【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子

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8.婚約者からの謝罪

 その日の茶会で、久しぶりにクルトの顔を見た。
 茶会という名目の婚約解消後の話し合いの日だ。
 もちろん、『話し合い』は親同士がするもの。私とクルトは文字通り『茶会』を催していた。

 まあ、頭を下げたままでいるクルトに対面した私は、「やっとか」と内心ホッとしたくらいだったけれど。

「この度は……」

「謝罪はもういいわ。貴方と私の婚約は解消することが決まったのだし、今更でしょう?」

「……はい」

 クルトは項垂れたままだ。
 まあ、そうよね。
 私達の婚約は『王命』。
 婚約解消も『王命』。
 王命のオンパレード。笑ってしまう。

「ヴァルター男爵令嬢はその後、お元気かしら?」

 ビクッと肩が震えた。
 本当にわかりやすい。

「いや。……その、彼女は……。ミリーゼは領地に戻った」

「領地に?」

「……ああ。社交界シーズンが終わったから」

「あら、そうなのね。てっきり王都で花婿を探すのかと思っていたわ」

「……」

「下位貴族の令嬢にとって社交界シーズンは結婚相手を捜す絶好の場ですもの」

「……」

「私もてっきり彼女もそうなのだとばかり思っていたわ。社交界デビューに加えて寄親貴族の屋敷に滞在していることも含めて、メイナード公爵家が相手を探してあげるのだとばかり。……でも、違ったようね」

「……」

 クルトは無言。
 彼から漂う空気はどこまでも暗い。

「……ミリーゼの家は没落した。近日中には爵位を返上するそうだ。……彼女の両親は亡くなっていた。兄や弟たちも彼女を置いて出て行ったきりだ」

「そう、大変だったのね。でも、貴方の責任ではないわ。王命ですもの」

「……ソーニャ……」

「仕方のないことよ」

「それは……」

 クルトが何か言いたげに口を開いたけれど、結局、言葉にならなかったのかそのまま口を閉ざした。
 私はそんなクルトにニッコリと微笑む。

 悔いたところで今更だ。

 男爵家がある日突然多額の借金慰謝料を抱える羽目になったのも、そのせいで男爵夫妻が首を括った自殺のも、彼女以外のきょうだいが夜逃げ亡命したのも仕方のないこと。
 王命の婚約をダメにした要因の令嬢。
 この顛末は容易に想像できた。
 残された令嬢のその後なんて誰にだってわかる。
 頭を下げたままの彼もわかっていることだろう。
 世間知らずの貴族令嬢が市井に放り込まれたところで生きていくことはできない。
 ましてや、彼女は多額の借金慰謝料を抱えている。
 きょうだい達が金目の物を持って逃げた以上、領地を売ったところで返済は無理だろう。
 彼は「爵位を返上する」と言った。正確には「爵位を剥奪される」だ。
 爵位返上は世間一般では『平民落ち』に当てはまる。
 けれど剥奪は……。

「残念ですが、メイナード公爵子息にできることは何もありませんわ。こればかりは、どうしようもありませんもの」

「……ソーニャ」

 クルトが顔を上げた。
 今にも泣きそうな表情で私を見ている。
 そんな顔をされても困るのだけれど。
 私は彼に微笑み続ける。

「メイナード公爵子息にできることは彼女が心安らにいられることを祈るだけですわ」

「……そうだな」

「そうですわ」

 私は微笑んだままクルトを見る。
 クルトは憔悴しているようだが、先ほどより幾分かマシな様子だ。
 もしかして彼は男爵令嬢がどんな立場になっているか理解していないのかもしれない。
 剥奪を返上、と言ったのも、彼なりの気遣いかと思ったけれど……。

「メイナード公爵子息はこれからどうなさいますの?」

 問いかけに意味はなかった。
 彼がどうなるのか、なんてわかりきったこと。
 ただ妙に甘い考えの彼がどう答えるか。興味があっただけ。

「……実はその……これはまだ極一部の者しか知らないことなんだ」

 言葉を濁しながら彼は視線を彷徨わせる。

「第二王女殿下との婚約が決まった」

 ああ、やはり。
 わかってはいたけれど。

「陛下は、僕に王配になれと」

 まあ、そうでしょうね。

「昨日、王女殿下と極秘でお会いした。……どうやらあまり賢い方ではないらしくて。語学は壊滅的なようだ」

 でしょうね。
 五人いる王女殿下の誰が王位を継いだところで王配が全ての仕事をこなさなければならない。
 まだ幼少ならば更生させることは可能かもしれないけれど、恐らく無理でしょうね。

 その後も『極秘事項』をペラペラと喋り始めるクルト。
 馬鹿なのかしら?
 男爵令嬢との恋愛でアホになったの?

 終始、笑顔で聞いていた私は両親の『話し合い』が終わるまでクルトに付き合った。

 そして確信した。
 彼が何故、王配に選ばれたのかを。
 頭は良いが迂闊過ぎる。
 浅はかとも言うべきだろう。
 仕事はできるけれど考えなし。

 傀儡には最適の男だ、と――

 

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