セカイノヒカリ

月影砂門

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第2話〜第一任務、開始

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 翌朝、天使アースは襖から差す眩しい光で目を覚ました。翡翠色の瞳を薄く開けると、目の前に小さなウサギがいた。昨夜名付けたこのウサギの名はフウだ。砂輝からこのウサギをどうやって召喚したのかと尋ねれば、即答で風からと告げられたのだ。それを受け、アースはこのウサギにフウという名を与えた。本人が喜んでくれたこともあり、アースも嬉しかった。


 「朝ですよ、フウ」

 「おはよう」


 ルビーのような瞳の若草色のウサギが答えた。初めはフウが話が出来るということに驚いたが、一日で慣れた。
 ふと、フウが鼻をヒクヒクと動かした。何かの香りを嗅ぎつけたらしい。


 「みその匂い」

 「味噌?これが味噌というものの香りなのですね」

 
 鳥籠のまさに鳥のように暮らしていたアースは、味噌の香りを知らないのだ。アースとフウがのんびりしていると、襖が勢いよく開け放たれた。天使とウサギが同時に弾かれるように襖の方へ振り向いた。そこには狐と虎がいた。九尾狐のコンと、黒虎のタイガだ。


 「おい、コン。まだ寝ておるかも知れんだろうに・・・む、起きていたか。おはよう」

 「おはようございます、シャオさん」


 藤色の単を纏う黒髪の少年がニコリと笑った。つい昨日に自分を仲間として迎えてくれた神界代表の神帝シャオだ。シャオの姿を見て自分の着物を見た。白から翡翠色のグラデーションとなった単姿だった。この単は、寝巻はまだないだろうと言って、砂輝がくれたものだ。


 「あの、この良い香りは?」

 「修羅が朝食を作ってくれておるのだ。味噌は砂輝さまの手作りだそうだ」

 「修羅さん、お料理が出来るのですね」


 修羅が料理ができるという事に驚きはしないが、それよりも砂輝が味噌を作っているということに驚いた。どう見てもいい暮らしをしていそうな彼なのに、どうも本人は質素な暮らしを好んでいるようだ。


 「質素なのは暮らしだけだと思うぞ。さ、そろそろ朝食が出来るぞ」

 
 シャオに連れられ茶の間に来ると、見たこともない食べ物のオンパレードだった。アースが知っている食材といえば、果実くらいだ。


 「アースくん、おはよう。タイガくんたちが起こしたかな?」

 「おはようございます。太陽で目が覚めました」


 台所から出てきたのは、アースが属すことになった部隊の隊長修羅だ。髪と同じような色の単のはずだが、料理がしやすいように紐で裾が落ちないように結ばれていた。その手にはお櫃がある。そこに炊きたてのご飯が入っていた。


 「美味しそう・・・」

 「黄色いのは沢庵っていうお漬物で、その隣の赤い丸いのは梅干しだ。どれもご飯に合うよ」

 
 アースは、初めて食べるそれを口に入れてみた。確かに美味しい。試しに米も食べてみた。ご飯に合うのは間違いない、とアースは幸せそうに顔を綻ばせた。次は梅干しに箸をつけた。「一口はやめておきなよ」と修羅に言われ、小さく齧る。


 「酸っぱ!」

 「あはは、びっくりした?」

 「あぁ、お米が」

 「和食が合うようでよかった」


 一人増えた茶の間で、修羅とシャオは朝食を楽しんだ。朝食を楽しんだ後は、シャオが洗い物をしていた。食器洗いはシャオの役割だった。


 「私もやります」

 「洗ったものを拭いてもらえるか?その布で」

 「はい。朝食美味しかったですね」

 「どうだった?初めての数人での食事は」

 「楽しいものです」


 朝の穏やかな空気感も、修羅とシャオの穏やかな雰囲気も、アースにとっては心地良かった。アースは、黙々とシャオに渡される食器を丁寧に拭いていき、棚に置いた。茶の間に目を移すと、修羅が新聞を読んでいるようだった。


