【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子

文字の大きさ
1 / 52
本編

1.寝耳に水の話

 僕、ノア・タナベルが恋人と別れる事になったのは、夏が近づく日の事だった。と言っても、本人から別れを告げられた訳ではない。外野からの圧力と寝耳に水の事態に陥ったからである。

「単刀直入に言おう。ここにいるダズリン男爵家のエラ嬢は息子の子供を妊娠している。だから、ライアンとは別れてもらおう」

「こ、こども?」

「ああ、そうだ。彼女の胎にはキング侯爵家の跡継ぎがいる。男の君では侯爵家の世継ぎは到底産めないだろう。私の息子に世間一般の男の幸せを与えられない。ここは潔く身を引くのが筋というものではないか?」
 
 恋人の浮気。
 しかも相手の女性を既に孕ませている状況に頭がついていかない。
 ライアンの父親の隣に座っている女性浮気相手
 赤い髪にダークブルーの目をした華やかな容姿は、まるで真っ赤な薔薇のよう。これだけの美人なら男が放っておかないだろうと、現実逃避に陥ってしまった。恋人の浮気相手は申し訳なさそうな表情をしていたが、よく見ると勝ち誇ったように口の端が上がっている事に気が付いた。
 ああ、なるほど。これが女の強かさというものかと妙に感心してしまった。
 
 僕が無言でいる事をいいことにキング侯爵の侮辱的発言は続いた。

「息子は彼女と結婚するのだからな。もっとも、君が愛人として息子の傍に留まりたいという希望はないと思ってくれたまえ。産まれてくる子供の環境に悪い事この上ない。愛人が正妻に嫉妬して危害を加えるという事件に発展しないとも限らないからな。キング侯爵家の跡取りの母親である彼女の安寧の為にも、息子の事はきっぱりと諦めてもらいたい」
 
「あの、お言葉ですが、彼女が本当にライアンの子供を妊娠しているかどうかは分からないのではありませんか?僕は彼女を知りません。この場で初めて会いました。ライアンとも恐らくそれほど親しい間柄という訳でもないでしょう。何しろ、彼は目立ちますからね。外で知人の女性と話していただけでも話題になるほどです。それは、お二人もよくご存じのはず。その上で、まったく話題に上らない女性がライアンの子供を身籠ったこと自体が不可思議です」

 というか、ライアンは常々「はノアにしか反応しないよ」とか言っていた。それを鵜呑みにするなら彼女のお腹の子供の父親がライアンだとは考えにくい。

「子供が生まれたら一度正式に親子鑑定を受けた方が良いと思いますよ」

「ふん!何を馬鹿げたことを言っているのだ!」

「あ、そうですね。僕の言うことが荒唐無稽なのは自覚しています。ですが、として考慮しておくべきでは?もし、本当に子供があなたの跡継ぎならば大変喜ばしい事ではないですか。もっとも見ず知らずの赤の他人の子供を跡取りに据えると言うのなら話は別ですが。未婚の令嬢が身籠るだけでも大変な醜聞です。身持ちが悪いと思われても仕方ないでしょう。やっている事が金目当ての商売女がよくやる手口ですから」

 僕が指摘すると、それまで偉そうな態度だったキング侯爵が急に黙り込んでしまった。
 もしかして今頃気が付いたとか?
 貴族令嬢が婚前交渉を行うこと自体がありえない。彼女は本当に貴族なんだろうか?些か疑問だ。
 
「ふ、ふざけないで!!さっきから黙って聞いてれば何なの?!失礼でしょう!私のお腹の子供は間違いなくライアンの子供よ!!そんなに言うのなら親子鑑定でもなんでも受けてあげるわ!!!」

 エラ嬢がヒステリックに叫んだ。
 その瞬間、店内の視線が一気に僕達に集中したのを感じた。
 まったく。
 今、僕達がいるのはカフェだ。人がそこそこいる場所でこんな話をしていれば目立つに決まっている。ライアンの父親も何故この場所を選んだのか。まぁ、僕が偶々ここでケーキを食べていたからなんだけど。

 それにしたって、こんな場所で醜聞になる話をする彼女達の神経が分からない。




 

感想 40

あなたにおすすめの小説

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。