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「遠藤さん? 愛美の父親を見てどう思った?」
母が唐突に言った。
「ビックリしました。俳優かと思うくらいの渋さに、見惚れてしまいました」
「でしょ?」
「ママ、何言ってんの? バカだと思われるよ」
苦笑いしながら愛美が話に割って入る。
「だって本当のことだもん。遠藤さんが包み隠さずに話してくれたから、教えてあげようと思って……」
「あー! 華!!」
父の信之が慌てた様子で母の華を制した。
二人は互いに名前で呼び合っているのだ。
母は一瞬父に目を遣るも、気にせず続けた。
「信君ね、出会った時から顔も心もすごくイケメンだったんだけどね……とんでもない格好してたのよ」
言い終えると同時に、母は唾を飛ばす勢いで吹き出したが、遠藤は聞き入っていた。
「正直私はそれでも別に構わなかったんだけどね、やっぱり付き合うってなると周りの目が気になったの。それで信君に言ったのよ。『人は見かけじゃないけど、見かけを疎かにすると損しちゃうよ』って。それから信君、いっぱい勉強したんだよね?」
母が目を遣ると、父は恥ずかしそうに頷いた。
「ああ……そういうことだったんだ。パパが努力したって言ってたのは。パパ、もしかして自分のことだから力説してたんじゃないの? 『人は見た目で判断するなよ!』って」
愛美が笑いながら言った。
遠藤と重なるところがあるが、遠藤はどんな思いで聞いているのだろうか。
「でもね」と母が話を続ける。
「信君、凄く真面目で何をするにも一生懸命なのよ。信君がお洒落することに熱心になるもんだから、どんどん見た目が変化して……元々顔は良かったし、そうしたら今度は物凄くモテ始めたのよ。それを目の当たりにして、何か嫌になっちゃってね。勝手でしょ? 信君は悪くないのに八つ当たりして、もう嫉妬の嵐。それである日、信君に言われたの」
遠藤の身体が前のめりになっている。
「『じゃあ俺と結婚してよ』って。『そんなに心配だったら、ずっと俺の隣で、俺のこと見ててよ』ってね」
遠藤は目を見張っていた。
「華は未だに妬くからなあ……俺、もう五十過ぎのオッサンなのに」
父は呆れたような顔で笑っている。
遠藤が何か言いたげな視線を向けてきた。恐らく、昨日のヤキモチを思い出したのだろう。
恥ずかしさを誤魔化すように、愛美はまだ野菜が残っている遠藤の器に、更に野菜と肉を装った。
「心変わりすることは絶対にないので、今お伝えしておきます」
黙って話を聞いていた遠藤が口を開き、三人が一斉に遠藤に目を向けた。
「僕は、愛美さんと結婚したいと思っています。勿論愛美さんの考えがあるのはわかっていますが、僕が……僕自身は、それを見据えての交際のつもりでいることをお含みおきください」
しばらくの沈黙の後、反応したのは――母だった。
母は大粒の涙をこぼしていた。
「おいおい……違うだろ」
父は母の頭を撫でながら困り顔で言った後、
「遠藤君、楽しみに待ってるよ」
と今度は優しい笑みを浮かべながら言った。
母が唐突に言った。
「ビックリしました。俳優かと思うくらいの渋さに、見惚れてしまいました」
「でしょ?」
「ママ、何言ってんの? バカだと思われるよ」
苦笑いしながら愛美が話に割って入る。
「だって本当のことだもん。遠藤さんが包み隠さずに話してくれたから、教えてあげようと思って……」
「あー! 華!!」
父の信之が慌てた様子で母の華を制した。
二人は互いに名前で呼び合っているのだ。
母は一瞬父に目を遣るも、気にせず続けた。
「信君ね、出会った時から顔も心もすごくイケメンだったんだけどね……とんでもない格好してたのよ」
言い終えると同時に、母は唾を飛ばす勢いで吹き出したが、遠藤は聞き入っていた。
「正直私はそれでも別に構わなかったんだけどね、やっぱり付き合うってなると周りの目が気になったの。それで信君に言ったのよ。『人は見かけじゃないけど、見かけを疎かにすると損しちゃうよ』って。それから信君、いっぱい勉強したんだよね?」
母が目を遣ると、父は恥ずかしそうに頷いた。
「ああ……そういうことだったんだ。パパが努力したって言ってたのは。パパ、もしかして自分のことだから力説してたんじゃないの? 『人は見た目で判断するなよ!』って」
愛美が笑いながら言った。
遠藤と重なるところがあるが、遠藤はどんな思いで聞いているのだろうか。
「でもね」と母が話を続ける。
「信君、凄く真面目で何をするにも一生懸命なのよ。信君がお洒落することに熱心になるもんだから、どんどん見た目が変化して……元々顔は良かったし、そうしたら今度は物凄くモテ始めたのよ。それを目の当たりにして、何か嫌になっちゃってね。勝手でしょ? 信君は悪くないのに八つ当たりして、もう嫉妬の嵐。それである日、信君に言われたの」
遠藤の身体が前のめりになっている。
「『じゃあ俺と結婚してよ』って。『そんなに心配だったら、ずっと俺の隣で、俺のこと見ててよ』ってね」
遠藤は目を見張っていた。
「華は未だに妬くからなあ……俺、もう五十過ぎのオッサンなのに」
父は呆れたような顔で笑っている。
遠藤が何か言いたげな視線を向けてきた。恐らく、昨日のヤキモチを思い出したのだろう。
恥ずかしさを誤魔化すように、愛美はまだ野菜が残っている遠藤の器に、更に野菜と肉を装った。
「心変わりすることは絶対にないので、今お伝えしておきます」
黙って話を聞いていた遠藤が口を開き、三人が一斉に遠藤に目を向けた。
「僕は、愛美さんと結婚したいと思っています。勿論愛美さんの考えがあるのはわかっていますが、僕が……僕自身は、それを見据えての交際のつもりでいることをお含みおきください」
しばらくの沈黙の後、反応したのは――母だった。
母は大粒の涙をこぼしていた。
「おいおい……違うだろ」
父は母の頭を撫でながら困り顔で言った後、
「遠藤君、楽しみに待ってるよ」
と今度は優しい笑みを浮かべながら言った。
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