【完結】愛すればこそ奪う

つくも茄子

文字の大きさ
21 / 28
全てを捨てて愛に生きた夫婦のその後

ショーウインドーに映る姿

しおりを挟む

ふと、アンヌはショーウインドーのガラスに映った今の自分の姿を目にする。

(……私、いつのまに…こんなに老けたのかしら? よく見ると目じりに皺があるし……肌も乾燥してるわ……何故?肌の手入れを欠かした事なんて一度も無いのに……私はもっと美人なはずよ?)

田舎町では美人の奥さんで通っていたアンヌであったが、三十代半ばの今は、肌はカサカサで潤いがなく、髪も艶がなかった。それというのも、アンヌの使用している化粧品が彼女の肌に合っていない事が大きな原因でもあった。王都に引っ越してから買いあさった化粧品の中には品質の悪い商品が数多くあったのだ。アンヌに友人がいれば指摘したり、忠告したりするのだが、生憎、友人どころか、知り合いすらい有り様だ。

(肌が若返るっていうから買ってあげたのに!なによ!全然効いてないじゃない!寧ろ、悪くなったんじゃない?そうじゃないとおかしいわ!あの女は若々しかった!)

アンヌは、先日見たヴィクトリアを思い出していた。頭のてっぺんから足の指先まで綺麗に手入れがされている姿。艶やかな髪に、シミ一つない白い肌、贅を凝らしたドレス、高価なアクセサリー。奥方様というよりも、どこかの良家の令嬢といった姿であった。ヴィクトリアは実年齢よりもずっと若く見えていた。

(相変わらず豪華に着飾っていたわ。昔から、あの女は良いドレスを着て見せびらかすかのように侯爵邸を訪れていたわね。似合いもしないドレスを着て。私の方がずっと似合っているって、同僚から言われたものだわ。あの女よりも、私の方がずっと綺麗で、アーサーとお似合いなのにって…。それなのに…この差は何なの? あの女と比べて、今の私はなに?)

アンヌはショーウインドーのガラスに映る自分を観察した。見るからに庶民とわかる服、木で出来た硬い靴、貧乏くさい鞄。節約のため、今までのオシャレな服等は全て売りに出して、安くて実用性を重視した物ばかりを残した結果だった。

(それに…もしかして、ううん、もしかしなくても、私、太った?)

ガラスに映る自分の姿をじっくりと見る。顔に二十顎が出来るだけでなく、お腹もポッコリしていて、足も腕も大根のように大きい。

(そういえば、最近、よく食べるようになったわ…以前はそんなに食べたりしなかったのに…)

アンヌの思っている通り、彼女は以前よりはふっくらしていた。
それと言うのも、ストレスの捌け口を食べることによって昇華していたからである。以前は買い物でストレス発散が出来ていたが、今は、それが出来ない状況だ。彼女が食事に発散方法を見出していても全くおかしなことでもない。
ただ、そのことを本人も、家族も気付いていなかった。

(…お腹周りに肉が付き始めたこともあって、ゴムのスカートを履くようになったわ。だからかしら? これはダイエットする必要があるわね…)

ヴィクトリアの姿が再び脳裏に浮かんだ。

(成り上がり女は昔よりも細かったわ…。十三年前は童顔のちんちくりんにしか思えなかったのに。もう、三十に届く年齢のはずだっていうのに、まるで十代の少女のように若々しかった)

貴婦人らしい落ち着いた衣装の中に、少女のような可愛らしい装飾が施されていた。
それは、ヴィクトリアによく似合っていた。着こなしが難しいドレスで、恐らく、ヴィクトリアにしか着こなせないのではないかと思われる。
アンヌはそのことに気付いていた。
だからこそ、余計に癪に障るのだ。

ヴィクトリアによく似た子供の存在も忌々しさに拍車をかける。

(あの女の子供達…。あの女によく似てたわ。あんな平凡な顔の子供よりも、エミリーの方がずっとずっと綺麗なのに! それなのに平民の粗末な服しか着せてあげられないなんて!レースをふんだんに使ったドレス、可愛らしい髪飾り、柔らかそうな靴、あの女の娘が着飾るよりも、私の娘が着飾った方がよっぽと似合うわ!)

美男美女として有名であった両親の元から生まれた娘のエミリー。
幼いながらも大変な美少女であった。
エミリーが貴族階級に生まれていたら、間違いなく、社交界の花になったであろうほどに。

(私ったら、あの時どうしてアーサーとしたのかしら?)
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

処理中です...