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ダーヴィッツ

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1章 『国崩し』

三賢人フェイムス

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先代国王グランギューレ王とは旧知の仲だった。ヤツが先々代から王位を継承した時に、摂政役だったオレが政治事のいろはを教えていた。『貴族』と言えど色んなヤツがいるもんだ。王族に尽くす者、利権や金に執着する者、野心を抱く者。グランギューレ王が死んでから、国内情勢はしばらくガタガタだった。統一されていた貴族間の規律が綻(ほころ)び始め、王位を引き継いだ若きレックス王に余計なことを吹聴するヤツまで現れた時はまいったぜ。

ーーレックスは若すぎた。

王の資質はある。器もある。だが、国を動かすことに関してはド素人だ。それを分かってる『貴族』はレックス王を利用しようと近づいてくるだろう。ましてや現状ガルサルム王国の課題は先代国王ですら手に余っていたんだ。ヴィンセントの容量オーバーの件は、一朝一夕で解決出来るような問題じゃあねぇ。

ーーだが、あのレックスにクーデターの計画をもちかけられた時は驚いたもんだ。まさか、あの甘ちゃんがここまで考えていたとはな。

「おっと、この部屋だった」

ボーッとしちまった。俺は扉の前で軽くノックすると、少し間をおいてシュバが顔を出す。

「こんばんはフェイムス。誰かにつけられなかったかい?」
「バーカ。俺をいくつだと思ってんだ」

シュバを奥に押しやり、部屋の中に入る。その場には4人の男がいた。『銀龍のシュバ』『黒凪のレイ』『金獅子のレックス』そして……。

「そいつが例のガキか」

王と2人の騎士団長に加え、もう1人茶髪の短髪の青年がその場にはいた。隊服や胸の勲章を見る限り、騎士団の末端だ。このメンツの中で場違い感が否めない。だが、コイツが計画の軸だ。

「あんたは、『貴族』のフェイムス・リーグか?」

茶髪短髪の青年と目が合う。ほう、俺を知ってるのか。年齢的には娘のサナくらいだろうか。

「そうだよ。ゼロ。彼には今回の計画に参加してもらう。キミたちの引率だ」
「ガキのお守りかよ……」

シュバが紹介したが、紹介の仕方が違う気がする。

「時間が惜しい。始めようか」

レックスが切り出す。

「此度(こたび)の件は限られた者しか知らない。この場にいる選抜隊を筆頭にヴィンセントの確保、内通者の討伐、『核(フレア)』の回収を行う」
「ヴィンセントの宛はあるぜ」

俺はレックスの話を遮り、口を挟む。

「ガルサルム南東部から国境を跨(また)いだ所に前世界で使用された巨大なヴィンセントがある。昔の大戦で使われた巨艦だ」
「ガルサルム王国を支えられるのか?」
「まず勘違いしてるようだが、今のヴィンセントも元々は村規模の領土だった。それが巨大な国家を支えられて来れたのは使用者の器も関係しているのさ。レックスお前や、グランギューレのような者がいたからこそ、その大きさを保つことが可能だったんだよ」
「なるほど、元々普通のヴィンセントだったけど、使用者、つまりは王の器にガルサルム王国は支えられていたんだね」
「そうだ。だが、同じ使用者でも使うヴィンセントが異なれば、その容量も増える。今回狙っているのも上等なヴィンセントになる。いわゆるバージョンアップってやつだよ」

そこまで話すと、俺は立っているのが疲れたので王室のソファに腰掛け脚を組む。相変わらず上質な家具がいっぱいだなここは。

「しかし、そのようなヴィンセントが手付かずになっているのは何故だ。強豪国が知れば、すぐにでも飛びつきそうだが……」

レックスは疑問を呈した。
そう。問題はそこだ。

「あそこには星の守護者(ガーディアン)がいる」

バルトロ討伐以降、星の守護者(ガーディアン)の存在は世界に知れ渡った。いや、正確には再確認されたと言うべきか。これまでも国家レベルの脅威的なモンスターはいたのだ。その数12匹。しかし、こちらからそのモンスターの領地に入らない限り何もしてこなかったため、ガルサルム王国は警戒だけはしていた。だが、どうやらその12匹が星の守護者(ガーディアン)だったらしい。昔からの伝説で信仰されているのが『十二支伝説』だ。鼠、牛、虎、兎、竜、它、馬、猿、鳥、犬、猪。前世界からの化物を神と崇め奉っているのが信仰宗教『十二支教』。一般の家庭にも普及しているノーマル宗教で、別に害のある宗教ではないが、どうもそういうのは苦手だ。

「そいつを突破しないとヴィンセントの入手は困難だぜ」
「わかった。星の守護者(ガーディアン)については未だ不明確だ。情報が集まり次第、そちらに向かい作戦をたてよう」

レックスが静かに頷く。

「まず新たなヴィンセントの確保が急務だ」

レックスは続ける。

「今のヴィンセント、ガルサルムからも各地の不安定さが伝わってくる。恐らく、これ以上の領土が増えると限界を超え、ガルサルムは形を保てなくなり綻(ほころ)ぶだろう」
「じゃあ、計画通り俺たちはヴィンセント回収に向かえばいいんだな?」

俺はレックスに問う。星の守護者(ガーディアン)がいるにしても、現状空きがあって、手付かずになっているヴィンセントはアレだけだ。

「そうだ。フェイムス、ゼロ、レイにはヴィンセントの回収に向かってもらう。私は王政を行いながら、ガルサルム騎士団に指示を与えて外敵の牽制を行う。新たな情報があれば共有しよう。そしてシュバには国内の反乱因子を突き止めてもらう」
「ヴィンセントを回収するまでは分かるんですが、クーデターを起こす必要が本当にあるんですか?」

話について行けてないゼロが口を挟む。

「ヴィンセント回収だけなら、そもそもガルサルム騎士団が行けば確実じゃありませんか?わざわざ内輪で争わなくても、最低目標は達成できませんか?」

このメンツに物怖じしないのはいいが、事態の深刻さはそんなレベルではない。

「そうだな。その通りだよゼロ。先にその話をしなければならなかったな」

レックスが苦笑して、視線を落とす。それ以外の者の顔が暗くなる。しばらく考え、意志を決めたように顔をあげた。

「ヴィンセントを回収次第、君達はガルサルム王都に戻って、私と闘ってもらう」

ゼロは目を丸くした。

「はい??」
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