【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

文字の大きさ
20 / 27

20.その後(ソフィアside)

しおりを挟む
「ソフィア!お前のせいで!!」

 突然、怒鳴られて訳が分からないまま、兄に殴られました。

「な、にを……?」

 殴られた頬が痛いです。
 口の中も切れたのか血の味がします。

「お前が!お前が!お前が!お前が!」

 今度はお腹を蹴られました。

「ぐっ!」

 痛みで蹲った私の髪を、兄は掴んで引き摺り起こしました。

「お前のせいだ!お前が!お前が!」
「にい……さ……」

 兄の顔は怒りで歪んでいます。
 こんな表情は見たことがなくて、ただただ恐怖しか感じませんでした。
 一方的な暴力の嵐。
 恐怖と痛みに……意識が遠のいていくのを、どこか遠くで感じていました。


 次に目覚めたら病院のベッドのうえ。
 何があったのか、さっぱり分かりませんでした。
 医師からの説明で「流産にならなくて良かったですね」と、言われて漸く自分が兄に殴られたことを思い出しました。

 私は妊娠していたのです。
 今度の子で三人目。

 絶対安静と共に伯爵家の人間が面会禁止にされたのは、当然といえば当然の処置。
 兄が妹に暴力を振るったことは表沙汰にできない。
 伯爵家だけでなく、公爵家の醜聞になるからです。

 これは後から人伝に聞いたのですが、兄の荒れようは酷いものだったそうです。
 なんでも、鉱山から金が採れなくなったとか。
 更には他の鉱山も閉鎖せざるを得なくなったそうです。

『ソフィアがセルジュークに嫁いでいればこんな状態にはならなかった!』
『どうしてセルジューク以外の結婚は嫌だと訴えなかった!』
『あいつがセルジュークの心を掴んでさえいれば!』

 兄は支離滅裂なことを言って、周囲を困らせているとか。
 何故、私が批難されなければいけないのでしょう。
 私が何をしたというのでしょう。
 私に文句を言われても困ります。

 命じられるまま、求められるまま嫁いだのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないのか。


 兄の言い分はこうでした。
 私の結婚相手がアルスラーン様のままであれば、辺境伯家とも縁戚になり、交易の恩恵を受けていた。今頃は、辺境伯領と同程度に発展していたはず。そうなっていたなら、例え鉱山を閉鎖しても、ハルト領は潤ったはずだ。
 そう言いたいらしいのです。

『ソフィアがセルジュークに嫁いでいれば……!』

 何度も何度も繰り返しているそうです。
 どうにもならないことを、ただ延々と……

 この日を境に実家には帰っていません。
 私は実家でも居場所を失ったのです。
 夫から疎まれ、実の兄に殴られ、これ以上なにを我慢すれば良いのでしょう。

 三番目の子供を産んですぐ、私は別邸に移動をさせられました。
 子供達の教育は義父が担っているそうです。
 詳しくは分かりませんが、公爵家の当主に相応しい教育を施されているとか。

「君の役目は終わった。これからは別邸で静かに暮らしていればいい」

 夫らしい言葉だと、そう感じました。
 私はもう用済みなのですね。
 それもそうです。
 元々、そう言われたのですから。

 別邸での生活は穏やかなものでした。
 私の状況を知っているのか、使用人は女性のみ。女性ばかりの穏やかな生活でした。

「奥様、お庭の花が見頃ですよ」
「まあ!本当?」
「ええ。ご案内いたしますわ」
「お願いね」

 使用人と他愛ない会話をし、一日が終わる。
 夫を気にする必要がない。
 義家族の目を気にする必要もない。
 実家からの催促の手紙は此処まで届くこともない。

 数年後、実家が領地経営に失敗し、没落したと聞かされても、私の心は何も感じませんでした。
 ハルト伯爵領を買い取ったのが元婚約者だと知っても、何も思いませんでした。
 ラヴィル様が公爵家の当主になることはないと、使用人から聞いても揺らぐことはありませんでした。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

処理中です...