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第6話〜俺たちのシンボル
しおりを挟むアースにとって初任務だったラフィール国の一件の翌日は、砂輝に報告書を提出し、完遂したことを認められ、一日中好きなように過ごすことになった。修羅とシャオは朝から道場に篭もり、別々の修行をこなし、鳳魔は道具の開発のために研究所にこもった。そしてアースはというと
「砂輝さん、今日はお忙しそうですが」
「いいや、いつもの事だ。それほどでもないよ」
いつもの事だとは言いつつも、今日は弟子が全員任務に出ているため、ボスである砂輝が自ら様々な仕事に追われていたのだ。朝礼の際に
「ボス、今日第二部隊は合同任務に出ますので、一日いません」
「了解。私も今日は色々とすることがあるのでな。何かあれば念話で連絡を」
と軽くそれぞれの部隊がスケジュールの確認をし、解散した。第一部隊だけが休日と言っても差し支えない一日となったのだ。じっとしている訳もなく、朝礼が終わるなり修羅もシャオも鳳魔もそれぞれに行動し出した。しかし、アースだけは何をすればいいのかわからないのだ。
「これから王のところに任務について報告して来る。一緒に行くか?暇そうだが」
「あ、はい。お見通しでしたね」
「ふふっ、では行こうか。正装の服でも買っていくか」
砂輝は、アースが見る限りは三着目の着物を用意し着付けた。アースは今日は白のケープを羽織り、前に翡翠色のリボンで飾った。一日目に気を利かせてくれた輝夜が買ってきてくれたのだ。どう見ても女物であるとは言えなかった。
「綺麗なリボンだな」
「輝夜さんが買ってきてくれたのです。私は翡翠色が似合うそうです」
「なるほど、輝夜は人を一目見てその人に似合う色を選ぶそうだからな。確かによく似合っている」
輝夜も砂輝と同じく人のオーラが見える。そのオーラと合う色を選んでいるという。砂輝が見る限り、アースのオーラはロイヤルイエロー。それには確かに緑系の色は合う。砂輝の色については、「似合う色が多すぎて困ってしまいますわ」と言う。
「私のオーラは白だそうだ」
「それは確かに似合う色が多そうですね」
修羅は紅蓮。シャオは王の色紫。鳳魔は水色。耀魔は銀色。キルアは蒼で、ゲルは緑。輝夜はオレンジだ。ヨミは緋色と何となく魔力で連想される色だった。
「色にも意味がある。色言葉というのだ」
「色言葉?」
「例えば、そうだなシャオの紫は、高貴、神秘というような」
花や宝石に意味があるように、それぞれの色にも意味がある。それは人を象徴するものもあれば、その人個人の心を象徴するものでもあるという。
「修羅の赤は情熱とか、正義とか」
「なるほど、確かに象徴していますね」
アースと砂輝が談笑していると、そこに修羅とシャオが現れた。
「・・・姉妹かと思ったよ」
思わず口を滑らせてしまい、修羅はすぐに口を噤んだ。しかし、覆水盆に返らずである。言ってしまったからにはもう戻れない。アースと砂輝からかなり睨みつけられた。中性的な容姿をしている二人にとっては、おそらくコンプレックスなのだ。
「まぁ、修羅と修黎も変わらんが」
「シャオ・・・」
修羅も中性的な童顔で、少年という印象から抜け出せない。鍛えてしまったことで背が伸びなくなったのだ。結果残ったのが小柄ながらも強靭な肉体である。ただ、修黎に関しては、その女性らしい容姿を武器としているところがあるため、コンプレックスには感じていない。寧ろ、嬉嬉としてその現実を受け入れている。
「君は背が高くてしかも筋肉質だからそういうことが言えるのさ」
「着替えをする時のお二人の身体を見ると自分の体型に愕然とするのです」
彼らがそう言っているのとは比ではない双子がいるのだが。十五という肉体年齢でありながら、見た目はどうみても少年。いつ大人になれるのかと本人が疑問に思うレベルで成長しない。
