知らんのか」
「知ってたら逆に驚きですよ」
ダストはかなり不本意そうだ。
「じゃあ魔王とは誰だ?どのような奴だ?」
「それも、知らん」
と男たちは言った。
「知らん?」
「俺たちは末端だから……『魔王様の直属の部下』といわれている人物にしか会ったことはない」
「直属の部下だって?」
俺は汗ばむリィサの顔を見た。
冷汗じゃない。普通に疲れてにじみ出ている汗だ。
リィサは少し体を動かしただけなのに、すでに息が切れてきていた。
「いや私じゃないですって」
だよな。
引きこもりのこいつに魔界と人間界を行ったり来たりするようなフットワークがあるはずない。
「もしこいつらの言うことが本当だとして、魔王軍にいるか?こっそり人間界に来て何かしら企みを働かせるような『魔王の部下』が」
「百パーセントないと言えないのがつらいですが」
まあ、普通に考えてないだろうな。
そもそも簡単に世界間転移ができるような魔力を持っている奴は今ここに集結している。
「その魔王の部下にはまた会うのか?」
「ふ、二日後に素材を引き渡す約束をしているが……」
「素材とは、その古い羊皮紙に書かれているものでいいのだよな?」
「あ、ああ……」
羊皮紙には、『獣の肉』のほかに『マンドラゴラ』『ベラドンナ』『オダマキ』と書かれている。
……どこかで聞いたような単語だが、何なのかはわからない。
まだこちらの物でも知らない物はたくさんあるな。
「で、何の素材なのだ?」
「何に使うかなんて、俺たちには知らされてないからわからない……」
男は言ってから、ハッとして首を振った。
「いや、あんたを恩人だと思ってしゃべりすぎた。これ以上は……」
「ああ、よいのだ。ありがとう」
俺は言うと、黒猫に向き直った。
「猫よ、お前の仲間は、すでに殺されてしまったらしい」
黒猫は、やはり警戒して近づこうとしない。
だが、俺の言葉を聴いているかのように、耳をピクリと動かした。
「どうだ?一人身になってしまって、お前の家もこんなになってしまった。うちに来る気はあるか?」
黒猫は澄ましたように動きを止める。
それから尻尾を垂らして、やや姿勢を低くしながら、俺たちに背を向け、歩き出した。
「フラれましたか」とダスト。
「……まあよいさ」
黒猫がその場を後にすると、
「俺たちも行こう」
俺たちも男たちに別れを告げて、歩き始める。
行く先は、城下町ラール・プラエスだ。
魔王の部下を自称する男たちは、このまま泳がせることにする。
「……リィサ、覚えたか?」
「ええ、あの男のひとたちの魔力ならいつでも追えますよ」
リィサの顔についている複数の邪眼が、うっすらと開いた。
普通の人間もほんの少しだけ魔力を持っている。
魔法が使えないほど微弱で、普通の魔族には感知できないほどだが、リィサは別だ。
魔界一の捕捉能力を持つ彼女なら、微弱でも十分。
「二日後、男たちを追って、魔王の部下とやらを見に行こう。その間に、町で『魔王』について情報を集めてみるぞ」
俺が言うと、ダストはうなずいた。
「……もし『魔王』の名が貶められていたら解せませんしね」
そういうことだ。
どこかのだれかが何をしようが構わんが、魔王の名を使って好き勝手しているのだとしたら、少々水を差してやらねばなるまいよ。
……ということで、俺とラミナはダストとリィサを引き連れて、城下町までやってきた。
「ずいぶん賑わっていますね」
バクルモアティ領随一の賑わいをみせる町である。
昼近くになるにつれ、人々の往来は増していっている。
大通りの出店の方も、元気な人の声が飛び交っていた。
そして、飛び交うのは、人々の声だけではない。
「ここには様々な情報も飛び交っている。噂に上っているようなら、『魔王』の情報の一つや二つ容易く手に入るだろうさ」
まあ、少々工夫は必要だろうがな。
「こ、こわっ。密度、密度がやばいです……!」
震える声のリィサは、人込みを前に俺の背中に隠れた。
構わず歩き始める。
「……ん?」
俺たちが人の波に入ると、なんだか俺たちを中心にざわめきが増していっているような気がした。
「ちっ、父上……!」
歩きつつダストがそろそろと近づいてきて俺に耳打ちした。
「道行く人々がこちらを振り返ってくるようなのですが、本当に魔族とばれていないのですか?絶対怪しまれてますよ」
「ううむ、大丈夫だと思うんだが」
言いつつ、人々を観察する。
こちらに注目しているのは、女性がほとんどだ。
道行く女性たちの熱を持った視線が、主にダストに集まっているのだった。
「ああ……」
そういうことか。
「お前がイケメンすぎるだけじゃないか」
たしかに、人間界の造形としては、ダストは美しい部類に入るな。
加えて、魔王としてのカリスマ性もある。
「どういうことです?」
「人間の女からしたら、お前はかなり魅力的に見えるということだ」
「は?何言ってるんですか。この弱そうな状態で?嘘でしょう?」
ダストは信じられないといった風だ。
まあ、魔界じゃ強さが一番のステータスみたいなところあるからな。
「人間界じゃ見た目のいい奴の方がモテる」
「なんですかそれ、人間の美的感覚でってことですか」
「そういうことだ」
「そんなメリット少なそうな方向に需要があるとは…………もしかして父上とか人間にとっては怖いだけなのでは?」
「それを言うな!あとちゃんと強さにも需要はあるぞ!」
言い合いをしていると、ラミナが何かを見つけてリィサの手を引いて歩き出した。
歩いた先には、一人のパン売り――マヤがいた。
「あっ、ラミナさん!コーラルさんも!」
マヤがラミナたちと一緒に元気にこちらにやってくる。
ちょうどいい。マヤに魔王のことを聞いてみるか。
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