 「砂輝さまは今頃茶菓子を朝食にしておるだろうな」

 「お料理なさるのでしょう?」

 「客人から戴いた土産を消費するために朝も昼も晩も菓子を召し上がっておられるそうだ」

 
 およそ栄養に偏りのありそうな食生活をしているようだ。大量の糖質をとっているというのに、本人の体型は寧ろ痩せ型だ。担当医でもある耀魔が不思議がっていた。


 「全部魔力の源になっておられるようだ」

 「シャオ、アースくん朝刊見てよ」

 「はい」


 修羅は情報収集のために新聞会社四社と契約している。シャオは、時々その手伝いをさせられる。隊長は皆新聞を読むらしい。無愛想で一見学のなさそうなキルアも読むし、当然砂輝とその弟子たちも読む。この国の新聞だけでなく、伝書鳩が他国の新聞を持って来てくれるのだ。
 

 「修羅」

 「ん、どうした?タイガくん」

 「砂輝さまが呼んでる」


 タイガの発言に修羅とシャオはすぐに服を着替え始めた。アースも修羅に促され、さっさと白の法衣に着替えた。薄い自分の身体とは違い、程よく筋肉のついた修羅と、筋肉質なシャオの身体を傍目で見た時、アースは心の底から落胆した。


 「おはようございます、ボス」


 講堂に着くと、代表して修羅が挨拶をし、シャオとアースはそれに倣ってお辞儀をする。所謂朝礼だ。


 「おはよう、皆揃ったな」

 「砂輝さま、相変わらずお菓子三昧のようですが?」


 砂輝が肘を置いている文机をちらっと見た耀魔がさっそく突っ込んだ。「ボスに対して最年少が遠慮なく言える組織というのも珍しい」とキルアがアースに耳打ちした。キルアの言葉に、修羅とシャオも苦笑を浮かべながら肯いた。


 「ずっと仏様の前に置いておくのは、菓子にも客人にも申し訳ないだろう?」

 「お気遣いは素晴らしいのですが、ご自分のお身体にもお気遣いを」


 全く遠慮なしの耀魔の発言に、砂輝は項垂れるしかなく、はいと頷いた。トップに倒れられるというのは、修羅たちだけでなく、ルミエール・カマラード自体が混乱してしまうことになる。


 「砂輝さま」

 「智慧トモエ、どうした?」

 「提多ダイダです」

 「こんな朝から何用だ」


 文机に肘をつきながら砂輝は提多を睨むように見据えた。それに対し、不機嫌そうな顔で入って来た提多が一瞬躊躇った。神々しさと威厳を併せ持った雰囲気を出し始めた。
 提多に反応したのは、警戒心が剥き出しとなった双子だけではなく、アースも同じだった。そして、反応どころか敵意さえ剥き出しにするのは修羅だ。鬼は畏怖し、人間は恐れる鬼神の醸し出す気配はさしもの提多でも怯む。


 「修羅いんのかよ」

 「そりゃあ、本部の人間だからな。誰からも歓迎されていないようだが、この状況で何を言いに来たのだ?」


 試すような笑みさえ湛え、まさに余裕を見せながら砂輝は告げる。それに対して提多が小さく舌打ちした。


 「相変わらず余裕そうじゃねぇの」

 「其方相手だからな」

 「舐めやがって」

 
 砂輝は、つまらなそうな表情を浮かべ、智慧に目配せをした。「相手をしろ」という意味の合図だ。


 「さっさとボスの任降りやがれ」

 「この椅子が欲しいのか?」

 「いつまでもトップ」

 「さっきから聞いていれば、ただの嫉妬じゃないのかな?」


 修羅の発言に提多の額に筋が出た。ご立腹のようだ。修羅たちにとっては、提多が切れたところでなんら問題ではないのだ。満場一致で帰れという雰囲気を醸し出す。特に修羅とキルアのあからさまな態度には、砂輝も笑うしかなかった。


 「トップになっても付いてこない気がするが?」

 
 そろそろ暴れそうになったところで智慧が提多を張っ倒し、さらに襟を掴んで引き摺って行った。穏やかな僧侶軍らしからぬ行動にアースは呆然としていた。


 「僧侶ですよね?皆さん」

 「しょうがない。智慧さんがいる時に来たあの人が悪い」


 智慧は、第二位の弟子であり、ルミエールナンバー3の権力を持つ。彼は提多を弟子のなかでも特に嫌っている。ここまで我慢したことを褒めたいと砂輝が言った。


 「率直に聞くが・・・天使から見てあの男をどう見る?」

 「トップには相応しくないうえに、見た瞬間に不快感を覚えました」


 同感だとばかりに修羅たちが頷いた。砂輝は「なるほど」と頷くだけだった。真っ白な心で人を見ることの出来るアースから見た評価は最悪だった。トップになりたいと言っている男が、なった際に部下となる存在から不快感を示されたとなれば、フォローもしてあげられない。間違いなく、ルミエールは分裂する。砂輝もそれを分かっているから譲れないのだ。


