特効薬と副作用

凛子

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 帰宅してしばらくするとインターホンが鳴った。
 モニターに徹の姿が映し出されると、希の胸は高鳴った。  
 自分の思いが通じたのだろうか、などと思ってしまったが、まだ以心伝心に及ぶまでの関係性ではなかった。

「どうしたんですか?」

 ドアを開けるなり、希は尋ねた。

「突然ごめん。迷惑だったかな? 顔を見にきただけだから、ここでいいんだ」

 徹の遠慮がちな態度が、余計に希の心をくすぐる。

「せっかく来てくれたのに、上がってください。もし晩御飯がまだなら何か作……」

 言い終える前に、徹の手が希の後頭部にかかる。

「ぁ……」

 ふっと体の力が抜けるのがわかった。

「お疲れ様。今日のプレゼン、どうだった? 緊張したんじゃない?」
「……今回は駄目でした。また一から練り直しです」

 希は徹の腕の中で答える。

「そうか……」

 徹は声を曇らせた。

「あ、徹さん、御飯食べましたか? まだだったら、何か作ります」

 重苦しい空気を取り払うように、希は努めて明るい口調で言った。

「希ちゃん、さっきから御飯御飯って、俺は御飯を食べに来たんじゃなくて、希ちゃんに会いにきたんだけどなあ」

 不服そうに口を尖らせる徹を目にし、嬉しさが込み上げる。

「そういう希ちゃんは食べたの?」
「いえ、まだです」
「なら、俺が作るよ。今日は疲れただろ?」
「え……でも、徹さんだって仕事で……」
 
 疲れているはずだ、と思った希は徹の厚意に甘えることを躊躇った。

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