32 / 37
番外編
31.公妃殿下2
結局、あの男は反省などしていなかった。
いいえ、違う。
彼の中では反省しているのだ。
自分自身の愚かな行動を、その結果に起こってしまった悲劇も、元婚約者であった女性に対する懺悔、お父様に対する申し訳なさも。
どれも本当の事で申し訳なかったという気持ちはあるのだ。
でも、それを既に過去のものとしている。終わった事だと感じているのが一方的な会話の中で嫌でも理解した。
確かに、何十年も昔の事だ。
過去の事だと切って捨てる人間もいるが、彼はそうではなかった。過去を遠い思い出にしてしまっている。
あの男のせいで運命を狂わされた人々は今でも苦しんでいるというのに。
まるで何事も無かったかのように話す姿は同じ人とは思えなかった。
私の異変に気付いた夫が会話を中断させなければ、どうなっていただろう。
私は感情に任せてあの男に詰め寄ったはずだ。
貴様のせいでこうなったんだ、と責め立てていた事だろう。
誰のせいで王家や王国が失墜したと思っているんだ、と怒鳴り散らしていただろう。
分かっている。
お父様は最後まで自身の異母兄を責めなかった。「王族の身分を失い生涯幽閉された可哀そうな異母兄なのだ」と仰っていたのだ。
お母様とて同じこと。「いつの日か家族として会いたい」と仰っていた。
なのに。
何故!?
何故、あんな男にお父様が憐れみを向けられるの!
お母様を男児を産めなかった事を悔やまれるの!
あの男は何一つとして知らない、知らされていない。「平民の身分になって俗世を離れているから仕方ない」と皆は言うだろう。確かに、男は長年幽閉され世間の情報が入ってこない環境化に置かれていた。幽閉後も世情とは無縁の場所にいる。
だが、そんなことは問題じゃない。
あの男は知ろうとしないのだ。
私に会えて嬉しい、ですって?
その前に言うべき言葉があるでしょう!
今は亡き両親に「すまなかった」と言うべきでしょう。
本人達が生きていないから言わなくてもいいと思っているの?
だから今まで墓参りをしないの?
分からない。
あの男の考えが分からない。
公妃になって良かった?
何故、王国が消滅したのか理由を聞かないの!
新しい国名は『ヘッセン公国』なのよ!
あなたが嘗て貶めた元婚約者の家名だというのに!
疑問に感じなかったの?
普通は訊ねるものでしょう。
あの調子では恐らく、嘗ての恋人や友人達がどういった人生を送ったかなんて知らないはず。考えた事もないのかもしれない。
薄情な男。
世間では『悪女によって人生を狂わされた王子』として同情を寄せられているようだけど、私から言わせればバカの一言に尽きる!
本当に元王太子だったの?
どうして自分で調べようとしないの!
この国にどれだけの貴族が残っていると思っているの?
多くに貴族がその地位を追われた。財産を没収された貴族だっている。
そのほとんどが嘗てあの男とその恋人を応援していた者達。下位貴族だから眼中にないとでもいうつもり?
今は下位貴族の没落ばかりだけれど、それが高位貴族にも及ばないなんて言いきれない!
貴族の没落はこれからも続くだろう。
帝国は王国に慈悲を見せた。
でも、決して許しはしていなかった。
新しい国になり、その中枢で政治を取り仕切っているのは元王国人ではない!元帝国人なのよ!
貴男の周りにいる者達だって元帝国人が圧倒的に多いというのに……。
薄情者、なんてものじゃない。
そんなレベルの問題ではない気がする。
あの男は基本的に他者に対して関心が薄いのだ。
だから、あれほど愛した女性のことも今では全く気にも留めていなのだろう。
恋人や友人達の末路を教えたところで、あの男がダメージを負う事は無いはずだ。口では「申し訳ない」というだろう。涙を流して悲しむかもしれない。それでも、彼女、彼らに直接会って謝ったりすることは絶対にしないと断言できる。
あの男は最後まで私の名前を間違っていたのだから。
マリア・カルロッタ。
それは私の亡き姉の名前だった。
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
「君は大丈夫だろ?」と可哀想な元恋人を選択した夫。~今さら復縁を迫っても、愛は既に錆び付いています~
水上
恋愛
夫と白い結婚をして、傾いた領地を努力と苦労の末に立て直した伯爵令嬢ヴィクトリア。
夫との関係も良好……、のように見えていた。
だが夫は「君は強いから」と、めそめそ泣く元恋人を優先し、ヴィクトリアの献身を踏みにじった。
その瞬間、彼女の恋心は錆び付き始めた。
「私が去ったら、この領地は終わりですが?」
愛想を尽かした彼女は、完璧な微笑みの裏で淡々と離縁の準備を始める。
これは、有能な妻が去り、無能な夫が泥沼に沈むまでを描く、冷徹な断罪劇。
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。