 「帰ったか?智慧」

 「えぇ、追い出してやりました」

 「相変わらずの提多嫌いだ」


 提多がこの寺を破門される前、修行僧だった頃にいじめを受けていたということが間違いなく嫌いになった原因だ。修行僧をストレス発散のために虐げていることを、砂輝が知らないはずもなかったのだ。何度も罰を受けさせても止めず、挙句に修行僧一人を暴行の果てに殺害してしまう事件が起きた。流石の砂輝もそれに対して罰だけで済ますことはなく、処刑並みに重い破門になった。


 「破門なさったのですね」

 「私に怪我を負わすくらいならば許すが」

 「十分な動機だと思うのですが」


 砂輝は、自分に対する危害ならば少々の説教だけで済ませるほど軽い罪としている。暗殺や謀殺などに関してはその前に止めるため、それも少々痛めつけて見過ごす。修羅たちにとってはその方が信じられないのだ。


 「気を取り直して・・・誰か、菓子の片付けを手伝ってくれ。輝夜は・・・ダイエットだったな」


 女の繊細な心情に関しては察し、砂輝は輝夜と愛弟子の一人冨楼那には菓子をあまり食べさせないのだ。果物ならば喜んで食べてくれるのだが。


 「アース、食べてみるか?生菓子だが」

 「こ、これがお菓子ですか?」


 芸術品のような上生菓子を初めて見たアースは、その美しさに度肝を抜かれた。砂輝はこのような生菓子や、饅頭、季節ごとの餅、時に洋菓子、そして一番使い勝手のいい果物など、大量のお土産を食べている。


 「お土産の処理部門でも新設しては?」


 アースの発言に、修羅たちは沈黙した。アースも言ってはいけなかったのかと思わず俯いてしまった。


 「それは思い付かなかった」

 「え?」

 「なるほど・・・いや、そうか。部門を作るよりも貧しい者達に分ければいいのか」


 アースの提案が結果的にいい方法を導き出せた。それに関してアース自身が安堵した。空気の読めない発言をしたのだろうかと。


 「釈尊さま!」

 「葉?」


 アースは、思わず誰だろうかという表情を浮かべた。それに対して修羅が答えた。葉は砂輝が溺愛している三つ子の一人で、監視部門のうち、他国に情報網を張り巡らせている存在だ。また、鳳魔や耀魔とは違うが局所的な部分を視ることができる。普段、砂輝以外の前にほとんど現れないのだが、それだけの緊急事態が起きたということだとキルアが補足した。


 「ラフィールの王家が崩壊しました」

 「・・・崩壊?」


 よっぽどの事がなければフリーズしない砂輝が一瞬思考の回転を止めてしまった。砂輝は、葉を見つめ説明を促した。


 「ラフィール国で王に対して民が蜂起しました。ヒエラルキー関係なく、一体となって行われました」

 「国民全体で蜂起か・・・つまりは王は負けたと」


 身分での差別ではなく、王家と国民の差別が大きかったとは葉経由で聞かされてはいたのだ。そこでさらに、多額の国債を抱えてしまったラフィール国は、国民の納税額をあげたという。我慢に我慢を重ねた国民の不満が爆発し、今回の王家崩壊と独裁政権崩壊という形で国そのものが存亡の危機に瀕している状況だという。蓮の国ロータスもラフィール国との貿易はしている。ラフィールの国債に対する請求もしていたところなのだ。


 「ロータスの会議は?」

 「九時から行われる予定です。参られますか?」

 「止むを得まい。多門たちは任務に入っていたな」


 砂輝は、自分の弟子たちが任務の予定が入っていることを確認した。多門は昨晩任務へ行き、先程までいた智慧は別任務で他国へ向かってしまっている。三つ子は常に監視中。宇流は諜報任務の遂行中。冨楼那フルナ須菩提シュボダイ多律タリツ、羅那は本部とは別のアジトとの合同任務中。


