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第六番 〜七色の交響曲《アルコバレーノ・シンフォニー》〜
序楽章〜星空の下の夢想曲《トロイメライ》
しおりを挟む暗い一室の中心にある円卓に十四人の男たちが並んでいた。レクイム教団改め新生レクイム教団の幹部たちである。全員が揃ってる訳では無いが。全てアンチオラトリアである。その部屋に男が放り込まれた。
「ハロリアか」
彼は木と鉄の真言使いアグリル部隊の隊員でアンチテノーリディアのゴールド。そして、そのハロリアの隣に立ったのはジェードだった
「何度やっても・・・光聖国に入れません!」
「なに?」
幹部たちもその報告には困惑した。これまでは外から攻めることも出来たうえ、国内に穴を出現させることも出来ていた。しかし、それが突然出来なくなった。
「入ろうとすればオンブルとグリムは瞬殺。アンチたちは壁に阻まれる」
ジェードが爪を噛みながら言った。ジェードらしくもなくイライラしていた。不気味な笑みを常に浮かべ、何を考えているのか分からない男。その男が動揺していた。ハロリアのほうは、ミスにより消されるのではと怯えていた
「ふむ、海からはどうだ」
「海も同様ですよ。壁にやられて沈んでいたのを見つけたアンチが処理しました」
やはり処理されるのかとさらに怯えた。そんな壁ごときに阻まれやがってと恐ろしいドルッグを纏い睨みつけた。
「お前の力で破壊できなかったのか?専売特許だと言っていたはずだが」
「破壊しようものならすぐに修復されます。そもそも内側への干渉も不可能。しかし、元々中にいる者もいる。彼らを動かしては如何でしょう」
「確かに、内側からなら破壊する方法があるやもしれん」
ジェードの提案に頷いたのはチャカヤード。火と土の真言使いである。外からの侵入は不可能。ならば内からならばどうだ。どんな強力な壁であろうとかならず欠陥がある。それを探さなくては美しき光聖国は手に入らない
「工作員もいるのだ。オラトリアが四人揃っている」
「光聖国陣営によるものと考えていいんだろうな」
「それは間違いないだろう。しかし、その陣営には強力な真言使いもいる」
氷の女王最高権威ヘルシェリン、その騎士、さらに最大の天敵ラプソディア、カンタータの四人を警戒していた。あとは初心者の集まり。その集まりが一度に攻めてきたところでほんの少し強くなるだけで大したことは無いと高を括った
「そういえば、ナトリが帰ってきていないな。あのナトリが光側を倒すために三日もかかっているとは」
「八大天王だからな。狂気化したとしても勝てるとは思えん。ヘルシェリンにやられたか」
最大の天敵ラプソディアよりも強いと思われるヘルシェリン。ただのオラトリアとは思えない。あとの二人も相当強い。そのあたりに倒されたのではないかと予測を立てた。
「そういえばハーマ」
「ああ。ヘルシェリンの隣にいた男のことだろう?」
「そうだ・・・その男を調べろ。白いパーカーだったか?」
「白いパーカーと夜に溶け込む黒髪の青年だ」
一月ほど前、ハーマを追い詰めた男がいた。最終的に有利なところまで持っていけたものの、ドーマがいたからこそという部分もある。ドーマのみ倒される可能性はあったが。そのあとその友人と思われる男も現れ、その男により腕はなく、ヘルシェリンにより突き刺された。危ないところで帰ってきたのだ。幹部ということもあり目を瞑られたが、おそらく次はない。
「・・・しかし今回の結界についてはラプソディアもしくはヘルシェリンによるものとみていいだろう」
「ラプソディアの方ならまだ捕らえられそうですが?」
「その二人とあと騎士の二人も纏めて倒す方法はあるか?ラプソディアはなめていると痛い目を見るぞ」
「一人捕まえれば皆釣られるんじゃないですかね。強かろうと甘いところもあるからな」
ジェードと並ぶ頭脳派の男金属性とエアの使い手クリオラ=ファレーズである。予め光聖国に工作員を紛れ込ませたのは彼だ
『報告がある』
「ミカオ、お前らしくもなく慌てているじゃないか」
『工作員のアジトが見つかったようだ』
「なに?地下の廃墟ではなかったか?そう簡単に見つかるはずもないぞ」
