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とある苦労人side
しおりを挟む宰相とその派閥が軒並み退陣した。政界は機能麻痺寸前。宰相の庇護下にいたエリートの数人は残ってくれたと聞くが大丈夫なのか?
『王家の影』として馬車馬の如く働かされてきた。まあ、俺達影を使うのは主に宰相閣下だったけどな。最近は王太子殿下の要望が多いと聞く。俺の部署じゃないからな。よく分からん。
「アンドレ、頼む。協力して欲しい」
王宮の離れ。
殆どの者達が忘れ去っている離宮。
廃城といっても過言ではないが、ココが王家の影達の部署だったりする。崩れかかった離宮の中は完全に王家の影達によってリフォームされている。その一室で俺に向かって頭を下げている男。俺の同僚だ。ただし部署は違う。
俺と違って優秀な男で、部隊規模を任されている。見習いだった頃はそりゃあ世話になったもんだ。主に現場で。頭は良いし腕も立つ。そのくせ性格もいいときた。何でこんな汚れ仕事の裏方をしているのか分からないようなタイプだった。
「突然、どうしたんだ」
久しぶりに会った男は、何だか一気に老け込んだようだ。窶れてないか?
「宰相が王都を離れた。知っているか?」
「勿論。っていうか、有名な話だろう?一部じゃあ『都落ち』だって囁かれている位だ」
「なら、宰相一派が王都を去った話はどうだ?」
「……それは知らなかった」
「一部の貴族達が騒ぎ始めている」
「何だ? 宰相が攻めてくるとでも?」
幾ら傲岸不遜な宰相閣下でも王都を攻め滅ぼす事なんてしないだろう。リスクが高すぎる。あの妖怪爺は無駄な事はしない主義だ。
「いや……そこまでは。だが、中立だった者達がこの騒ぎに便乗して王家と距離を取り始めた。この数日後には数名が政界から離れる」
元々、中立は少なかったからな。
「誰が辞めるんだ?」
挙げられた名前は中立でも王家寄りが殆どで、俺は首を捻った。
「辞める理由がないだろう?」
王家よりなら、これからの出世に期待できるはずだ。野心家な男なら次の宰相位を狙うはず。
「……今、国王陛下の仕事をこなしているのが誰か知っているか?」
「王太子殿下だろ」
「辞める連中は王太子殿下に懐疑的だ」
「懐疑的?」
「綺麗すぎる」
「ん?」
何の話だ?
話の内容がみえん。
「机上の空論を並べ立てられても実行できない」
あ、なんか分かってきた。
あれだ。若さ故の暴走ってやつだ。
「頭の良い方ではあるが、王太子殿下は政治をしらない。いや、知らなさ過ぎる」
「……周りが意見やら助言やらすればいいんじゃないか?」
「聞く耳を持ってくれないんだ。今まで宰相に抑制されていた反動だろう。自分に合わない政策を持ち出した者を容赦なく閑職に追いやっている」
俺は頭を抱える羽目になった。
宰相閣下という「合理的な独裁者」がいなくなったら、王太子殿下という「お綺麗ごとを宣う素人政治の独裁者」が誕生したんだ。
そりゃあ、中立派は逃げ出す。
どう考えても泥船だ。
沈没する前に船から降りるのは当然だろう。
今は、この人数で収まっているが今後どうなるか分かったもんじゃない。
目の前の男は優秀だ。
きっと王太子殿下の事も外部に一切漏れないように手配済みなのだろう。だから俺も知らなかった。身内でも知っている人間は少ないだろうな。王太子殿下の実態を知れば誰もが我先にと逃げ出すに違いない。
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