【BL大賞、奨励賞受賞】嫌いなバディとキスをする!? ~ふたりきりの任務で再会したのは初恋の幼馴染でした~

mei@ネトコン13受賞

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第二十一話 昔の距離に戻りたかった

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「今日は書庫でアインホルン司祭の地元について調べてみたんだけど、なんか不発だったな。ギルバートは?」
「そうか。俺も芳しい進捗はない。ベルトラム司祭は多分シロだ。あんな保守的なヤツが教会にたてつくとは思えない」
「だよなー。やっぱアインホルン司祭に戻るんだよな」

軽口を叩くように一日の進捗を話していた。
トラオムに来てもうすぐ二週間になる。
ギルバートとお菓子を囲んで意見を交換するのは楽しかった。
任務なのに楽しいとか考えてちゃいけないんだろうけど、この時間があるから一日の緊張がほぐれるところもあった。

今日、久しぶりに泣いたからだろうか。
いつもはギルバートに向き合うとイライラとモヤモヤが同時に込み上げてくるのに、気分は晴れていた。
……あの事故が起こる前の、俺たちの距離に戻れたみたいだった。


一通りの会議を終える。
いつもなら”緊急避難の魔素供給”をして、寝るところだけど。

「なー。暇だろ、ギルバート」
「……暇、だけど」
「ちょっと昔話しようぜ」

俺は、ベッドに入り込もうとしたギルバートの隣に座った。
昔、お泊まり会をしてたときは、夜更かしすることがたくさんあった。
カードゲームをして、くだらないことを喋って、一緒のベッドで寝落ちして。
もう一回、あのときに戻りたかった。

「いい、けど。……珍しいな」

ギルバートは目を丸くしていた。
いつもはツンケンしている俺がこんなことを言い出すからか、少し身構えていた。
俺が気にせずに「そっちつめて」とギルバートを押すと、しぶしぶスペースを空ける。
子どもの頃は余裕があったけど。
さすがに立派な騎士様とひとつのベッドで寝るのは狭かった。

「トランプでもあればなー。なんか遊ぶもんない?」
「……ない。この時間だと店もやってないな」
「そこまでしてやりたいわけじゃないけど」

はは、と笑いかけると、ギルバートは「そっか」と小さく呟いた。

「……昔話って、何を話したいんだ。議題は」
「議題って。別に。あんま考えてねーけど。昔はこうやってお泊まりしたじゃん。懐かしいなって」
「………ああ」

ふたりして狭いベッドに寝転ぶ。
ギルバートは少しだけ口元をほころばせていた。
俺の髪をそっと撫でて整える。手つきも変わらない。優しくて、落ち着く。

「エルマが勝つまで終わらない神経衰弱とかな」
「あー、あの日な。結局朝方までやってたよな」
「さすがに俺も後半は半分寝てた。エルマはずっとおしゃべりが止まらないし、早く勝ってくれよって祈ってた」

ひど、と笑うと、ギルバートも声を出して笑った。

「あとあれ。ギルバートがおばさんにめっちゃ怒られてたことあったじゃん。あれなんだったの」
「あー……。あれは、………その………」

ギルバートは顔を赤くして視線を泳がせる。
いつもは穏やかなギルバートのお母さんが、すごい剣幕で怒っていた。
いまでも記憶に残っている。

「昔、結婚式ごっこ、したとき」
「あー」
「……母上の指輪を持ち出して、怒られた」

あははっ、と声を出して笑うと、ギルバートは赤い顔で睨んだ。

「あれはエルマが持ち帰ってたんだ」
「あ、まじ? ゴメン。あれ? 俺、返したよな」
「返してもらったけど……。翌日だったからな。怒られたのは変わらない」
「ごめんって」

はぁ、とギルバートはため息を吐く。
言ってくれればよかったのに。言ってたかもしれないけど。
それから俺たちは些細なことも話した。
もうほとんど忘れてるようなこととか、忘れたいくらい恥ずかしいことも。

ギルバートの横顔を、気づかれないように見つめた。
スッと通った鼻筋、やや伏せられた長い睫毛。
ぎゅっと胸が締め付けられる。

(やっぱり、まだ、好きだ)

大嫌いだとか、散々言ってきたけど。
俺の初恋は継続中だったらしい。
認めると、楽でもあって、苦しくもあった。


だって、認めたって、俺たちはもう、対等な関係には戻れない。


脳裏には、まだあの”事故”がこびりついている。
ギルバートもそうなのか、たくさん昔話をしたのに、あの日のことは話題に出さなかった。

俺はルフトシュタット家に借金をしている。
マナレギュレータは高価で、しかも定期メンテナンスが必要だから、費用もかさむ。
騎士と魔術師、貴族と平民、だけじゃない。
昔はなかった明確な上下関係。

こんな身の程知らずの恋なんて、さっさと捨てられたらいいのに。
いや、捨てたはずなのに、捨てられてなかったみたい。
ずっと心に刻まれて消えてくれない。

(……さっさと、諦めさせてくれよ)


「エルマ」
「んー?」

ぼーっとしていたからか、ギルバートが心配そうな顔で俺を見つめる。

「眠いか?」
「あー、まあ。それなりに」
「じゃあ、き、”緊急避難の魔素供給”を、そろそろ」

ギルバートはやや言いづらそうに言葉を紡ぐ。
”キス”って言えばすぐなのに。俺が言ったことを律儀に守っている。

こういうとこ、変わらない。
俺のしょうもないワガママを聞いてくれるとこ。
文句があっても俺の反撃が来るからか、黙って言うこと聞いちゃうとこ。
こういうとこも、好きだったりする。

ギルバートが俺の頬に手を添えてキスをしてきた。
ベッドに寝転がりながらキスするなんて、そういう関係みたいじゃん。
舌が絡んで、唾液が垂れる。
布団の中は体温で温められて熱いくらいだ。
はぁ、と、零れる吐息は不思議とうわずってしまって。
ベッドの木枠が軋む音が、ちょっとやらしい。

しばらくキスをして、唇が離れた。
上気した頬に気づかれないように、手で拭うふりをして顔を背ける。


任務のキスじゃなかったら、どれだけ幸せだろう。
こんなに交わっても、気持ちは交わっていないみたいで。

胸がぎゅっと、痛くなった。
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