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16.結婚詐欺
数日後、暫くは目を覚まさないと思われていた被害者女性の意識が戻った。
そのことについては素直に良かったと思ったのだが。
「なに……?詐欺師だと……?」
「はい。結婚詐欺師だったようです」
「待て、一体どういうことだ?」
混乱した。
いや、この場合混乱するなという方が無理だろう。
私だって愚息がどうやって今まで市井で生きてきたのかぐらいは知っている。
あれが付き合う女性の殆どが自立した人ばかりだ。
「それが――」
ブレイクが入手した情報はこうだ。
女性は数年前までは人気の舞台女優だったらしい。
だが、ある時期を境にぱったりと舞台から姿を消した。
「表向きの理由は〝体調不良による長期休養〟と発表されましたが、実際には秘密裏に子供を産むためだったようです」
「……つまり、今回が初めての出産ではない、ということか?」
「はい。劇場の看板女優として活躍していたようです」
「その最中での妊娠出産か」
「はい」
「劇場側は把握していなかったのか?」
「そのようです。父親も特定できていないようで」
「劇場の関係者ではないのか?」
「違うようです。劇場側もかなり調べたようですが、まったく手がかりが掴めなかったとか」
女性本人は頑なに父親が誰なのかを言わなかったらしい。
そうして、生まれた子供は里子に出された。
「女優には復帰しなかったのか」
「劇場側に迷惑をかけていますから……」
「ああ、また同じようなことにならないとも限らないか」
「はい」
劇場側から拒絶された――と。
まあ、消費価値が下がった女優などいらないだろうしな。代わりなど履いて捨てる程いるのだ。用済みとされても納得だ。
かつての看板女優は、その後、転落の一途をたどったようだ。
最終的に、裏社会で生きることを余儀なくされた。
「まあ、そうなるだろうな」
華やかな世界ほど、ひとたび足を滑らせれば戻るのは難しい。
ましてや、劇場という後ろ盾を失っているのだ。
手を差し伸べる者もいなかったのは想像に難くない。
「それで結婚詐欺か」
「はい。今までかなり儲けていたようです」
美貌と演技力で相手を夢中にさせて金品を巻き上げていたようだ。
愚息との関係も、それだったらしい。
一目で「箱入りのカモ」だと見抜いたとか。
「確かに、箱入りだな」
「はい……」
「だが、今では何の後ろ盾のない平民の男だ。無一文で追い出したのだから、女性のターゲットにはなり得ないだろう?」
そこが不思議だった。
愚息がまだ貴族の身分のままだったのならともかく……。
今は金も地位もない男だ。
「そのことですが。セオドラ様は、どうやら女性には『いずれ実家に戻る身だ』と話していたらしく。女性はそれを真に受けていたようです」
言葉がでなかった。
早い話が、どちらも相手を騙していた、ということだ。
愚息の方は騙していたつもりはまったくないようだが……。
本気で「家に戻れる」と思っていたのだろう。
だからこそ、プロの詐欺師も引っ掛かったということか。
アホな行動の多い愚息だが、頭の回転は速い。
警察の話から女性が「結婚詐欺師」だと感づき、速やかに被害届を出した。
そこからどうやったのかは知らないが、詐欺師の女性と交渉して互いに被害届を取り下げる方向で話はまとまった。
本当に、どうやって丸め込んだのやら……。
だがこれでようやく静かになる。
そう思っていた。
いや、実際、静かになった。
あれ以来、愚息は屋敷に来ることはない。
平穏な日々が過ぎていたのだが……。
「は?人買いに売られた?」
そのことについては素直に良かったと思ったのだが。
「なに……?詐欺師だと……?」
「はい。結婚詐欺師だったようです」
「待て、一体どういうことだ?」
混乱した。
いや、この場合混乱するなという方が無理だろう。
私だって愚息がどうやって今まで市井で生きてきたのかぐらいは知っている。
あれが付き合う女性の殆どが自立した人ばかりだ。
「それが――」
ブレイクが入手した情報はこうだ。
女性は数年前までは人気の舞台女優だったらしい。
だが、ある時期を境にぱったりと舞台から姿を消した。
「表向きの理由は〝体調不良による長期休養〟と発表されましたが、実際には秘密裏に子供を産むためだったようです」
「……つまり、今回が初めての出産ではない、ということか?」
「はい。劇場の看板女優として活躍していたようです」
「その最中での妊娠出産か」
「はい」
「劇場側は把握していなかったのか?」
「そのようです。父親も特定できていないようで」
「劇場の関係者ではないのか?」
「違うようです。劇場側もかなり調べたようですが、まったく手がかりが掴めなかったとか」
女性本人は頑なに父親が誰なのかを言わなかったらしい。
そうして、生まれた子供は里子に出された。
「女優には復帰しなかったのか」
「劇場側に迷惑をかけていますから……」
「ああ、また同じようなことにならないとも限らないか」
「はい」
劇場側から拒絶された――と。
まあ、消費価値が下がった女優などいらないだろうしな。代わりなど履いて捨てる程いるのだ。用済みとされても納得だ。
かつての看板女優は、その後、転落の一途をたどったようだ。
最終的に、裏社会で生きることを余儀なくされた。
「まあ、そうなるだろうな」
華やかな世界ほど、ひとたび足を滑らせれば戻るのは難しい。
ましてや、劇場という後ろ盾を失っているのだ。
手を差し伸べる者もいなかったのは想像に難くない。
「それで結婚詐欺か」
「はい。今までかなり儲けていたようです」
美貌と演技力で相手を夢中にさせて金品を巻き上げていたようだ。
愚息との関係も、それだったらしい。
一目で「箱入りのカモ」だと見抜いたとか。
「確かに、箱入りだな」
「はい……」
「だが、今では何の後ろ盾のない平民の男だ。無一文で追い出したのだから、女性のターゲットにはなり得ないだろう?」
そこが不思議だった。
愚息がまだ貴族の身分のままだったのならともかく……。
今は金も地位もない男だ。
「そのことですが。セオドラ様は、どうやら女性には『いずれ実家に戻る身だ』と話していたらしく。女性はそれを真に受けていたようです」
言葉がでなかった。
早い話が、どちらも相手を騙していた、ということだ。
愚息の方は騙していたつもりはまったくないようだが……。
本気で「家に戻れる」と思っていたのだろう。
だからこそ、プロの詐欺師も引っ掛かったということか。
アホな行動の多い愚息だが、頭の回転は速い。
警察の話から女性が「結婚詐欺師」だと感づき、速やかに被害届を出した。
そこからどうやったのかは知らないが、詐欺師の女性と交渉して互いに被害届を取り下げる方向で話はまとまった。
本当に、どうやって丸め込んだのやら……。
だがこれでようやく静かになる。
そう思っていた。
いや、実際、静かになった。
あれ以来、愚息は屋敷に来ることはない。
平穏な日々が過ぎていたのだが……。
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