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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

24-3.魔導師の襲撃

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 リオの瞳の色が非常に珍しいのも事実。それこそ長年に渡って赤目は人ならざる者の象徴として常識に染みついてしまう程にだ。
 時期が時期だけに魔族と勘違いしてしまうというのも仕方がないことだという話も耳を傾けてみれば納得がいった。

 理不尽極まりない出来事ではあったが騒ぎを大きくするよりも静かに立ち去りたいクリスティーナは不必要に彼女らを責め立てることはしないことにした。
 ここで謝罪を受け入れ解散。その後は宿を探して買い物は明日に回してしまおうとこの後の予定を気にかけ始めた時、地面から声が聞こえた。ノアだ。

「いやでも、このお嬢さんは魔族じゃないかもしれないけどお兄さんの方が魔族じゃない証明にはならなくない?」
「本当によく喋る口ですね……」
「あ、待って、ナイフ動いてます!!」

 話が上手く纏まりかけたところで掘り下げられた話題にリオが若干の苛立ちを見せる。
 笑顔ではあるが目が笑っていない。やや鋭い目つきであるだけに圧が強い。
 握られていたナイフが距離を更に縮めたことによって怯えた声が地面から聞こえる。

「……そもそも彼は魔法が全くと言って使えないの。魔族というのは魔法に長けているのでしょう」
「え、冗談でしょ。それだけの魔力を持ってるのに?」

 クリスティーナの補足に驚いたのはノアだけではなかったようだ。アレットやレミまで揃って目を剥いている。
 生憎、クリスティーナには魔力量を読み取るという感覚はわからない。故にリオの魔力が実際どの程度のものなのかを見ることは出来ないが、一度魔法を使うと死んでしまうという彼の体質上保有できる魔力は無にも等しいものだと思っていたのだ。

 違うのか、と問うように従者を見やれば本人も思い当たる節が全くないというように首を横に振った。

「楽をして使えるものなら先の戦闘で使っていますけどね……。実際にお見せすれば納得していただけますか」
「えっ!? おいリオ――」

 異を唱えようとしたのはエリアス。一方で彼の次の行動を予測したクリスティーナは無言で立ち上がってリオから距離をとった。

「ウィンド・ブレイド」

 倒木の凄まじい音、鳥が逃げ去っていく音、地面に何かが倒れ込む音――。

(早く休みたいわ……)

 エリアスと魔導師達の悲鳴やら慌てる声やらを聞きながらクリスティーナは遠くを見た。
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