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~ロクサーヌ王国編~
30.ロクサーヌ国王side
しおりを挟む 影に命じてブランシュ嬢の行動を観察する事にした。
それというのも、あれから何度か息子を会話したがどうも要領を得ない。何がどうしてブランシュ嬢を気に入らないのかが理解できなかった為だ。だが、頭ごなしに言うのは良くないと侍女頭に忠告されたからな。もしかすると私が知らないだけでブランシュ嬢に何かあるのかもしれない。
三ヶ月間観察して思った。
彼女は途轍もなく努力家だ。
私は誤解していた。
ブランシュ嬢は天才肌だとばかり思っていたが、そうではなかった。人の何十倍も努力していた。素晴らしい。
「その努力を外で一切見せない態度は好感しかない」
私は感心して侍従に話した。
誰かとこの思いを共感したかったからだ。
「誠に、ヴァレリー公爵令嬢は素晴らしいです」
「そうだろう」
「ですが、陛下。失礼ながら、その事をユベール殿下にお伝えする事はお勧めできません」
「何故だ?この事をユベールが知ればブランシュ嬢を誤解していたと気付く筈だ。そればかりか、自分が如何に努力を怠っているかを知るだろう。これを機にユベールの教育課程を見直すのも良い機会だ」
「……よけいに擦れます」
「ん?」
「陛下、ユベール殿下も努力なさっております。そこのところは評価してくださらなければ流石に……」
「だがブランシュ嬢に比べて色々と足りていない」
「人にはそれぞれの成長速度というものがございます。それにユベール殿下の年頃は何かと親に反発したくなるものです」
なるほど。
確か侍女頭も「殿下は反抗期ですから」と言っていた。
ある年代に入るとそれが顕著になるとか。息子はその年代らしい。いずれ落ち着くとは言っていたが……それは何時になるんだ?人それぞれと言われたが。ブランシュ嬢にはそういった傾向はみられなかった。
更に気付いたが、ブランシュ嬢は対応が大人だ。
ユベールが彼女の前で癇癪を起こしても同じように癇癪を破裂させる事なく対応している。女の子の方が早熟だと聞いたが本当だ。
「こちらが今日の報告書になります」
「ごくろう」
「はっ!」
最近、ブランシュ嬢の観察報告書を観るのがすっかり日課になってしまった。一日の最後に確認する。
まさかとは思っていたが……。
彼女だったのか。
一連の改革案は。
あの年齢で……。
王国の弱点を知り尽くしている。
ただの思い付きの案などであるものか。
宰相もソレを理解しているのだろう。だからこそ無条件で彼女の提案する改革を推し進めている。どれもこれも早急に解決しなければならない案件ばかりだ。
発想の着目点が他者と違う。
まるで答えが分っているかのように最適解を導き出している。
惜しい――――
彼女が男なら。
あるいは……。いや、考えるのは止めよう。
ブランシュ嬢はこの国の公爵令嬢であり、未来の王妃だ。
私が、そして周囲が用意した道を踏み外す事はない。綺麗に舗装された道を彼女は理解して通っていくだろう。
理解しているから急いでいる。
王家という鳥籠に入る前に。彼女は自分に出来る事をしているだけだ。そしてそれは間違いなく王国に利益をもたらしているのだ。
かの令嬢は、この国の危うさにさえ気付いているのだろう。
息子の婚約者と違い、息子は昔も今も大して変わらない。
何が気に入らないのか分からないが、ブランシュ嬢に突っかかるのを止めなかった。そうして最悪な道を選んだ。ははっ。想像しなかった。まさかユベールが道をはみ出して歩くとはな。
「陛下。日が暮れて参りました」
侍従が迎えに来てくれた。
王城の人数も大分減った。逃げられる者は逃がした。城に残っているのは帰る場所がない者達だけだ。
この国は近いうちに沈む。
いずれ終わりが来るのをただ待つだけだ。
最悪な終わりになるだろう。
そうなる前に、妻と息子を苦しませずに楽園へ送った。
それが私にできる唯一の事だったからだ。
「自由になった鳥は今どこの空にいることやら」
