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本編
1.寝耳に水の話
僕、ノア・タナベルが恋人と別れる事になったのは、夏が近づく日の事だった。と言っても、本人から別れを告げられた訳ではない。外野からの圧力と寝耳に水の事態に陥ったからである。
「単刀直入に言おう。ここにいるダズリン男爵家のエラ嬢は息子の子供を妊娠している。だから、ライアンとは別れてもらおう」
「こ、こども?」
「ああ、そうだ。彼女の胎にはキング侯爵家の跡継ぎがいる。男の君では侯爵家の世継ぎは到底産めないだろう。私の息子に世間一般の男の幸せを与えられない。ここは潔く身を引くのが筋というものではないか?」
恋人の浮気。
しかも相手の女性を既に孕ませている状況に頭がついていかない。
ライアンの父親の隣に座っている女性。
赤い髪にダークブルーの目をした華やかな容姿は、まるで真っ赤な薔薇のよう。これだけの美人なら男が放っておかないだろうと、現実逃避に陥ってしまった。恋人の浮気相手は申し訳なさそうな表情をしていたが、よく見ると勝ち誇ったように口の端が上がっている事に気が付いた。
ああ、なるほど。これが女の強かさというものかと妙に感心してしまった。
僕が無言でいる事をいいことにキング侯爵の侮辱的発言は続いた。
「息子は彼女と結婚するのだからな。もっとも、君が愛人として息子の傍に留まりたいという希望はないと思ってくれたまえ。産まれてくる子供の環境に悪い事この上ない。愛人が正妻に嫉妬して危害を加えるという事件に発展しないとも限らないからな。キング侯爵家の跡取りの母親である彼女の安寧の為にも、息子の事はきっぱりと諦めてもらいたい」
「あの、お言葉ですが、彼女が本当にライアンの子供を妊娠しているかどうかは分からないのではありませんか?僕は彼女を知りません。この場で初めて会いました。ライアンとも恐らくそれほど親しい間柄という訳でもないでしょう。何しろ、彼は目立ちますからね。外で知人の女性と話していただけでも話題になるほどです。それは、お二人もよくご存じのはず。その上で、まったく話題に上らない女性がライアンの子供を身籠ったこと自体が不可思議です」
というか、ライアンは常々「オレの息子はノアにしか反応しないよ」とか言っていた。それを鵜呑みにするなら彼女のお腹の子供の父親がライアンだとは考えにくい。
「子供が生まれたら一度正式に親子鑑定を受けた方が良いと思いますよ」
「ふん!何を馬鹿げたことを言っているのだ!」
「あ、そうですね。僕の言うことが荒唐無稽なのは自覚しています。ですが、可能性の一つとして考慮しておくべきでは?もし、本当に子供があなたの跡継ぎならば大変喜ばしい事ではないですか。もっとも見ず知らずの赤の他人の子供を跡取りに据えると言うのなら話は別ですが。未婚の令嬢が身籠るだけでも大変な醜聞です。身持ちが悪いと思われても仕方ないでしょう。やっている事が金目当ての商売女がよくやる手口ですから」
僕が指摘すると、それまで偉そうな態度だったキング侯爵が急に黙り込んでしまった。
もしかして今頃気が付いたとか?
