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ダーヴィッツ

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1章 『国崩し』

ゼロ

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ここはとある国、建国500年の歴史を持つ世界の中心ガルサルム王国だ。世界の面積約17%を国土に占有している、といえばその大きさが想像出来るだろうか。
この世界では、外部から未開拓の島が寄せ集まり大陸を形成している。この国も元々は小さな村だったらしいが、500年という年月をかけて、今の大きさになったそうだ。その間に幾度となく争いが起こり、いつしか国を名乗るようになってからは、利権を握る『王』が何代にも渡ってガルサルム王国を統治してきた。やがて、『ガルサルム騎士団』という組織が設立され、国の治安維持を司るようになる。内政は『貴族』と呼ばれる『王』に近い者が各領土を任され、その地の統治、技術開発、さらには教育、騎士団入隊への訓練などを行なっている。
最終的に『王』が国の方針を示すのだが、反対する者も少なくない。『王』を討つために『貴族』が徒党を組んでいるという黒い噂もある。だからこそガルサルム騎士団は治安維持を行う。騎士団そのものが『王』の力を誇示するための抑止力なのだ。騎士団がある限り『王』はガルサルム王国を統治することが出来ている。

ーそんな国で俺は王の命令でクーデターを起こす。

ガルサルム王国の中心に構えているのはヴィンセント城。建国の時からその姿は変わっていないそうだが、聞いた話だとこの世界の領土はそもそも大きな乗り物であり武器らしい。

ーまったく意味が分からない。

領土にはそれぞれ古(いにしえ)より武器があり、その武器が領土の起源である。王は武器で領土を護る。その武器が折れれば国は崩壊する。つまり、国は武器であり、民を住まわせる領土であり、王の力の大きさを体現する国宝ヴィンセントなのだ。我々はこのヴィンセントという大きな領土に暮らしていり。王が敗れた時は国の崩壊を意味する。

そして、今。そのヴィンセント城の王室で、この国の13代目レックス・ガルサルム・シュトナイザーは重く呟いた。

「国を崩す」

金髪の美青年、という表現で合っているだろうか。王と呼ぶにはあまりに若いのだ。そんな第一印象だったが、発せられた言葉1つ1つから国を憂う重圧感を感じる。

「この国は大きくなり過ぎた」と王は続ける。
夜だからなのか、昼間に身につけている王衣は纏わず、上質な寝間着の上に白いローブを着ている。瞳は大地のような茶色がかっていて、その視界には3人の騎士が映っていた。

「レックス。思い悩むことはないさ。事態は収束に向かっている。代わりの船が見つかるまでに例の抑止力を見つけるだけだろう」

重たい空気を打ち消す明るい声の持ち主は、俺の所属するガルサルム1番隊隊長、『白龍』のシュバ。レックス王の懐刀であり、王が幼い時から唯一無二の親友だそうだ。今思えば、この2人と話しを出来ているこの状況はなかなか身に余る。歳は30代らしい。赤髪の短髪に白いメッシュが入った髪型の彼は俺の憧れの人だ。
ガルサルム騎士団は5つの部隊で構成されている。王より賜わりし2つ名を持った隊長を筆頭にガルサルム王国の統治を行っているのだ。各隊長は属性を司るスペシャリストで、その色によって2つ名は決められた。
『白龍のシュバ』
『桃源のベガ』
『紫苑のレム』
『黒凪のレイ』
『森羅のブルーム』

これら5つの隊長がガルサルム騎士団に所属する何百万人の『隊員』を指揮し、各地方を治める『貴族』『領主』『管理人』を警備している。治安維持に加えて、外部からの外敵、国内のテロなどを未然に防ぐのが目的だ。というのは便宜上だが。

「まさか、王や隊長がクーデターを計画しているなんて誰が思うんですかねぇ」

俺はこれから起こそうとすることを確かに理解しながらも、スケールがデカすぎて笑ってしまう。そう、部隊長である俺が何故こんな会に混ぜて貰えているのか未だにわからない。下から階級を数えた方が早い俺の階級は末端もいいところだ。上司はたくさんいるし、俺より適任な奴はごまんといたろうに。

「発言には気をつけろゼロ」

冷たく言い放つのはもう1人の男『黒凪』のレイ隊長だ。黒衣のコートに銀髪の男は壁に愛刀と共にもたれながら眼を閉じている。シュバ隊長とも互角に渡りあったことがある確かな実力者。レイ隊長はスっと眼を開けると俺と眼を合わせた。

「軽々しいその発言がこの計画を無にする」

この隊長、正直苦手だ…。怖い・黒い・暗いの3Kを揃えている上に、俺への当たりがやたら強い。かと思えば別部隊の俺に戦闘の指導をしてくれたり、スキルの修得に付き合ってくれたりとよく分からない人だ。まぁ、おかげで人生初、部隊長昇格条件の属性発現、炎属性を発現出来たし、それはそれでいいんだけど。
良い人なのか悪い人なのかはともかく、実力は折り紙つきだ。共に訓練したからこそ分かる。何千人が束になってもきっと適わない。俺がどんな血のにじむ努力をしても届かない絶対的な存在。ガルサルム王国最高戦力の一角なのだ。

(なんなんだよまったく)

改めて現在の自分が置かれている状況を再確認したい。ガルサルム騎士団が誇る最高戦力の隊長が2人と、理(ことわり)が認めた者に与えられる現世界『最強』の称号保持者、『金獅子』のレックス王。その王室に何故かいるのは、最近まで平隊員だった俺。ゼロだ。
騎士団に入ろうとした理由は忘れたが、今ではシュバ隊長のようになりたいと強く思う。いつか、俺も隊長格になってこの国に貢献出来るようになりたい。俺はこの国が好きだ。レックス王が護ってきた歴史あるガルサルム王国。

そんな国でクーデターを起こす計画を聞いたのは数日前で頭の整理がまだ出来ていない。そうだ、そもそも歴史あるガルサルム王国で、王自らがそうしなければならない理由を改めて聞いておかなければならない。

「あのー、改めてなんですが、今回の計画を教えていただいてもよろしいでしょうか」

後ろでレイ隊長の溜め息が聞こえた気がした。


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