彼女の活躍が見られないのは残念だ。
それというのも、あれから何度か息子を会話したがどうも要領を得ない。何がどうしてブランシュ嬢を気に入らないのかが理解できなかった為だ。だが、頭ごなしに言うのは良くないと侍女頭に忠告されたからな。もしかすると私が知らないだけでブランシュ嬢に何かあるのかもしれない。
三ヶ月間観察して思った。
彼女は途轍もなく努力家だ。
私は誤解していた。
ブランシュ嬢は天才肌だとばかり思っていたが、そうではなかった。人の何十倍も努力していた。素晴らしい。
「その努力を外で一切見せない態度は好感しかない」
私は感心して侍従に話した。
誰かとこの思いを共感したかったからだ。
「誠に、ヴァレリー公爵令嬢は素晴らしいです」
「そうだろう」
「ですが、陛下。失礼ながら、その事をユベール殿下にお伝えする事はお勧めできません」
「何故だ?この事をユベールが知ればブランシュ嬢を誤解していたと気付く筈だ。そればかりか、自分が如何に努力を怠っているかを知るだろう。これを機にユベールの教育課程を見直すのも良い機会だ」
「……よけいに擦れます」
「ん?」
「陛下、ユベール殿下も努力なさっております。そこのところは評価してくださらなければ流石に……」
「だがブランシュ嬢に比べて色々と足りていない」
「人にはそれぞれの成長速度というものがございます。それにユベール殿下の年頃は何かと親に反発したくなるものです」
なるほど。
確か侍女頭も「殿下は反抗期ですから」と言っていた。
ある年代に入るとそれが顕著になるとか。息子はその年代らしい。いずれ落ち着くとは言っていたが……それは何時になるんだ?人それぞれと言われたが。ブランシュ嬢にはそういった傾向はみられなかった。
更に気付いたが、ブランシュ嬢は対応が大人だ。
ユベールが彼女の前で癇癪を起こしても同じように癇癪を破裂させる事なく対応している。女の子の方が早熟だと聞いたが本当だ。
「こちらが今日の報告書になります」
「ごくろう」
「はっ!」
最近、ブランシュ嬢の観察報告書を観るのがすっかり日課になってしまった。一日の最後に確認する。
まさかとは思っていたが……。
彼女だったのか。
一連の改革案は。
あの年齢で……。
王国の弱点を知り尽くしている。
ただの思い付きの案などであるものか。
宰相もソレを理解しているのだろう。だからこそ無条件で彼女の提案する改革を推し進めている。どれもこれも早急に解決しなければならない案件ばかりだ。
発想の着目点が他者と違う。
まるで答えが分っているかのように最適解を導き出している。
惜しい――――
彼女が男なら。
あるいは……。いや、考えるのは止めよう。
ブランシュ嬢はこの国の公爵令嬢であり、未来の王妃だ。
私が、そして周囲が用意した道を踏み外す事はない。綺麗に舗装された道を彼女は理解して通っていくだろう。
理解しているから急いでいる。
王家という鳥籠に入る前に。彼女は自分に出来る事をしているだけだ。そしてそれは間違いなく王国に利益をもたらしているのだ。
かの令嬢は、この国の危うさにさえ気付いているのだろう。
息子の婚約者と違い、息子は昔も今も大して変わらない。
何が気に入らないのか分からないが、ブランシュ嬢に突っかかるのを止めなかった。そうして最悪な道を選んだ。ははっ。想像しなかった。まさかユベールが道をはみ出して歩くとはな。
「陛下。日が暮れて参りました」
侍従が迎えに来てくれた。
王城の人数も大分減った。逃げられる者は逃がした。城に残っているのは帰る場所がない者達だけだ。
この国は近いうちに沈む。
いずれ終わりが来るのをただ待つだけだ。
最悪な終わりになるだろう。
そうなる前に、妻と息子を苦しませずに楽園へ送った。
それが私にできる唯一の事だったからだ。
「自由になった鳥は今どこの空にいることやら」
彼女の活躍が見られないのは残念だ。
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