 「・・・第一部隊」

 「まさかとは思いますが・・・」

 「我々に・・・」


 修羅とシャオが目を泳がせながら砂輝の言葉を待った。


 「私の護衛任務だ」

 「絶対要らねぇと思うんすけど」


 ゲルの声に修羅たちも合意した。しかし、組織のトップが脇が空いているという状況は流石に危険だ。雰囲気から闇側の人間ながらばまず近づくことさえ躊躇うが、時々提多のような猛者が現れるのだ。


 「アースくん、初任務は砂輝さんの護衛だってさ。よっぽどの事がなければ何事もなく終わると思うけど」

 「お菓子を食べながら会議をするような所だからな。緊張しなくてもいいぞ」


 修羅もシャオも鳳魔も、護衛任務は初めてなのだ。他国の王の護衛はあるのだが、砂輝の護衛はしたことが無かった。このタイミングでその任務が回ってくるとも思わなかったのだ。状況が状況なので仕方がないと腹を括るしかない。緊張しなくてもいいとは言うが、その場に王たちがいる時点で緊張せざるを得ないのだ。砂輝の護衛をするつまりはその会議中王や王室関係者全員を守ることが任務なのだ。


 「では、行こうか」

 「はーい」

 「イブ、おいで」


 砂輝の呼びかけとともにイブと呼ばれる何かが外から飛んできた。イブの正体は、砂輝の召喚獣フクロウだった。アースは、召喚獣は一人ではないのかと不思議だった。


 「砂輝さんは、召喚獣一体につき、一つ武器を持たせてるんだよ。イブくんってことは白桜ですか」

 「よく見ているな、相変わらず」


 修羅の予想に対して砂輝は苦笑した。人間観察はシャオたちでは飽き足らず、砂輝にまで及んでいたのだ。どの召喚獣にどの武器を持たせているのかも知られてしまっていた。


 「菓子一つ土産に持っていくか」


 砂輝は適当に土産を手に取ると、イブに吸い込ませた。

 蓮の国ロータスの城は首都スイレンの中心にある。その場所に砂輝一行が到着した。城まで修羅とシャオを他所にアースと砂輝が談笑していた。


 「砂輝さま、どうぞお通り下さい」

 
 パスなしで城内に入れてもらえる様子を見ると、やはり只者ではないと思えて仕方が無い


 「王、会議を開くと聞いて参りました」

 「よく来たね、砂輝殿」


 砂輝は優雅にお辞儀をすると、適当な席に座った。修羅とシャオは砂輝の両隣に控え、砂輝の隣にアースが座った。


 「王、土産です」

 「お裾分けかね?」

 「客人から戴いたのです」

 「相変わらず慕われているようだねぇ」


 ほとんどの存在を尊ぶべき存在として接する砂輝は、王に対して最大限の敬意を払う。和気藹々とした二人の雰囲気に、この場に自分たちは必要なのかと修羅たちは控えながらも首を傾げるしかなかった。


 「本題に入りますが、ラフィール国についてご存知かと思いますが、どうお考えでしょう」

 「突然のことで動揺はしているが、この国にはそこまでの損害はない」

 「確かに。何らかの任務の要請はないということでよろしいですか?」


 砂輝の問いかけに対し、王は渋った。損害がないということだが、それでも任務がないとはいえないのだ。


 「影響はないとはいえ、貿易の相手だったし、縁もある。詳しい情報が知りたい」

 「懸命なご判断だ」

 「調査任務を依頼したい」


 王の依頼に修羅とシャオが即時に立った。それが承知したという意味の仕草だ。それを知らないアースは二人をじっと見ていたが、倣って立ち上がった。王の依頼を引き受けるのは、第一部隊と第三部隊であることが多い。修羅とシャオへの支持は特に厚い。実力に関しても申し分ないと王からの評価もある。


 「本部にいるメンバーは皆、ルミエール・カマラードのなかでも抜きん出ている」

 「私、大丈夫でしょうか」

 「そこは其方次第だ。一つ一つの任務を悔いなくこなすこと。それが信頼に繋がるというものだよ」


 アースは、はいと頷いた。修羅とシャオは鳳魔に連絡を入れた。すぐにでも出発するつもりでいるのだ。


 「タイガくん、調子は?」

 「絶好調!」

 「コンは」

 「元気だよ!」


 コンは、召喚獣で唯一人の姿に変身することが出来る。狐という生態を活かした行動ができることも召喚獣の便利なところだ。召喚獣最年長は、やはり砂輝の召喚獣たちで、フクロウのイブは特に古い。