「さ、き、気を取り直し、出かけようか」
「あ、俺も行きます。用があるんですよ」
「私もちょうど武器屋に用がある」
結果的に、ほぼいつもの面子で出かけることになった。それぞれに別の目的があるとはいえ、アースにもその店を見てもらえばいいだろうと踏んだのだ。
修羅たちがまず最初に寄った場所は、シャオが用があると言った武器屋だった。シャオが贔屓にしている店で、妖刀や破魔刀、浄化するための刀や弓などを取り扱っている。今回の目的は新たな破邪の弓だ。シャオは基本的に銃以外の武器ならば扱える。弓の腕は特に一流だ。千里眼を発動しながら撃つため、命中率はほぼ百パーセント。神眼は敵を逃さない。
「修羅さんの武器は?」
「俺のは完全オーダーメイドで、錬金術師が作ってくれるんだよ」
修羅の武器は鍛冶師ではなく、錬金術師が生成する。元々は黒い鋼なのだが、金剛石に並ぶほど強固な造りになっており、修羅が国一つ滅ぼすほどの破壊力で剣を振るおうと罅一つ入らない。
「では砂輝さんは?」
「私はまぁ昔の鍛冶師に造ってもらった」
「昔?」
「贔屓にしていた鍛冶屋の家系が既に途絶えておってな。残念なことに壊れても修復も出来ぬのだ」
もう数百年前に五百年続く鍛冶屋の最盛期の鍛冶師によって生み出された最高峰の武器たち。国宝級の武器を造る腕を持つ家系は既に途絶えており、さらに至上の武器たちは二度と造れない。
「一人だけ・・・これを作ることができる腕を持つ鬼神がいたのだがな」
「鬼神が?」
「その鬼神も・・・いないしな。ふふっ、白けてしまったな。とにかく、大切なものだということだよ」
普段錫杖として使われる武器は四本あり、巨大な薙刀となる清廉で優美な白蓮。槍となる神秘的で艶のある青桜。刀となる華美ながらも雅な緋桜。陣などを敷く際に使われる杖である美麗で澄み切った翠蘭。数多の鍛冶師が憧れた腕を誇るその鍛冶師は、砂輝のためだけに、生涯最後の作品を造り上げたのだ。
「なるほど・・・うぅ、私に合う武器はと思いましたが、難しいようですね」
「あぁ、アースくんに合う武器かぁ。確かに難しいかも」
アース本人も様々な武器を手に取り、修羅たちも何が合うかを考察する。剣という人を斬るものはあまり合わない。槍も少し違う。天使のイメージとして思い浮かぶものを上げてみた。
「ミカエルなら剣だし、ガブリエルならラッパでしょ。ウリエルは書物とか巻物・・・ラファエルは・・・まぁ置いといて」
天使の象徴となる武器についても出したものの、それがアースに合うかというと、そういう訳でもない。何故か様々な武器が合わないのだ。人を傷つける武器はやはり違う。
「杖でどうだ?」
「杖ですか?」
「ウィングスタッフか・・・シエルスタッフとか」
錫杖とは違う杖で、木魔法で造られたスタッフと呼ばれる種類の杖だった。翡翠色に薄く塗られた透明な羽が付いたウィングスタッフ。瑠璃色の宝玉と、それを囲むブルーコメットという宝石が埋め込まれた銀色のリング。見るからに華美な杖だ。
「ブルーコメットか、まだこの世にあったのだな」
「そうなのですよ、砂輝さま」
「珍しいものなのですか、その宝石は」
ブルーコメットとは、隕石のことであり、何らかの現象が起こることにより青色に変色したということでブルーコメットの名が付いた。別名神の涙と呼ばれる美しい石だ。
「黒く焦げるはずの隕石が青色になる訳だからね、神の御業って謳われているんだよ」
「神の?シャオさんがなさったのですか?凄いです!」
「え、いや・・・」
修羅もシャオも忘れていた。アースは、純粋無垢というのもあり、信じやすいというのも確かにあるが、それ以上に無知であるということを
「どうする、アース?他にも武器はあるが」
「シエルスタッフにします」
「えぇ、高っ・・・」
一千万レン。レンとはこの国の通貨である。修羅はそのスタッフの値段に目を剥く。ブルーコメットが稀少であることはわかるが、まさかここまで値が張るとは思わなかったのだ。さらに、それを一括で払ってしまう砂輝も異常だと思ってしまう。砂輝は、様々な国の王の任務を請け負うため、桁違いの報酬が与えられる。修羅とシャオなど比べ物にならない。
「さて、今度は・・・近いのは城だが、アースの正装の服を買わねば」
「ボスがお気に入りのブランド、着物ばっかですけど」
「もうひとつお気に入りがあるんだ。そこに行こうと思って」
砂輝は、本人は質素な暮らしが好きなのだが、服は派手なものを好んでいる。さらに、好みの服はどれもこれも高価な値が付いており、倹約にはなれないのだ。
案内されて着いたのは、隣町の服屋。トーレンというパーティ用のドレスやスーツ。お嬢様が着そうなドレスなど、庶民が来るには敷居が高すぎる店だった。ショーウィンドウのドレスを見ても、明らかに高級品。初めてこの国に来た時、修羅もシャオも鳳魔耀魔も買ってもらっている。
「す、すごいです」
「なんでレディースのところ来てるんだろうね」
「何故だろうな・・・」
理由など聞かずともわかった。アースの背丈に合う服がメンズにはないからだ。そんなことは露知らず、嬉々とした表情で服を選んでいた。
「まぁ、メンズ来ても男装にしか見えないしねぇ」
「確かにな・・・」
修羅とシャオは、外野で姉妹のように仲良く服を選んでいるアースと砂輝を見守った。アースが選んだのは、純白の法衣で胸元には翡翠が飾られている。三十万レンの法衣だったが、普段から見ている修羅たちからすればまだ安い方だった。
「次は、修羅だな」
「王に報告してからでいいですよ?ちょっとした小物買いたいくらいなんで」
「そうなのか?では、王のところに行こう」
修羅からすれば、まず何故自分たちの買い物よりも王への報告を優先しないのかという点について疑問だった。
因みに、城への移動は少し遠いためループである。門番に開けろと言うよりも前に城内に入った。
「初見だな」
「な、なんだお前は。認可証を見せろ」
「ボスのこと知らない人ってこの世にいるの?この人は、ルミエールのボスの千蓮寺砂輝さまだぞ」
名前を聞くなり入隊したばかりの真面目そうな青年は、大慌てで頭を下げ通した。顔は知らずとも名前は認知していたのだ。この世に生きていて彼の名を知らないというのは、産まれたばかりの他国の子どもくらいだろう。
「・・・で、其方」
「は、はい」
「この城の関係者ではないな」
砂輝が少しだけ青年を睨むように見つめた。青年の中身を暴くかのように見据える。見た目から見ても、青年は明らかに新人であった。この城に来たばかりだとしても、彼のからはルミエールの気配すらしない。
「お言葉ですが、あなたは嘘をついていらっしゃいます」
「おっと・・・アースくん?」
「嘘?」
人間の嘘を知らないアースだが、決して嘘が見抜けない訳では無い。嘘をついていると直感で察したのだ。
「嘘でも付かない限り、オーラは震えません」
「なんだお前は」
「ルミエール本部第一部隊のアースです。お見知り置きを」
・・・アースくんこわーい
修羅は心のなかで呟いた。柔らかい敬語だが、容赦なく追い詰めるような雰囲気。ここ二日でこのような口調や雰囲気を出せるうになるとは。真っ白なだけあり、吸収力がある。そして、柔らかい口調で追い詰めるような雰囲気を出す者と言えば一人しかいない。
・・・ボスの影響だねぇ~
「捕らえますか、砂輝さま」
「そうだな、色々聞かせてもらおうか。トレミーの諜報部員からす座のコルボー」
砂輝に名前を当てられたうえに、自分の写真まで出された。鋼のメンタルを持つ諜報部員であっても怯え出した。諜報部員のなかでも新人だった。
「報告せねば!」
急いで踵を返すコルボーに、シャオが札を貼り付け身動きが取れないように金縛りをかけた。身体が岩にでもなったかのように動けない。
「さすがルミエールの秘術使い」
「私は神だぞ?この程度ができない神など神ではない」
「できない神様を敵に回しましたね」
シャオの発言に対してアースが鋭く突っ込んだ。やはりこの二日で様々な影響を受けてしまった。鋭いツッコミをすると言えば、双子の兄弟耀魔鳳魔だ。
「俺みたいにならなきゃいいけど」
「大人っぽく見せようと香水をつけてみたり、豪奢なアクセサリーを身につけたり」
「そっちじゃないよ!」
シャオの言葉に対し、修羅が少しだけ立腹したらしく言い放った。砂輝も初耳であった。確かに香りが変わったり、アクセサリーを身につけるようになったとは思っていたが大人っぽく見せるためだったという。大人っぽく見せるためと言っている時点で子どもな気がするのは自分だけか、と首を傾げた。
「大人っぽく見せたいなら砂輝さまを真似ては?」
「いやぁ、それはね・・・砂輝さんの香りってあるわけ。どの香水ではなく、自然についちゃった感じ?」
「線香を炊いておくか、香木を買うかだ」
甘い香りではなく、そこまで爽やかな訳では無いが、落ち着く香りだった。落ち着きのある香りを修羅が纏ったとしても、本人に落ち着きがないため効果はないだろうとシャオが毒を吐く。
「ま、まぁ気を取り直して・・・ボス、そいつは?」
「トレミーの諜報部員。宇流からの情報でな。ロータスの王宮に侵入するスパイがいると。相手は選べ」
さらにいえば、砂輝はそれを王にも伝えており、また写真も見せてある。つまり、ロータスの王は態とこの男を受け入れた。この城からコルボーが逃げられないように。
「ということはですね・・・このタイミングで王宮に来たのも、王宮から王を出さなかったのも作戦なんですか?」
「そういうことだ」
アースは絶句した。王宮にこのタイミングでコルボーが入ってくることも、軍に入隊することも、態々警備部に置いたのも、今日ここで顔見せするのも、砂輝と王の作戦だったというのだから。ラフィール国の件は予想外であったが、どうせならこの任務の報告のために上がる今日コルボーに王宮内の警備をさせたのだ。
──パキンッ
そのとき、コルボーから何かが割れるような音がした。術を破ったのだ。
・・・ほう、もう一人いるな。コン
・・・おう!
心のなかで話かけ、コンを召喚した。匂いを嗅ぎ、犯人を探し出す。コンの目でシャオは相手を探す。
「修羅、私たちの真上の天井を殴れ」
「ん、了解」
修羅が天井を殴るなり、別の男が落下してきた。もう一人侵入していたのだ。写真にはないが、トレミーの諜報部員が二人して罠に嵌ったことになる。
「任務とかになると頭良くなるよねぇ、シャオって」
「任務とかには余計だ」
「間違ってはいないかと・・・」
シャオの学に関してはさしものアースも驚かされた。
「気絶してしまった。まぁいい」
砂輝のみ真面目に対処していた。今度はコルボーの方に視線を向ける。そして尋ねた。
「なぜ、闇側へ?」
「闇側に行けば、嫌いな奴に復讐し、殺せると思ったからだ。最高じゃねぇか?」
「馬鹿じゃねぇの?」
修羅は声音を低くし、厳しい口調で吐き捨てた。普段の飄々とした雰囲気が消え去り、鬼神の顔が現れた。
「復讐したいなら正々堂々戦えよ。罠に引っ掛けて謀って殺すなんて卑怯なことはせず、そいつより強くなって参りましたって言わせるんだよ。怯えた表情を見て愉悦に浸って嗤ってやるのが一番効く」
アースは修羅の無茶苦茶な言葉の羅列に驚愕した。虫も食わないような穏やかな修羅は心のなかでは誰かに対して復讐したいという野望を持っていたのだ。ルミエールの本部の者たちはそれを知っている。
「覚えてろよ、ワールドセイス」
「なっ・・・」
「ここ数年のうちに、お前たちが本部を置いてる国は俺たちの者になるんだ。お前たちの居場所はなくなる。その時、お前たちの屈辱に震える顔を見ながら酒でも煽って宴でも開いてやるから」
修羅は、ワールドセイスの国を征服し、自分たちの国にする気でいる。気でいるどころか実現させるとさえ言っている。強くなった上で、ワールドセイスのプライドを殺す。屈辱に震え、羞恥心で顔も挙げられないくらいズタズタに心を切り裂き、抉る。それが修羅の復讐劇だ。砂輝は、それを肯定するつもりは無い。しかし、彼の誓いや覚悟に対して否定する気もない。
「コルボー、其方はまだ百年も生きていないだろう。光で生きるも闇で生きるも其方の自由。しかし・・・私の弟子の一人を傷つけたのは、其方か?」
「え・・・」
本部には十大弟子以外にも多くの弟子がいる。修行僧から法印大僧正まで存在するのだ。コルボーと気絶している男は、弟子の一人をリンチした。まだ少年で、立派な僧侶になると言った孤児だ。幼い頃に虐められたのに、強くなって彼らを見返したいと願ったのではなく、自分のような苦しむ人の心に寄り添いたいと願い修行僧になった子だ。
「さて・・・行ってこい」
砂輝がそう言えば、一瞬でコルボーともう一人の男が消えた。
「智慧に引き渡した。ボコボコにされるだろうな。よし、王宮には用はない。修羅の目的のところに行こう」
「え、王に報告は?」
「朝に済ませた」
砂輝の目的はあくまで諜報部員を暴くことだ。それが出来れば王宮にはそもそも用はない。朝に会おうと思えば会えたが、ちょうどトレミーたちの力が弱まる昼頃を選んだのだ。
「じゃ、じゃあ小物を見に行こっか」
「小物ってなんだ?」
「ふふっ、向こうで考える」
顔を見合わせるアースたちを他所に、修羅はご機嫌良さそうに道を進む。先程の不機嫌さは息を潜め、穏やかで飄々な彼に戻った。そして、辿り着いた店にシャオが目を見張り、砂輝は面白そうに笑みを浮かべ、アースはどういう店なのか分からず首を傾げた。エーデルというジュエリーショップだった。
「えっと・・・修羅?」
「外で待っていたまえ!」
・・・若干口調が変わっていたような
修羅は店に転がり込むように入って行った。アースたちは完全に取り残され、呆然と佇んでいた。
しばらく待っていると、ひどく嬉しそうにスキップしながら戻ってきた。宝石を買ったのだろうが、バックにしまって見せてくれなかった。
「気に入ったのは見つかったか?修羅」
「はい!」
「何を買ったんでしょうね」
「気になるな」
今度は弟と姉のような構図になっている修羅と砂輝をアースが見守る番になった。
散々歩き回り、休日だったはずが若干任務に巻き込まれたような形となった二日後。第二部隊のキルアたちが帰ってきたのだ。
「第二部隊の皆、ご苦労だった」
「耀魔が大活躍でしたよ」
「戦傷者の治療でしたしね。砂輝さまの物資輸送のおかげで助かりましたわ」
第二部隊の任務は、一週間前まで戦争をしていた地域の戦傷者や被害者のメンタルケアと治療だった。キルアとゲルは自分たちはいるのだろうかと首を傾げるしかなかったが、耀魔と輝夜が治療やメンタルケアをしている間、全員の腹を満たすために料理を振る舞っていた。戦闘になることはなく、復興のために期間限定でルミエールの拠点となる家が置かれ、避難所にいた者達も、家が建つまでの応急処置として木属性の魔術師十人ほどを緊急出動させて家を建てた。
「懸命で賢明な働きぶりだな。文句なしで任務完了だ。ご苦労、よく休んでくれ」
「あちらからもお手紙が寄せられております。後でお読みください」
キルアたちに、帰ってきた多門から二百通近くの手紙が渡された。
「多門は、どうだった?」
「いやぁ、こんなに時間がかかるとは思いませんでしたが、交渉成立です」
「そうかそうか。ご苦労だった」
多門に課せられた任務は、闇側の国の王にその国に拠点を置くという交渉をすることだった。当然、光側の拠点を置くと言えばまず首を撥ねられるため、如何にして落とすかが問題だったのだ。その交渉に丸一日かかってしまったのだ。事実上闇側の国に光側の監視がついたということになる。
「エグいことやるっすね」
「ねぇ、凄いですね。それを落とす多門さんも流石というか・・・怖いっていうか」
ルミエールナンバー2の権力とそれに見合った実力を持つことと、砂輝の側近というだけあり、恐ろしいほどの交渉成功率だ。
「それぞれご苦労だったな」
「俺たち全然仕事なかったんだけどね」
「まぁ、任務がないということはそれだけトラブルがなかったということでしょう。いいことですよ」
若干暇だった二日間だった修羅たち第一部隊は、ほぼ何もすることがなかったのだ。ずっと特訓に明け暮れ、武器磨きに明け暮れ、アースは砂輝との特訓に明け暮れ、鳳魔は延々発明と研究に明け暮れた。
「他に報告があるものは?」
「はいはーい」
修羅が挙手した。何事かと思うほど機嫌が良かった。
「前に行ってもいいですか?」
「え?あぁ、構わんよ」
流石の砂輝も戸惑いながら、いつも座っている椅子から退こうとしたが、それは多門が止めた。
修羅が機嫌良さそうに出したのは、二日前に購入したと思われるエーデルの袋。
「あぁ、なるほど」
砂輝はそこで察した。
「みんなに渡していきまーす」
修羅はそう言って、アースたちにオシャレなケースを渡した。それぞれのケースにはそれぞれを表すシンボルが描かれており、シャオは桔梗と扇。アースは天使のシルエット。鳳魔は銃と雫。キルアは何故か狼とメイスで、ゲルは蛇と槍。輝夜は聖剣と白猫。耀魔は鳳魔とお揃い。修羅自身にもあり、それには鬼と十字架だ。
「ケースってデザインできたのね」
「中を見てみて」
一斉にそのケースを開けた。そこには水晶のピアスが入っていた。よく見れば、その水晶の中に何かが埋め込まれていた。
「このマークは何でしょう?」
「俺が勝手にグリエ・リーガーのシンボルを考えたんだよ」
蓮と太陽。後に太陽があり、それに重なるように蓮が描かれていたのだ。太陽もただ普通の一般駅に見る太陽のマークではなく、八つのハートのようなもので囲まれていた。そのシンボルも自分たちの色だった。第一部隊と第二部隊。ルミエールの戦士たち一つのシンボル。
「凄いです・・・」
「かわいい」
「僕たち、耳開けてない。開ける?」
「後で開けよう」
「開けなくてもいいよ。君たちのとアースくんはフックピアスだからね」
ピアスをつける習慣のない双子とアースだけフックピアスにしてあった。キルアたちは普段からファッションとして付けているということもあり、その必要はなかった。
「ありがとう、修羅」
「流石グリエのリーダー。やることが違うな」
「えへへ、照れるなあ。実はね、ボスがやってたの真似てみたの」
「ボス?」
砂輝も首を傾げていたが、どうやら多門は察したらしく、クスクスと笑っていた。修羅は、砂輝が昔仲間や弟子にお揃いの宝石とシンボルが埋め込まれた数珠を作ったということを聞いた際に感銘を受けたのだ。自分に大切な仲間ができたらその時にあげたいと。シャオたちが来てから、グリエ・リーガーのリーダーと任命されてから、実現させたいとその想いが再燃したのだ。ただ、肝心な第一部隊のメンバーがまだ三人しかいなかったため実現出来なかったのだ。そこに新星の如く現れたアースに、絶対仲間になりたいと一目惚れした。ここに実現することが叶ったのだ。本人にとってはかなり満足していた。
砂輝と多門も、その光景を暖かく見守っていたのと同時に懐かしかった。
「懐かしいな、多門」
「えぇ、本当に。その日が蘇った気分ですよ」
「因みに、その蓮はボスだよ」
「確かに砂輝さまと言えば蓮だよな」
称賛の嵐だった。朝っぱらとは思えない盛り上がりように、砂輝も気分が上がり、多門と茶菓子を頬張り始めたのだった。
応援ありがとうございます!
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