上 下
96 / 105
コーラルピンク

4. アイデンティティ

しおりを挟む



ー …  in the case of  エリー  …



デスクで仕事をしながら、
エリーは
座っている椅子を少しだけ引いた。

デスクの下にある、自分のつま先を見る。

「 ふふっ 」 自然と、笑みが零れた。


控えめなスモーキーピンク色の、
シンプルな DIANA の パンプス。
ヒールは 9cm もあり、
ちょっと視界が高過ぎるけれど、

それでも 良かった。

デスクの引き出しを開けると、
小さなメッセージカードが
すぐに目に留まる。


【 エリーが  ステキな靴を履いて

前を歩いていけますように 】


決して、綺麗な字ではないけれど、

それでも 良かった。


「 大人なのに、小学生みたいな字。

ふふっ 、可愛いなぁ。」


引き出しを閉めて、
エリーはまた
パソコン画面に目を向ける。


「 誰が、小学生なの?」


エリーのすぐ後ろから、声が聞こえた。

顔だけ軽く振り返ると、

レントが にっこり微笑んで立っていた。


「 何でもないよ♪」

エリーも、レントに負けないぐらい
綺麗な笑顔を浮かべる。

「 エリー、今日 お誕生日でしょ 」

レントは そう言うと、

可愛くラッピングされた
手のひらサイズの袋を手渡した。

「 えっ! ありがとう♪ 嬉しいな 」

顔の前で両手を合わせてから、
エリーは 小さく拍手をする。


「 気に入ってくれると、俺も嬉しい 」


「 うん。ありがとう!

レントは、いつも優しいね。

みんなの誕生日を覚えてくれて、

みんなにプレゼントを毎年渡して。」


「 俺が勝手に、

好きでやってる事だから。」


エリーは、彼の目の前で
プレゼントをゆっくりと開けた。


「 わぁ~♪ 可愛い! 

こういうの好きなの! ありがとう♪」


エリーは袋から、

コーラルピンク色のガラス鉢に入った、
小さなドライフラワーを取り出した。


「 良かった! 喜んでくれて 」

レントは、ホッと安心した顔をする。


「 お花は綺麗だけど、

すぐに枯れちゃうから 寂しいの。

でも、ドライフラワーなら、

ずっと 綺麗なままだもんね♪

私、ドライフラワーが大好きなんだ 」


鼻歌まじりに、エリーは
デスクの上に ドライフラワーを飾った。


「 エリーのデスクの上は、

女の子らしい物ばかり溢れてるね 」

レントは 笑った。


「 だって、

いくつになっても 女の子だもん♪」


「 … いくつに、なったんだっけ?

あっ、女性に年齢を聞くのは失礼かな 」


「 失礼じゃないよー、平気 平気♪」


エリーは、レントが選んでくれた

小さくて可愛いドライフラワーを見つめ、

それから 

座っている椅子の向きを くるりと変えた。

レントの顔を見つめて、




      「 24だよ 」 と 、微笑んで 。




しおりを挟む

処理中です...