 「修羅、シャオ、アースよ調査任務を開始し、逐一報せるように」

 「はっ」

 
 修羅とシャオが威勢よく返事をし、アースは強く頷いた。城の前に鳳魔が来たという知らせを受け、修羅とシャオ、アースは任務の準備を始めた。


 「頼もしい者たちが増えたな、砂輝殿」

 「えぇ、本当に。第一部隊だけでも一体何人分の戦闘力なのかと末恐ろしいほどです」


 砂輝にとっても、王にとっても、本部に現れた最強のグリエ・リーガーたちは希望だった。闇側も少しずつ範囲を広げ始め、不当な手段で大量の殺戮兵器を開発していると三つ子の一人から知らされた。流石に余裕綽々ではいられない。

 そして、一旦第一部隊の御堂に戻ってきた修羅たちは任務のための作戦と攻略法を練っていた。戦闘中は修羅の指揮だが、現場の指揮は意外にもシャオだ。国全体を見張るのは、鳳魔が開発したアンドロイドたち。ほとんど人にしか見えない物や、動物にしか見えないそれらの目にはカメラを埋め込まれており、鳳魔がその様子を随時情報処理部門にいるキルアに知らせるということになった。それはキルアの合意の上だ。


 「では、私は国民たちの様子を見ます」

 「え?」

 「きっと傷付いておいででしょう。彼らを慰める者が必要かと」


 修羅たちは、アースの言葉に世界の楽園を任される理由が分かった気がした。孤独でありながら、籠の外に憧れた天使は、外に出たとしてもスタンスは変わらず、ただただ天使として人々に寄り添うことに重きを置いていたのだ。


 「わかった、国民のケアは君に任せるよ」

 「ありがとうございます」

 「戦闘になった場合は応援要請すると思うけど、そのつもりで」


 他の部門との打ち合わせも終え、第一部隊は本部を後にした。第一部隊の作戦会議をこっそり聞いていた砂輝は、その内容に吐息を漏らす。流石にそれぞれの世界の代表者は心構えも覚悟も凄まじいものがあった。


 「えぇっと、アースくん、これが駅」

 
 修羅はまず、世間知らずなアースに移動手段から教え始めていた。第二の任務はアースに『鳥籠』とロータス以外のものに慣れてもらうことと、覚えてもらうことだ。生まれてから一度も出たことのなかった外の世界を少しでも知った欲しいというのが本心だった。交通手段についてのことを一通り教えると、列車に乗った。


 「鳳魔さん、そのお人形さんはなんです?」

 「このぬいぐるみの目にカメラが搭載されています」

 「盗撮にならない?」


 バレなければ盗撮にならない、という少し歪んだスタンスで行動していた。リスを召喚獣としている鳳魔だが、クマのぬいぐるみも召喚獣の代わりを務める。リスというだけあり、やはり制限はあるもので、代わりにクマのぬいぐるみにあらゆる任務のグッズを保管していた。リスは武器庫だ。


 「鳳魔くんね、最年少だけど銃の腕ピカイチなんだよ」

 「ほぉ・・・」

 
 愛らしい見た目とは裏腹に、行動は泥棒まがいなことがある。


 「ボスの寝室を撮ってた時はびっくりしたもん」

 「そんなことをして怒られないのですか?」

 「それが子どもには怒らないのだ」


 子どもと動物には激甘で、子どもにいたずらされようと、動物に着物を破られようと全く怒らなかったのだ。子どもに刺されても慰めるだけで終わりそうだと修羅たちの方が心配になるほど甘い。


 「面白い方です」

 「まぁねぇ。あ、ここで降りるよ」

 「あの、ラフィールではないようなのですが?」

 「ここから歩いていくんですよ」


 ホームを降り、結局県境まで馬車で向かうことになった。車で行っても二十分はかかると言われてしまっては、流石に歩く気も起きない。
 そして、二十分後


 「初めての内戦後の訪問の感想は?」

 「曇天の空のような澱んだ雰囲気を纏った国ですね」

 「なるほど、よくわかった」

 「さぁて、開始するか」


 四人は同時にラフィール国の門を潜った。








 












 
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