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第一章
36.姉上の忠告
しおりを挟む「巽夫人が巽才人に対して行った不敬の数々、巽淑妃として到底容認できないものです。けれど、このまま黙って立ち去るならば巽才人の後見人たる巽淑妃として、あなた方を不問に処しても構いません。巽州公には奥方に教育を施し……それは無理でしょうから、奥方を二度と後宮に来させないようにお願しますね」
「な!? 貴女にそんなことを言われる覚えはないわ! これは私と杏樹の母娘の問題なのよ!!」
「やめなさい!!!」
「あ、あなた……?」
「淑妃さま……達に無礼だぞ」
姉上が「位」を出してきて、流石にマズイと感じた父上が、興奮冷めやらぬ母上を叱責した。頭に血が上っている母上は分かっていないようだけど、ここは後宮。しかも、淑妃の宮殿。地位からすると姉上と父上は同等の「正一品」。けれど、場所的に姉上の方が格上扱いになるのは否めない。
炎永国の八州の一つ、巽州公である父は兎も角、母上と圭は無傷でここから出るには姉上の言う通りにするしかない。二人揃って「無位」なのだから。父上のただならぬ様子に気付いた圭は、漸く事の重さを理解したのか顔色が悪い。
「淑妃……様。どうやら妻は娘婿の一件で正常な判断ができない状態でございます。妻の度重なる御無礼の数々、誠に申し訳ありません」
「何を言い出すの!私は正常よ!」
「お前は黙っていなさい!!!」
父上の怒鳴り声に母は唖然となった。
きっと母上には自分が怒鳴られる理由が分からないのだろう。今まで母に甘い父だった。母の言葉に「否」を示すことのなかった父。何時だって自分の味方であった父上からの叱責ショックを受けていた。
母は気付いていない。
父上が姉上に「皇帝の妃」として接している理由を。
姉上が母上を「奥方」、「この方」と呼んで「お継母様」と呼ばなくなったことに気付く気配すらない。
「妻は御覧の通り、正常な状態ではございません。直ぐに医師に診せなければなりませんので、今日の処はこれにて失礼させていただきます」
「それはいい事ですわ。奥方は昔から常軌を逸脱しておりますもの。もっとも、医者に診せるのは遅すぎるくらいですけど、これは夫婦間の問題ですから、問う事は致しませんわ。ゆっくりと養生なさいませ。もし今度、奥方が誤ってココに来られた時は専門の侍医をご準備させていただきますわ」
「はっ! ありがとうございます。それではこれにて失礼を」
父上は母上の腕を掴むと無理矢理引っ張り、連れ出そうとした。圭も二人に続こうとした、その時。
「これは独り言ですけど、巽州公。楊家と取り交わした契約書ですが、きっと直ぐに役に立つと思いますわ。そうですわね……計算では数週間後、と言った処かしら。存分に有効活用なさってください。楊圭も婚姻の際に宣誓したこと決して違えぬように」
三人はそのまま黙って宮殿から出て行った。
「数週間後が楽しみだこと」
ポツリと言った姉上の言葉の意味を理解したのは数週間後のこと。
陀姫姉上は待望の男子を出産した。
楊家の跡取り息子は、とても大きな産声を上げて誕生したらしく「将来が非常に楽しみだ」と祝いに訪れた人々から口々に言われる一方で、早すぎる誕生に訝しむ人もまた多かった。
若夫婦は婚姻後、七ヶ月満たずに男児を授かっている事が楊家に波紋を投げかけていた。
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