『アマノの解析によると・・・ファイエラーによるものだそうだ』
ファイエラーとは、ラプソディアによって浄化され正規の真言使いとなるための復活権を与えられた者のこと。元アンチで、人を殺さなかった者のみがその権利を得ることが出来る。しかし執行猶予のようなもので、一度でも人を殺した場合は即剥奪され、アンチとしても名乗れず正規の真言使いともな乗れない放浪者ヴァンデラーの烙印を押される。真言使いにとって最も重い罰だ
「そのファイエラーたちはアジトを壊すために侵入したというのか」
「それはどうでしょう」
クリオラが飄々と告げた。場違いな声音だが、普段からであるため全く気にしない。
「破壊せずに戻ったということは、確認だったのでしょう。確か・・・カトールが召喚真言使いであったはず。羽や毛などは落ちていなかったか?」
『鷲の羽のほんの一部だったが見つかったよ』
「アマノか」
『カトールの司令か・・・』
「あの男にそんな頭はない。裏で手ぐすねを引いている者がいるということだ。しかし自分ではなくファイエラーにやらせるとは」
「別にやることがあったとも考えられる」
カトール以外にも軽く五人は超えるファイエラーの気配が確認されている。
「ところで見つかったアジトは誰のアジトだ。全部か?」
『オラトリア教団に紛れ込ませた男だ。ラプソディアの育児係を断念した』
「タオリアス。今は教師をやっているんだったか?」
「ならばそう簡単に追い出されることはない。あの男の執念深さや恨みは相当だ。番犬でも張らせて来たところを食らいつくがいい」
幸いにも、ラプソディアが通う学校ではあるがそのラプソディア本人が顔を覚えていないのか全く気付かない。オラトリア教団に入ると気配を消すことの出来る宝石が貰える。どんな邪気を持つ者だろうとバレることは無い。
「とにかく、アマノでもタオリアスでもお前でも構わん。ハーマを追い詰めた男のことを探れ。間違っても安易に近づくな」
『承知した』
念話が途切れると、幹部たちがため息。百五十年ほど前のレクイム教団の全盛期の頃とはまた違った手強さだ。
「まるで黄玉のようじゃないか」
「ああ、しかしフィンスターニスのときに戦死したじゃないか。その息子たちはどこへ行ったのやら」
「さあ、今は敵ではないのだろう。少ないに越したことはない」
内側からレクイム教団を潰しにかかったラプソディアがいない砂威王たちの時代。そして引き継がれた砂歌王とラプソディアの時代。旧五守聖の居場所は真言使いの称号を返納しているためほぼ一般人。新五守聖は一般人に紛れ込んでいる。使えないはずだった赤いオーラの少年は不完全覚醒を遂げている。完全には遠いが。ほかの五守聖もそれは同じ。未だに不完全だ。
「どんな敵だろうと、我々は負けぬ」
幹部たちの会議はそこで終了し、解散した
──2──
黒いローブを纏い、城の屋根に座る影があった。ただ星を眺めるだけだ。天球儀を手に星を繋げ星座を探す。
「春の星座ってあんまり目立たないよね」
「琥珀」
「お、カトール。入ってこれたってことは、本当に足を洗ったってことか」
「私も入れました」
人を絶対に殺さなかった琥珀と呼ばれた青年が初めて出会った元アンチ。そしてもう一人が、仲間である光紀の父親を誑かしたと思われていたカトール。彼は罪を着せられた被害者。琥珀が一番嫌う行為をしたアンチについてはガン無視。そのうち確実に倒す。
「僕出番多くない?」
「何の話だ?」
琥珀の呟きにカトールは首を傾げた
「吉報?凶報?」
「どちらからがいい?」
「凶報からどうぞ。吉報のあとに凹みたくないしね」
「オラトリア教団の裏切り者のアジトが見つかった」
良かったじゃんと傍で思うものの、ラプソディアに近づかないという保証はない。既に近くにいるのかもしれないが。
「やめてほしいけど・・・焔の学校にいないだろうね?」
「ご明察」
思わず舌打ちしそうになった。三歳の頃に出会った男のことなど覚えていないだろう。整形しているという可能性も捨てきれない。
「担任?」
「それもご明察」
「暴力事件を犯したらしい。やめてもらいたいね。シャロンさまに言ったら直で教育庁から通達行くからね。それを無視しようもんなら捕まるし」
