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本編
婚約者が駆け落ちしましたが、私にはお金がありますから大丈夫ですよ
実に馬鹿馬鹿しい話です。
私にとって元婚約者との思い出など黒歴史ですわ。
何故、あの男と婚約などしたのか意味不明です。
まあ、顔良し、家柄良し、成績良し、スポーツ万能のオールマイティだったからですけどね。
そう、全てにおいて秀でていた彼が唯一持っていないもの。持つことができなかったものを私が持っていたからこその婚約でした。
そう、金です!
残念なことに彼は貧乏貴族の次男坊。
実家の侯爵家は火の車。
お父様の侯爵が領地経営に失敗してしまったことが切っ掛けです。
跡取りの長男もかなり優秀な方ですけど、盛り返すには一代では無理でしょう。
そのため、金持ちの公爵令嬢を妻に貰ったぐらいです。
公爵令嬢といえば聞こえはいいでしょうが、ようは行き遅れです。
国一の醜女と評判の女性。
公爵家としても貰ってくれるならばと、かなりの持参金付きで嫁がせたという話です。その持参金のおかげで侯爵家は危機的状況から回避できましたので互いにとって実にいい結果でした。
ですが、元の状況に戻すには、まだまだ金が足りません。
そこで、次に目をつけたのが我が家です。
そう、国一といってもいい金持ちの我が家に狙いを定めてきたのです。
まあ、成金の子爵家であり、子供が私しかいないことも彼らにとっては美味しい話だったのでしょう。何しろ、婚姻するのは次男。侯爵家は長男が後を継ぐため、次男は立身出世かあるいは他家に婿養子にいくしかありません。爵位を継げて金も貰える、正に一石二鳥どころか一石三鳥といってもいいほどの良縁(相手にとっては)。
まあ、我が家にとっても名門侯爵家から婿を貰うのは悪い話ではありません。
しかも、ただの名門ではなく建国以来から続く名家の一つです。金を出しても欲しい血筋である事は間違いありません。
我が子爵家は歴史が浅い上に、婚姻に関しても良く言えば幅広い、悪く言えば下級貴族止まり。といった具合です。
ここで、上位貴族との繋がりを持つのも良いころ合いでしょう。
そのための婚約であったのにも関わらず、彼は出ていきました。恋人と手に手を取って出奔したのです。
彼の恋人。
それは侯爵家に仕える侍女でした。
もっとも侍女といっても男爵家の令嬢です。
高位貴族に下位貴族が奉公にでるのは珍しい事ではありません。彼女もその一人だったのです。
彼女の実家である男爵家は狭い領地ながらも健全な領地経営をしており、その家の五人の娘たちは美人ぞろいと社交界でも有名です。
侍女はその男爵家の三女にあたります。
長女は、実家の男爵家を継ぐために、同じ男爵家の次男を婿に貰い、未来の男爵夫人として夫と共に日々領地を盛り立てています。
次女は、その美貌に惚れ込まれた伯爵家から望まれて嫁ぎ、今では伯爵夫人として社交界の花として君臨しております。
四女は、財産家の商人と先月結婚したと聞きます。
五女は、まだ十代前半の子供ですが、その愛らしい容姿から将来は姉君たちに劣らない美女になるであろうと評判です。
まあ、そんな訳でして、元婚約者が金しか取り柄のない平凡な子爵令嬢ではなく、侍女とはいえ美貌の男爵令嬢を選んだのは仕方がないのかもしれませんね。
後から知った事ですけど、元婚約者と侍女は昔からの恋人だというではありませんか。何でも幼馴染の初恋の相手だとか。侯爵家と男爵家とでは余りにも身分に差がありますから、どこで出会ったのか不思議に思いましたが、父親同士が友人だと言うではありませんか。何でも身分を超えた友情らしいですわ。
侯爵家も男爵家も駆け落ちした二人に対して怒っていますけど、仕方がないなといった感じです。
事の重大さが分かっていないようですね。本当に爵位持ちの当主でしょうか?
逆に侯爵家の長男夫妻はよく分かっているようで、何度も謝罪をしてくれましたわ。
そうですよね。方や金に困る侯爵家、方や中堅の男爵家。どうやって我が子爵家の慰謝料を支払うおつもりかしら?
何しろ、二人が我が家のツケという形で散財した請求書の束がこんなにありますのに。
それも支払わなければならない事はお分かり?
我が家の腕利きの顧問弁護士が手ぐすね引いて待っていますわよ?
家財道具一式売り払う覚悟は出来まして?
何時まで笑っていられるか見ものですわね。
ところで、こんな話を聞いて楽しいのですか?
一応、私は婚約者に逃げられた傷物ですわよ?
「勿論。実に楽しい話だったよ。これからよろしくね、婚約者殿」
あらあら、侍女ごときに婚約者を奪われた傷物令嬢を妻にしたいなどと世迷言をおっしゃる方のなんと多いことか。
これが一昔前なら、私は修道院行きか、貴族の後妻になるかしか生きる道はなかった事でしょう。
「何を言うのかな? 君ほど素晴らしい女性はいないよ」
まあ、お世辞がお上手ですわね。
たしかに素晴らしいでしょうね、我が家のお金は。
人は裏切りますがお金は裏切らない、という我が家の家訓をこれほどまでに実感する事になるとは思いませんでしたわ。
ですが、本当によろしいのですか? 私と婚約して。
我が一族は末端に至るまで契約違反が大嫌いですのよ?
ですから気をつけて下さいませね。我が子爵家との契約を破るということが何を意味するのかを。
「これ以上何をするつもりだい?」
まぁ、おかしなことを言いますわね。
私が何をしたとおっしゃいますの?
まだ何もしていませんわよ?
