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18.宰相の息子2
しおりを挟む父上の命令で、ヘッセン公爵令嬢が目を覚ます前に跡継ぎから外された。親子の縁を切って私を市井に放り出した方が家のためになるはずだったのに、父上は何故かしなかった。不思議に思い、聞いてみたら「お前の命だけでどうにか出来る問題ではない」とだけ溜息交じりに告げられた。私たちの処罰に関しては、ヘッセン公爵令嬢が目を覚ました時に正式に決まるらしい。
その後、王家とヘッセン公爵家から正式な裁きが下された。
領地での謹慎――
問答無用で処刑されると思っていたので驚いた。父上は「命を取るだけが責任の取り方ではない。寧ろ、公開処刑にでもしてくれた方がある意味ではマシかもしれんがな……」と呟かれた。後半は声が小さかったせいで聴き取れなかった。
父上としては愚かな息子が死んだ方が後腐れがなかったのかもしれない。
生きていても死んでいても不名誉である事は変わらない。
それなら、生きて罪を償った方がいい。
私は『病気療養』という名目での領地行きが決まった。この場所から出る事は生涯叶わないだろう。母上に泣かれ、弟達にも迷惑をかけてしまった。私という兄を持った事によって、周囲の目は厳しいものになってしまった。不甲斐ない兄を持った弟達には本当に申し訳ない。
父上から「無駄飯をくらわす事は出来ない」という理由で領地経営に携わる事になった。罪人の私がそんな事をして良いのかと疑問に思ったが、父上は私に仮の身分を用意していた。平民出身の孤児であるが頭の良さを買われて雇入れた男。名前は『フール』だ。平民のためファミリーネームはない。
将来は当主になる弟の補佐になる事が決定した。
要は、私の功績が全て弟の成果として発表されるという事だ。
勿論、抵抗はあった。が、何もしなかったし言わなかった。
ただ、父上の案に頷いただけだ。
今更、抵抗したところで無意味だと理解していたからだ。
あれ程までに輝いていた学園時代が遠い昔のように感じる。さして時間は経っていないというのに。どこで間違えてしまったのか。父上の命令に逆らう事なく流されるままに過ごす日々。
フリッツ殿下が『病気療養』にされた事を聞いた。治療のため、緑豊かな離宮に移ったことを知った。
第二王子殿下が立太子された。
私同様にフリッツ殿下も離宮から出る事は出来ないだろう。もしかしたら、第二王子殿下の影武者のような真似をさせられるのかもしれない。
私のように。
これから先、第二王子殿下がどれだけ『名君』と呼ばれようとも、その功績が本当に第二王子殿下のものとは限らないだろう。
失礼ながら、第二王子殿下は凡庸な方だ。
とてもフリッツ殿下のように貴族達相手に優位に立てるとは思えない。いいように利用されないか心配だ。優しいといえば聞こえはいいが、優柔不断で精神面が弱い方だ。傀儡にされてもおかしくない。
それを考えれば、フリッツ殿下が影武者として活躍した方が王国のためになる。
賞賛を受ける相手がフリッツ殿下ご本人でない事が悔やまれる。
暫くすると、ミリーが侯爵家に嫁いだ事を知った。先代侯爵の後添えになり、享楽に浸っているという噂が流れてきたからだ。
そんな噂を聞いても怒りを感じなかった。
男爵令嬢といっても庶子だ。
元王太子殿下のお手付きとして世間に認知されてしまっている。まともな嫁ぎ先でない事は明らかだ。彼女が自暴自棄になっても仕方ない状況だった。
世間ではミリーの事を「男好き」というが、彼女は一途な女性だ。好き好んで男を侍らせたりしない。一度、父上にそのことを伝えてみた。愚かだと一瞥されるかと思ったが、父上は憐れんだ表情で私を見ると、一言、「彼女は公娼だ」と告げた。
その一言が全てを物語っていた。
公娼。
嘗て愛した少女は老侯爵の後妻という名の『公娼』になっていた。憐れめばいいのか、悲しめばいいのか、わからない。彼女は『汚れた女』の烙印を押されてしまった。
老侯爵だけじゃない。国が認めたのだ。そうでなければ父上が公娼と言うはずがない!
ミリーは知っているのだろうか?
外に出られないため分からない。
情報が入ってこないからだ。
いや、入ってきても随分と遅い上に、どこまで本当の事なのかが分からない。
父上にも探りを入れてみたが散々だった。
でも、何時も「可哀そうな目」で僕を見る。
察するものがあった。
きっと、ミリーは知らない。
自分が公娼に堕とされた事を。
娼婦には『私娼』と『公娼』の二通りある。
そのほとんどが私娼だ。
よほどのことが無ければ公娼にはならない。
数十年前に法改正が行われたためだ。
それまでは、娼館に所属する場合は『公娼』として登録され、身分証明書も発行されていた。
娼館から出るには客に身請けされる場合が殆どだった。
もっとも、身請けされたとしても『妻』にはなれない。『愛人』として囲われ者になるだけだ。
なかには正式に結婚をしたいと思った者もいただろう。
だが、それは出来なかった。
相手が『公娼』だからだ。
一度でも『公娼』として登録されてしまうと、教会から『堕落した女』の烙印を押されてしまうのだ。そうなれば結婚することも出来ない。
教会が認めないからだ。
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