貴族令嬢が婚前交渉を行うこと自体がありえない。彼女は本当に貴族なんだろうか?些か疑問だ。
「ふ、ふざけないで!!さっきから黙って聞いてれば何なの?!失礼でしょう!私のお腹の子供は間違いなくライアンの子供よ!!そんなに言うのなら親子鑑定でもなんでも受けてあげるわ!!!」
エラ嬢がヒステリックに叫んだ。
その瞬間、店内の視線が一気に僕達に集中したのを感じた。
まったく。
今、僕達がいるのはカフェだ。人がそこそこいる場所でこんな話をしていれば目立つに決まっている。ライアンの父親も何故この場所を選んだのか。まぁ、僕が偶々ここでケーキを食べていたからなんだけど。
それにしたって、こんな場所で醜聞になる話をする彼女達の神経が分からない。
「単刀直入に言おう。ここにいるダズリン男爵家のエラ嬢は息子の子供を妊娠している。だから、ライアンとは別れてもらおう」
「こ、こども?」
「ああ、そうだ。彼女の胎にはキング侯爵家の跡継ぎがいる。男の君では侯爵家の世継ぎは到底産めないだろう。私の息子に世間一般の男の幸せを与えられない。ここは潔く身を引くのが筋というものではないか?」
恋人の浮気。
しかも相手の女性を既に孕ませている状況に頭がついていかない。
ライアンの父親の隣に座っている女性。
赤い髪にダークブルーの目をした華やかな容姿は、まるで真っ赤な薔薇のよう。これだけの美人なら男が放っておかないだろうと、現実逃避に陥ってしまった。恋人の浮気相手は申し訳なさそうな表情をしていたが、よく見ると勝ち誇ったように口の端が上がっている事に気が付いた。
ああ、なるほど。これが女の強かさというものかと妙に感心してしまった。
僕が無言でいる事をいいことにキング侯爵の侮辱的発言は続いた。
「息子は彼女と結婚するのだからな。もっとも、君が愛人として息子の傍に留まりたいという希望はないと思ってくれたまえ。産まれてくる子供の環境に悪い事この上ない。愛人が正妻に嫉妬して危害を加えるという事件に発展しないとも限らないからな。キング侯爵家の跡取りの母親である彼女の安寧の為にも、息子の事はきっぱりと諦めてもらいたい」
「あの、お言葉ですが、彼女が本当にライアンの子供を妊娠しているかどうかは分からないのではありませんか?僕は彼女を知りません。この場で初めて会いました。ライアンとも恐らくそれほど親しい間柄という訳でもないでしょう。何しろ、彼は目立ちますからね。外で知人の女性と話していただけでも話題になるほどです。それは、お二人もよくご存じのはず。その上で、まったく話題に上らない女性がライアンの子供を身籠ったこと自体が不可思議です」
というか、ライアンは常々「オレの息子はノアにしか反応しないよ」とか言っていた。それを鵜呑みにするなら彼女のお腹の子供の父親がライアンだとは考えにくい。
「子供が生まれたら一度正式に親子鑑定を受けた方が良いと思いますよ」
「ふん!何を馬鹿げたことを言っているのだ!」
「あ、そうですね。僕の言うことが荒唐無稽なのは自覚しています。ですが、可能性の一つとして考慮しておくべきでは?もし、本当に子供があなたの跡継ぎならば大変喜ばしい事ではないですか。もっとも見ず知らずの赤の他人の子供を跡取りに据えると言うのなら話は別ですが。未婚の令嬢が身籠るだけでも大変な醜聞です。身持ちが悪いと思われても仕方ないでしょう。やっている事が金目当ての商売女がよくやる手口ですから」
僕が指摘すると、それまで偉そうな態度だったキング侯爵が急に黙り込んでしまった。
もしかして今頃気が付いたとか?
貴族令嬢が婚前交渉を行うこと自体がありえない。彼女は本当に貴族なんだろうか?些か疑問だ。
「ふ、ふざけないで!!さっきから黙って聞いてれば何なの?!失礼でしょう!私のお腹の子供は間違いなくライアンの子供よ!!そんなに言うのなら親子鑑定でもなんでも受けてあげるわ!!!」
エラ嬢がヒステリックに叫んだ。
その瞬間、店内の視線が一気に僕達に集中したのを感じた。
まったく。
今、僕達がいるのはカフェだ。人がそこそこいる場所でこんな話をしていれば目立つに決まっている。ライアンの父親も何故この場所を選んだのか。まぁ、僕が偶々ここでケーキを食べていたからなんだけど。
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