そう、私はまだ何もしていない。
新しい求婚者にニコリと微笑みかけると、彼は何故か震えていた。
私にとって元婚約者との思い出など黒歴史ですわ。
何故、あの男と婚約などしたのか意味不明です。
まあ、顔良し、家柄良し、成績良し、スポーツ万能のオールマイティだったからですけどね。
そう、全てにおいて秀でていた彼が唯一持っていないもの。持つことができなかったものを私が持っていたからこその婚約でした。
そう、金です!
残念なことに彼は貧乏貴族の次男坊。
実家の侯爵家は火の車。
お父様の侯爵が領地経営に失敗してしまったことが切っ掛けです。
跡取りの長男もかなり優秀な方ですけど、盛り返すには一代では無理でしょう。
そのため、金持ちの公爵令嬢を妻に貰ったぐらいです。
公爵令嬢といえば聞こえはいいでしょうが、ようは行き遅れです。
国一の醜女と評判の女性。
公爵家としても貰ってくれるならばと、かなりの持参金付きで嫁がせたという話です。その持参金のおかげで侯爵家は危機的状況から回避できましたので互いにとって実にいい結果でした。
ですが、元の状況に戻すには、まだまだ金が足りません。
そこで、次に目をつけたのが我が家です。
そう、国一といってもいい金持ちの我が家に狙いを定めてきたのです。
まあ、成金の子爵家であり、子供が私しかいないことも彼らにとっては美味しい話だったのでしょう。何しろ、婚姻するのは次男。侯爵家は長男が後を継ぐため、次男は立身出世かあるいは他家に婿養子にいくしかありません。爵位を継げて金も貰える、正に一石二鳥どころか一石三鳥といってもいいほどの良縁(相手にとっては)。
まあ、我が家にとっても名門侯爵家から婿を貰うのは悪い話ではありません。
しかも、ただの名門ではなく建国以来から続く名家の一つです。金を出しても欲しい血筋である事は間違いありません。
我が子爵家は歴史が浅い上に、婚姻に関しても良く言えば幅広い、悪く言えば下級貴族止まり。といった具合です。
ここで、上位貴族との繋がりを持つのも良いころ合いでしょう。
そのための婚約であったのにも関わらず、彼は出ていきました。恋人と手に手を取って出奔したのです。
彼の恋人。
それは侯爵家に仕える侍女でした。
もっとも侍女といっても男爵家の令嬢です。
高位貴族に下位貴族が奉公にでるのは珍しい事ではありません。彼女もその一人だったのです。
彼女の実家である男爵家は狭い領地ながらも健全な領地経営をしており、その家の五人の娘たちは美人ぞろいと社交界でも有名です。
侍女はその男爵家の三女にあたります。
長女は、実家の男爵家を継ぐために、同じ男爵家の次男を婿に貰い、未来の男爵夫人として夫と共に日々領地を盛り立てています。
次女は、その美貌に惚れ込まれた伯爵家から望まれて嫁ぎ、今では伯爵夫人として社交界の花として君臨しております。
四女は、財産家の商人と先月結婚したと聞きます。
五女は、まだ十代前半の子供ですが、その愛らしい容姿から将来は姉君たちに劣らない美女になるであろうと評判です。
まあ、そんな訳でして、元婚約者が金しか取り柄のない平凡な子爵令嬢ではなく、侍女とはいえ美貌の男爵令嬢を選んだのは仕方がないのかもしれませんね。
後から知った事ですけど、元婚約者と侍女は昔からの恋人だというではありませんか。何でも幼馴染の初恋の相手だとか。侯爵家と男爵家とでは余りにも身分に差がありますから、どこで出会ったのか不思議に思いましたが、父親同士が友人だと言うではありませんか。何でも身分を超えた友情らしいですわ。
侯爵家も男爵家も駆け落ちした二人に対して怒っていますけど、仕方がないなといった感じです。
事の重大さが分かっていないようですね。本当に爵位持ちの当主でしょうか?
逆に侯爵家の長男夫妻はよく分かっているようで、何度も謝罪をしてくれましたわ。
そうですよね。方や金に困る侯爵家、方や中堅の男爵家。どうやって我が子爵家の慰謝料を支払うおつもりかしら?
何しろ、二人が我が家のツケという形で散財した請求書の束がこんなにありますのに。
それも支払わなければならない事はお分かり?
我が家の腕利きの顧問弁護士が手ぐすね引いて待っていますわよ?
家財道具一式売り払う覚悟は出来まして?
何時まで笑っていられるか見ものですわね。
ところで、こんな話を聞いて楽しいのですか?
一応、私は婚約者に逃げられた傷物ですわよ?
「勿論。実に楽しい話だったよ。これからよろしくね、婚約者殿」
あらあら、侍女ごときに婚約者を奪われた傷物令嬢を妻にしたいなどと世迷言をおっしゃる方のなんと多いことか。
これが一昔前なら、私は修道院行きか、貴族の後妻になるかしか生きる道はなかった事でしょう。
「何を言うのかな? 君ほど素晴らしい女性はいないよ」
まあ、お世辞がお上手ですわね。
たしかに素晴らしいでしょうね、我が家のお金は。
人は裏切りますがお金は裏切らない、という我が家の家訓をこれほどまでに実感する事になるとは思いませんでしたわ。
ですが、本当によろしいのですか? 私と婚約して。
我が一族は末端に至るまで契約違反が大嫌いですのよ?
ですから気をつけて下さいませね。我が子爵家との契約を破るということが何を意味するのかを。
「これ以上何をするつもりだい?」
まぁ、おかしなことを言いますわね。
私が何をしたとおっしゃいますの?
まだ何もしていませんわよ?
そう、私はまだ何もしていない。
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