砂歌が立てた法律の条項のあとに絶対何かをつけたがるのが無能な政治家たちだ。教育法のなかに教育を受けるものは全て法律の下で保護されるものであり、それを犯すものには条件付きで三年以下の懲役または五百万円以下の罰金だ。
「条件付きって何って思うけどね」
「直で捕まえればいいのに」
「ねぇ。弁護士志望だけど、現行犯と確実な証拠が見つかった事件に関しては弁護しないことにしてるから」
「そんなこと出来るのか?」
「この国はできるんだなぁ、これが」
検察官や弁護士が提示する書類や容疑者の証言は全て、最高弁護士団のところに送られる。王直属の組織。そのため政治家たちによる干渉はされない。した日には裁判所へ送られる。王の直属の組織とはいえ、その組織の弁護士が判断し動く。上の命令に左右されることも無い。
「で、他に凶報は?」
「特にない。これからまた調査する」
「それから吉報ですが」
フェルマータから吉報が告げられた。琥珀は心の底からホッとした。そして
カトールとフェルマータにハイタッチ。
「よかったー」
「これで国外からの干渉は不可能となった。問題は国内からだ」
「すでにすぐそこの学校にいるしね。すぐに倒しに行くのは浅慮だ。少なくともアジトは四つあると見ていい」
「四つ?」
うん四つと指を四本立て言った。たまに子どものような仕草になるのは気の所為だろうかと首を傾げる。
「ひとつのアジトに全員待機はまずない。四神のように国内を見張っておきたいし」
「なるほど。しかし十個くらいあってもおかしくないのでは?」
「そうだね。でも、見張るということはその領域内に網を張り巡らせておく必要がある」
海景であれば一人で見張るための領域を拡大することが出来るが、それはあの眼と空間真言を持つが故の高等真言だ。そして海景から上に網のようなものが見えますと聞かされている
「そしてこの真言は・・・四方でなければ完成しない。多ければいいって訳でもない。で、今回カトールたちが張ってくれた結界のおかげでその網も切れた」
「なんでもありな結界なんだな」
「超複雑なだけあってね。まぁラプソディアの術式が施された術具だし。その強力さも肯ける」
ちょっとクラフトをここに入れて貰えないかなと言って器に注がせた。なにかマジックでもするの?と聴かれたが。マジックといえばマジックだが、立派な真言である。そんな天然さも可愛いかったので文句はない。カトールたちも相当練習を積んだのだろう。その賜物と言える
「いやぁ凶報は超凶報だけど、吉報で安堵したよ。ありがとう、お疲れ様。これから強化もするつもりだから、そのつもりでいてね」
「了解だ」
「承知しました」
ニコニコと手を振り帰っていくカトールとフェルマータを見送った。最大中の最大真言を不完全かもしれないが土台は完成した。外部からは絶対に入れない。カトールたちファイエラーが調査を続けてくれる。中心は見つかった。あと三つ。四神のようにそれに沿った真言使いなのだろうか。それも調べてくれるはずだ。満天の星空の下でゆっくり伸びをした。
「そろそろ寝るか。暁?」
琥珀はエア真言でフワリと浮き、静かに降り立った。黒と赤のグラデーションとなった個性的な髪型の少年暁。散々出てきたラプソディアのカンタータだ
「ん?天球儀・・・だったか?」
「そう。星座を探してたんだよ。そろそろ寝ようかな」
「ああそうしろ。明日から六月だ。やっとオレ学校行けるんだぞ!」
・・・そんなに楽しみなのか
サッカー中継をテレビの前で待つ弟とよく似た顔をしている。かなり楽しみらしい。行けば現実が待っているかもしれないが、焔たちは謳歌しているため青春真っ盛りというところだろうかと琥珀は小さく笑う。
暁は、焔たちの普段の様子を見て楽しそうだと思ったのだろう。何事もなければ楽しい高校生活を送ることが出来る。
「明日はちょっと大事な話がある」
「え?作戦か?」
「まぁ作戦であり計画でもあり。少し大きめの計画だよ。隠しながら進めるの、なかなか罪悪感あるんだよ」
隠しながらもみんなに心配かけないように進めた計画。それが明日披露される。どんな計画なのかと暁は唾を飲んだ。
「じゃ、おやすみ」
「ああおやすみ」
暁は琥珀の背中を見送った。
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