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コーラルピンク

8. アイデンティティ

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「 ジルさんの紹介です。3名です 」


ショーパブ 【 ブラックダイヤモンド 】
の入り口に着くなり、
エリーは にこやかな笑顔で、
受付の係員に そう伝えた。

レントと新は、不思議そうに
互いに顔を見合わせる。


少しの間、
談笑をしながら3人で待っていると、

新とレントよりも遥かに背の高い、
外国人顔の たくましい女性が、
エリーの前に現れた。

エリーの目は、
解りやすいぐらいに、一瞬で 光り輝く。


「 ジルさん?!」


両手の指を 顔の前で絡ませながら、
お祈りのポーズで聞くエリーに、

「 あなたが、エリー?」 と、

ジルさんは、
エリーの顔を見て 一瞬驚いてから、
嬉しそうに微笑んだ。

とても、ホッとしたような
安心感溢れる顔で。


「 はい! 私です! エリーです!

今日は、お友達も連れてきました!

ジルさん… 、やっと お会い出来た… 」

感極まって、
泣きそうになっているエリーに、

高身長なジルさんは、
大きな手のひらで エリーの頭を撫でる。


「 こんなに可愛い女の子が、

あんなに可愛い… 、優しい手紙を

毎週 書いてくれてたなんて。感動よ!

抱きしめてもいい?」


エリーは、子供のように大喜びし、

「 はいっ! 是非! お願い致します!」

と、自分から両腕を広げて、

ジルさんに体当たりで 抱きついた。


「 あははっ、面白い子! 可愛いわぁ 」


そんな2人の世界に、
レントと新は どうしていいか解らず、
置いてきぼりな気持ちを
目配せしながら互いに確かめ合っていた。



… ー 


エリーの言う通り、

お金を払う価値のある、

お金を払わないと観られない、

七色以上の 光りまばゆい
舞台の真ん前の席で、

次から次へと移り変わる
ダンサー達のショーを、

エリー達は 楽しみながら観続け、
その 創り上げられた
ストーリー性のあるショータイムに、
どんどん 吸い込まれていった。


新は、もう その時 、


" 自分は何故 生まれてきたのか "


" 自分だけ、どうして 人とは違うのか "


などと、考えなくなっていた。


エリーが教えてくれた、
まだ 見た事がなかった世界に、

何故だか解らないけれど、
何となく…

居心地の良さすら感じていた。


そんな新の横顔を見て、
エリーは、新だけに向けて 呟いた。


「 自分のいるべき場所は、

誰かが 用意してくれる訳じゃないから。

自分で探して、自分で見つけて、

もし 見つかったら、

それを失くさないように

努力して、大切にするしかない。

大切にしても、失う時は 失うから。


そしたら、また 探せばいいよ 」 










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