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第五話 やっと会えた、初恋のひと【SIDE ギルバート・ルフトシュタット】
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夜。
いま、エルマが眠っている。
ベッドに靡くきらりとした銀髪が綺麗だった。
魔素不足は体力を消耗するようだ。
馬車の旅もろくに休めなかった。久しぶりにベッドで眠れるのだから、ゆっくり休ませてあげたい。
起きているときはキッと睨み付けてくる顔も、いまは力が抜けている。
美しい青い瞳が閉じられているのは少し残念だが。
……かわいい。
ピンクの唇にそっと触れる。
さっき、俺は、ここに、キスを。
思い返すと顔がカッと熱くなって、うう、と小さい声で唸ってしまった。
やっと会えた。
エルマの顔を見下ろしながら、二ヶ月前のことを思い返していた。
トラオム聖教会の任務の話が来たのは二ヶ月前。第一騎士団の上司に呼び出された。
騎士と魔術師のバディでトラオム聖教会に潜入するという話だった。
相方の魔術師はまだ決まっていなかった。
「では、エルマ・クラインを推薦します」
後先考えず、俺はエルマの名前を挙げた。
上司はきょとんとして「誰だそれは」と返した。
「同郷の友人です。俺と同じく百八十九期入団生。現在は第六師団に所属しています」
「……友人か」
「はい。魔力も申し分ないですし、何より、信頼できる。彼より一生懸命な人を、俺は知りません」
思ったより熱がこもってしまった。
上司は「わかったわかった」と軽く笑った。
「今回の任務はややこしくなる。バディが信頼できるかは最重要事項だからな。きみがそんなに言うなら、彼が適任なんだろう」
そしてエルマがバディになり、俺は内心ガッツポーズした。
上司に言った言葉に嘘はない。
エルマはいつも自分を卑下するが、同郷、いや、王都に出てからだって、エルマほど魔法が使える人間は少ない。頭の回転も速いし、判断も信用できる。
厄介な任務だろうとエルマとならやり遂げる自信がある。
……まあ、多少は私情が交ざってしまったのは否定できないが。
十五歳で異なる進路に進んで、エルマと会うことはなくなって。
十八歳で、エルマが騎士団に入団したと知って。
それからずっと、再会する機会を待ち望んでいた。
自分から会いに行く勇気は、出なかった。
だって、エルマが騎士を諦めたのは、俺のせいだから。
エルマがマナレギュレータをいれることになったのは、俺のせいだから。
今でも脳裏に、エルマが血だらけで倒れる姿が焼き付いている。
胸から血を流してぐったりとして。急いで病院に運ばれていった姿。
十五歳の、王立騎士養成学校入学試験の時。
俺がエルマの未来を潰してしまった。
恨まれてもしょうがない。
嫌われてるのだって分かってる。
……でも、どうしても会いたくて。
エルマの責任感を利用するように、俺は任務にかこつけて、呼び出した。
その結果がこのざまだ。
何が原因か分からないが、エルマは魔法が使えなくなってしまった。
魔素不足は環境が変わったストレスや、メンタルの不調も原因になり得る。
……もしかしたら、俺のせいかもしれない。
ぎり、と歯を強く食いしばる。
俺のワガママで、またエルマを危険にさらしている。
守るって決めたのに。
ごめん、と、何度繰り返しても足りない。
でも、絶対守るから。今度は絶対、傷つけさせないから。
柔らかい頬をそっと撫でた。
白くてまろい頬は、吸い付くようになめらかで。
ぎゅっと胸が締め付けられた。
ずっとずっと、恋焦がれていたひと。
やっと会えた嬉しさと、巻き込んでしまった罪悪感と。
キスができるという期待と、心配してしまう焦燥感と。
いろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざって。
今にも溢れてしまいそうだった。
いま、エルマが眠っている。
ベッドに靡くきらりとした銀髪が綺麗だった。
魔素不足は体力を消耗するようだ。
馬車の旅もろくに休めなかった。久しぶりにベッドで眠れるのだから、ゆっくり休ませてあげたい。
起きているときはキッと睨み付けてくる顔も、いまは力が抜けている。
美しい青い瞳が閉じられているのは少し残念だが。
……かわいい。
ピンクの唇にそっと触れる。
さっき、俺は、ここに、キスを。
思い返すと顔がカッと熱くなって、うう、と小さい声で唸ってしまった。
やっと会えた。
エルマの顔を見下ろしながら、二ヶ月前のことを思い返していた。
トラオム聖教会の任務の話が来たのは二ヶ月前。第一騎士団の上司に呼び出された。
騎士と魔術師のバディでトラオム聖教会に潜入するという話だった。
相方の魔術師はまだ決まっていなかった。
「では、エルマ・クラインを推薦します」
後先考えず、俺はエルマの名前を挙げた。
上司はきょとんとして「誰だそれは」と返した。
「同郷の友人です。俺と同じく百八十九期入団生。現在は第六師団に所属しています」
「……友人か」
「はい。魔力も申し分ないですし、何より、信頼できる。彼より一生懸命な人を、俺は知りません」
思ったより熱がこもってしまった。
上司は「わかったわかった」と軽く笑った。
「今回の任務はややこしくなる。バディが信頼できるかは最重要事項だからな。きみがそんなに言うなら、彼が適任なんだろう」
そしてエルマがバディになり、俺は内心ガッツポーズした。
上司に言った言葉に嘘はない。
エルマはいつも自分を卑下するが、同郷、いや、王都に出てからだって、エルマほど魔法が使える人間は少ない。頭の回転も速いし、判断も信用できる。
厄介な任務だろうとエルマとならやり遂げる自信がある。
……まあ、多少は私情が交ざってしまったのは否定できないが。
十五歳で異なる進路に進んで、エルマと会うことはなくなって。
十八歳で、エルマが騎士団に入団したと知って。
それからずっと、再会する機会を待ち望んでいた。
自分から会いに行く勇気は、出なかった。
だって、エルマが騎士を諦めたのは、俺のせいだから。
エルマがマナレギュレータをいれることになったのは、俺のせいだから。
今でも脳裏に、エルマが血だらけで倒れる姿が焼き付いている。
胸から血を流してぐったりとして。急いで病院に運ばれていった姿。
十五歳の、王立騎士養成学校入学試験の時。
俺がエルマの未来を潰してしまった。
恨まれてもしょうがない。
嫌われてるのだって分かってる。
……でも、どうしても会いたくて。
エルマの責任感を利用するように、俺は任務にかこつけて、呼び出した。
その結果がこのざまだ。
何が原因か分からないが、エルマは魔法が使えなくなってしまった。
魔素不足は環境が変わったストレスや、メンタルの不調も原因になり得る。
……もしかしたら、俺のせいかもしれない。
ぎり、と歯を強く食いしばる。
俺のワガママで、またエルマを危険にさらしている。
守るって決めたのに。
ごめん、と、何度繰り返しても足りない。
でも、絶対守るから。今度は絶対、傷つけさせないから。
柔らかい頬をそっと撫でた。
白くてまろい頬は、吸い付くようになめらかで。
ぎゅっと胸が締め付けられた。
ずっとずっと、恋焦がれていたひと。
やっと会えた嬉しさと、巻き込んでしまった罪悪感と。
キスができるという期待と、心配してしまう焦燥感と。
いろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざって。
今にも溢れてしまいそうだった。
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