3 / 5
三話
しおりを挟む
ベースが完成した志保の髪に、零士はハサミ一本で色々な動きを付けていく。心地よい音が響き渡る。
そして志保の前に立ち、コームで前髪を梳かした。
「目、閉じててね」と言われ、前髪にハサミが入る。零士は志保の顎に手を添え軽く引き上げた。
――こ、これは……!! 顎クイ?!
志保は息を呑んだ。
俯く志保の顔を上げただけなのだが、目を閉じていることもあり、余計に志保の妄想を掻き立てた。
これが彼氏なら……と。
「志保ちゃん? カラーもしちゃっていいの?」と零士に聞かれ、「全て零士さんにおまかせします」と志保は笑顔で答えた。
「おまかせします」が良かったのだろうか。零士は嬉しそうな表情を見せ、今日はいつもより会話が弾むような気がした。
カットが終わり、カラーに移る。
零士のイメージは完成しているのだろうか。迷うことなくカラー材を混ぜ合わせた。
こんな風にして、零士ファンの客は皆、零士好みのヘアスタイルに仕上げてもらうのだろうか。志保は気になって聞いてみた。
「零士さんは、お客さんから『おまかせで』って言われたら、どんな風に決めるんですか?」
「うーん……お客さんの顔の輪郭とか髪質みて、似合いそうな感じにするかな」
――あれ? 『俺好み』じゃないんだ。
「私、ロングが似合うってずっと思い込んでたんですけど、実はこっちの方が似合うってことですか?」
「うーん……それは、俺の好み」
「え?」
「志保ちゃんは、俺好みにしたよ」
「……え?」
――それはどういう意味?
「じゃあこれで、ちょっと時間置くね」
「あ、はい……」
はぐらかされてしまった。
ぼーっと考えているうちに、志保はまたうとうとしてしまい、零士の声で、はっとした。
「洗い流そうか」
「はい」
シャンプーチェアに移動し、零士に頭を預け、仰向けになる。
「零士さん? さっきのって……」
「ん? ガーゼ掛けるよ」
「……」
額に手が添えられ、ゆっくりとシャワーがかけられる。
「志保ちゃん、うちの店に来てくれるようになって、もうどれくらい?」
「えっと……二ヶ月に一回ペースで、一年くらいですかね」
「一年かぁ。今日のヘアスタイル任せてくれたってことは、俺に信頼を寄せてくれてるってこと?」
「勿論ですよー」
「すげぇ嬉しい」
零士がどんな表情で言ったのか気になった。
「志保ちゃん、俺のこと好き?」
「……はい」
顔が見えないせいか、自然と口にしていた。
「あ、いや……そういう意味じゃなくて……」
零士の動揺が指先から伝わってきた。
そして志保の前に立ち、コームで前髪を梳かした。
「目、閉じててね」と言われ、前髪にハサミが入る。零士は志保の顎に手を添え軽く引き上げた。
――こ、これは……!! 顎クイ?!
志保は息を呑んだ。
俯く志保の顔を上げただけなのだが、目を閉じていることもあり、余計に志保の妄想を掻き立てた。
これが彼氏なら……と。
「志保ちゃん? カラーもしちゃっていいの?」と零士に聞かれ、「全て零士さんにおまかせします」と志保は笑顔で答えた。
「おまかせします」が良かったのだろうか。零士は嬉しそうな表情を見せ、今日はいつもより会話が弾むような気がした。
カットが終わり、カラーに移る。
零士のイメージは完成しているのだろうか。迷うことなくカラー材を混ぜ合わせた。
こんな風にして、零士ファンの客は皆、零士好みのヘアスタイルに仕上げてもらうのだろうか。志保は気になって聞いてみた。
「零士さんは、お客さんから『おまかせで』って言われたら、どんな風に決めるんですか?」
「うーん……お客さんの顔の輪郭とか髪質みて、似合いそうな感じにするかな」
――あれ? 『俺好み』じゃないんだ。
「私、ロングが似合うってずっと思い込んでたんですけど、実はこっちの方が似合うってことですか?」
「うーん……それは、俺の好み」
「え?」
「志保ちゃんは、俺好みにしたよ」
「……え?」
――それはどういう意味?
「じゃあこれで、ちょっと時間置くね」
「あ、はい……」
はぐらかされてしまった。
ぼーっと考えているうちに、志保はまたうとうとしてしまい、零士の声で、はっとした。
「洗い流そうか」
「はい」
シャンプーチェアに移動し、零士に頭を預け、仰向けになる。
「零士さん? さっきのって……」
「ん? ガーゼ掛けるよ」
「……」
額に手が添えられ、ゆっくりとシャワーがかけられる。
「志保ちゃん、うちの店に来てくれるようになって、もうどれくらい?」
「えっと……二ヶ月に一回ペースで、一年くらいですかね」
「一年かぁ。今日のヘアスタイル任せてくれたってことは、俺に信頼を寄せてくれてるってこと?」
「勿論ですよー」
「すげぇ嬉しい」
零士がどんな表情で言ったのか気になった。
「志保ちゃん、俺のこと好き?」
「……はい」
顔が見えないせいか、自然と口にしていた。
「あ、いや……そういう意味じゃなくて……」
零士の動揺が指先から伝わってきた。
11
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる