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第四番 〜守護者たちの行進曲《シュッツエンゲル・マルシュ》〜
終楽章〜医者の奏鳴曲《ソナタ》
しおりを挟む二週間前。僕は琥珀さんとヴェーダさんに問われた。
「ねぇ、海景くん」
「はい」
いつもの数時間に及ぶ治癒の時間を終え、目を覚ました琥珀さんと、意外にも頻繁に来るヴェーダさんは僕を見つめた
「砂歌さまの目は・・・治せない?」
思いもよらないことを問われたと思った。でも、この人ならいつか聞いてくるだろうとも思っていた。砂歌さまの目。幼い頃どころか生まれた日に奪われた視力。見る権利。見る権利は知る権利でもある。それを奪われた砂歌さま。その砂歌さまの目を治療する。それは何度も考えたことだった
「僕も、そのことは何度も考えました」
「そうだったのか?」
「砂歌さまの専属医でもあるらしいしね。何より海景くんが思わないはずないよね」
どうやって砂歌さまの目を治そうか。そして、砂歌さまを検査したのだ。そして愕然としてしまった
「目に異常はありませんでした」
「は?」
「原因不明ってこと?」
「はい」
この病院にエレベーターを設置したのは、階段が危なっかしかったからだ。見えない人に階段を使わせるのは厳しい。崖から落ちて大怪我しているところを紫苑が気づいて運んできたこともあった。かなり不便であるはず。にも関わらず、目の異常は見当たらなかった。そんなはずはないと何度も検査した。そして、ある可能性を導き出した
「呪いじゃないかって」
「なるほど・・・」
「最先端の技術でも見つけられねぇんだもんな」
「根拠はあるんです。センサーが目に反応しました」
その時点で呪いとしか診断できなかった。砂歌さまの母である砂羅は、呪いで視力を奪っていたのだ。その呪いを解呪する方法を考えた。でも、ロスト系真言の本は一冊もなかった。砂歌さまの家中の本棚を見てもなかった。その本だけが盗まれているのだ
「持ち出したのか、砂羅は」
「とことん砂歌さまを追い詰めたいようだね。その女」
「お前が読んだ本になかったのか?」
「方法までは載っていなかったよ」
この国の闇を描いた本。それにも方法は乗っていなかった。かけ方さえも分からなかったという
「問いながらあれだけど・・・視力が戻るとデメリットがある」
「見えるのに?」
「その分聞こえなくなるんだ」
失明している分、聴覚と触覚を異様に発達させた砂歌さま。つまり、視力が戻ることで聴力が低下する。それでも一般人と同じくらいだ。でも、聴力だけで未来さえも予知できるようになった砂歌さまがそれを失うというリスク。一番そうなって不安な思いをするのは砂歌さま本人。僕たち三人は沈黙した。
「百年以上だと考えるとさらにキツイ」
普通なら戻って喜ぶところだ。でも、砂歌さまは事情が違う。その聴覚でオンブルの存在に逸早く気付くことができる。
「一日だけでもいいから、俺たちの顔くらい見てほしいよな」
「そうだね・・・砂歌さまもそれは思ってるだろうね」
パルティータやヴェーダさんを合わせて出来そうなのは黎さんだ。ラプソディアの真言の強さは桁が違う。調律真言で作ることが出来るかもしれない。これを言えば黎さんは喜んで引き受けてくれる。
「・・・まぁ、これから考えていきましょう。琥珀さん、微熱ですから休んで下さい。あなた結構体調崩しますね」
「ここ最近のことなんだけどね。原因は怪我じゃないかな」
「あとストレスだろ」
空気を変えたと思ったら砂歌さまが如何に美しいかだの強いかだのという討論を開始したため、僕は速やかに退室した。
そして、砂歌さまの衣装お披露目と、パルティータのデータお披露目があった夜。そういえば、大誠さんが加わったのにセプテットのままなのだろうか。そんなことよりも、僕はいつものようにある場所に来た。病院の地下。ここに
「クロヤ」
灰色と先を黒に染めた髪と、赤色の双眸の190近い身長の戦闘系ホムンクルスで、僕の最高傑作がいる
「海景、メンテナンスか?」
「うん。これからまた戦場に出ることになる。大丈夫?」
「誰に言っている?俺はお前と砂歌と黎の言うことだけは聞くと言っているだろう」
他の人の言うことは聞かないということだ。いつものことだ。僕と同じくあまり人を信用しないようにできている。製作者がこれだと出来上がりはこうなる。でも、僕の理解者だからこれでいい
「その砂歌さまを守るのが役目だよ」
「任せておけ。しかし、ヴェーダとかいう奴ではないのだな」
「黎さんも守るんですよ?」
「二人か。ビャクヤも起こすんだな」
「そういうこと」
クロヤと同じく最高傑作であるビャクヤ。ツリ目のクロヤに対し、ビャクヤはおっとりとしたタレ目。一応差別化はしている。イメージは正反対の双子。どちらも戦闘になればかなりの戦闘力を発揮してくれる。二人を守るには不足ないはず。ラプソディアと王を守る騎士には及ばないかもしれないけれど。クロヤとビャクヤは以前、修復不可能ではないかと思うほど壊れたことがある。欠陥があったとかではなく、アンチオラトリアのドルックに侵されたのだ。黎さんと砂歌さまがいなければ修復できなかったうえに、僕まで死んでいた。
ふと、そういえばと思い出した。黎さんを一目見た時はラプソディアだとは思わなかったなと。王だと言うだけで大変であろう砂歌さまはともかく、黎さんは普通の少女だと思っていた。そんな黎さんが激しい戦いに身を投じ、オンブルやアンチを浄化するラプソディアだと知った時は驚かされた。しかし、他人事のように驚いていた僕が
「お前が自分からやるなんて言うとは思わなかった」
僕自身意外だった。でも
「少しでも、役に立ちたいって思ったんだ」
「いいことだな」
「うん。僕もそう思う」
黎さんや砂歌さまが信用する人たち。それなら信用できるなと思った。
僕のことを弟のように可愛がってくれる琥珀さん。この人は基本的に面倒見がいい。この人が教えてくれることの全てが僕の興味を惹く。博識の域を超えている人だと思う。
それから、頻繁にお見舞いに来ては、琥珀さんだけでなく僕にまで法律を教えてくる大誠さん。新発見も多かったりする
僕を気遣ってクッキーを持ってきてくれる光紀さん。
僕が興味を持った授業を分かりやすく教えてくれる恋さん。
僕にサッカーしようぜとか言って仲間に入れてくれる犀さん。
それに便乗して遊んでくれる焔さん。焔さんに関しては特訓してくれとは思うけれど、感謝している。自分勝手なところもあるけれど、優しいところもある。兄譲りというか、母譲りというか。
暁さんは、なんだかんだで書類を持つのを手伝ってくれたり、重いものを運んでくれたり優しい。ここは相棒と姉譲りだ。
ヴェーダさんは、砂歌さまがいるところにいる。一歩間違えたらストーカーの域。でも、兄貴肌。悩んでいるとまず背中を叩いて喝を入れてくれる。痛いけれど目が覚める。砂歌さまには絶対しないくせに。
黎さんは優しいお姉さんだ。この人のことが嫌いな人を連れてきて欲しい。それくらい良い人だ。この人の歌と演奏で何度癒されたことか
砂歌さまは僕の大恩人。人間で二番目に信用を寄せた人だ。頼れるお姉さんかと思えば、優しい母のように慰めてくれたり。優しすぎてたまに泣きそうになる。僕を真言使いにしてくれた張本人。感謝してもしきれない。
それをクロヤとビャクヤに話した。二人は嬉しそうに笑う
「砂歌と黎以外の人にあったことないね。今度会いたいな」
「今度一緒に行こう」
「楽しみだ」
僕は、家族も同然であるクロヤ、ビャクヤ、途中参加の紫苑、紅音、葵と少し遅めの晩御飯を食べた。
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