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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
33-2.魔晶石
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「そうだ。ノア様」
「お、何かな」
更に折を見てリオから声が掛けられると彼の様子は完全に通常時と変わらぬものとなり、一瞬だけ見せた仄暗い感情はすっかり鳴りを潜めた。
リオは自身が握っていた魔晶石を見せる。
先程の美しい見た目と打って変わり、黒く変色した石。
魔晶石に含まれた魔力を使い切った際に起こる、通常の反応だ。
どうやらクリスティーナが集中して周囲の様子に気が付いていない間に、彼は自身の訓練に勤しんでいたようだ。
「こちらの魔力を使い切ってしまった様で。替えはありますか?」
「ああー、よかったよかった! リオの方は問題なさそうだ。体調の方はどうだい?」
「問題ありません。予想以上に負担もかかっていないみたいで驚いてます」
「そうかいそうかい」
これ以上の予想外な展開を危惧していたのだろう。ノアは心底安心したように息を吐いた。
そして懐から石ころを数粒取り出すと握り込んで同時に魔晶石を生成させる。
「素人の作ったものだから、質の良い石を使ってもやっぱり初級魔法数回分が限界だね」
「魔晶石が安価な物から高価なものまで幅広く売られているのは石に含まれた魔力の密度が理由ですね」
「そう。因みに素人が作ったものと市場で売られている物は全くの別物だと考えていい。売り物になるレベルは経験を積んだ専門家でもなければ、なかなか作れるものじゃあない」
どうぞ、と掌に魔晶石を転がされるリオ。
代わりに使用済みの魔晶石を受け取るとそれを手元で何度か放って眺めながらノアがため息を吐く。
「魔晶石の問題点は再利用する方法が見つかってないことだねぇ。一度魔力の尽きた魔晶石は魔力を弾いてしまう」
「真っ黒な石も見た目だけならかっこいいとは思うんだけどなぁ。活用方法もないんじゃあな」
黒い石が宙を舞う様を目で追いながらエリアスは暢気に呟く。
彼の言葉にいるかい、とノアがそれを差し出すが使い道もなく大して珍しくもないそれを集めるような変わり者ではないようで、エリアスは首を横に振ってそれを断った。
冗談を織り交ぜたやり取りを切り上げた後、ノアがクリスティーナへ微笑みかける。
「クリスはまず、鉱石を破壊しないように魔力を調整するところからだね」
「ええ……」
彼の言葉に耳を傾けながらも、クリスティーナは自身の能力に対して疑問を抱いていた。
自分は今まで自分の予想を遥かに超えて魔力を使用してしまうといった経験をした覚えがない。使う魔法が初級であれば初級の、中級であれば中級の標準をやや上回る程度の威力に留まってきたし、うっかり制御を誤って周りの度肝を抜かせたりなどしたことはないはずだ。
日頃魔法を使うときと同じ感覚で、抽出した魔力の放出量をほんの少し増加させただけのつもりが、思いもよらない結果を招くとは。
聖女の能力に目覚める以前と今とでは自身の感覚と実際に招く現象に齟齬が生まれているということを認めざる得なかった。
何が原因かは未だわからないが、魔力の制御が以前より困難になっている。大きな弊害を齎す前に自身の変化に慣れなければならないだろう。
「クリス?」
考え事をしていたせいか、呆けてしまっていたクリスティーナの目の前でノアが片手を振る。
「何でもないわ」
「君はそればかりだね」
首を横に振ると苦笑されてしまう。
それ、というのは下手な嘘を吐いて話題を切ろうとすることに対してだろう。
確かに悩みの種は減らないし、何でもない訳はないのだが。彼に話せることが何もない以上、首を横に振る手段しかないのだ。
気を悪くしたのだろうかと数秒程相手の顔色を窺ったが、彼は相変わらず穏やかに微笑むだけ。
「体調が悪いとかじゃないならそれでいいのさ。さて、再開しようか」
「……ええ」
彼から不快感や疑念の類は感じられない。
彼の言葉に深い意味はなかったのかもしれないと思い直し、クリスティーナは新しく用意した石に集中した。
「お、何かな」
更に折を見てリオから声が掛けられると彼の様子は完全に通常時と変わらぬものとなり、一瞬だけ見せた仄暗い感情はすっかり鳴りを潜めた。
リオは自身が握っていた魔晶石を見せる。
先程の美しい見た目と打って変わり、黒く変色した石。
魔晶石に含まれた魔力を使い切った際に起こる、通常の反応だ。
どうやらクリスティーナが集中して周囲の様子に気が付いていない間に、彼は自身の訓練に勤しんでいたようだ。
「こちらの魔力を使い切ってしまった様で。替えはありますか?」
「ああー、よかったよかった! リオの方は問題なさそうだ。体調の方はどうだい?」
「問題ありません。予想以上に負担もかかっていないみたいで驚いてます」
「そうかいそうかい」
これ以上の予想外な展開を危惧していたのだろう。ノアは心底安心したように息を吐いた。
そして懐から石ころを数粒取り出すと握り込んで同時に魔晶石を生成させる。
「素人の作ったものだから、質の良い石を使ってもやっぱり初級魔法数回分が限界だね」
「魔晶石が安価な物から高価なものまで幅広く売られているのは石に含まれた魔力の密度が理由ですね」
「そう。因みに素人が作ったものと市場で売られている物は全くの別物だと考えていい。売り物になるレベルは経験を積んだ専門家でもなければ、なかなか作れるものじゃあない」
どうぞ、と掌に魔晶石を転がされるリオ。
代わりに使用済みの魔晶石を受け取るとそれを手元で何度か放って眺めながらノアがため息を吐く。
「魔晶石の問題点は再利用する方法が見つかってないことだねぇ。一度魔力の尽きた魔晶石は魔力を弾いてしまう」
「真っ黒な石も見た目だけならかっこいいとは思うんだけどなぁ。活用方法もないんじゃあな」
黒い石が宙を舞う様を目で追いながらエリアスは暢気に呟く。
彼の言葉にいるかい、とノアがそれを差し出すが使い道もなく大して珍しくもないそれを集めるような変わり者ではないようで、エリアスは首を横に振ってそれを断った。
冗談を織り交ぜたやり取りを切り上げた後、ノアがクリスティーナへ微笑みかける。
「クリスはまず、鉱石を破壊しないように魔力を調整するところからだね」
「ええ……」
彼の言葉に耳を傾けながらも、クリスティーナは自身の能力に対して疑問を抱いていた。
自分は今まで自分の予想を遥かに超えて魔力を使用してしまうといった経験をした覚えがない。使う魔法が初級であれば初級の、中級であれば中級の標準をやや上回る程度の威力に留まってきたし、うっかり制御を誤って周りの度肝を抜かせたりなどしたことはないはずだ。
日頃魔法を使うときと同じ感覚で、抽出した魔力の放出量をほんの少し増加させただけのつもりが、思いもよらない結果を招くとは。
聖女の能力に目覚める以前と今とでは自身の感覚と実際に招く現象に齟齬が生まれているということを認めざる得なかった。
何が原因かは未だわからないが、魔力の制御が以前より困難になっている。大きな弊害を齎す前に自身の変化に慣れなければならないだろう。
「クリス?」
考え事をしていたせいか、呆けてしまっていたクリスティーナの目の前でノアが片手を振る。
「何でもないわ」
「君はそればかりだね」
首を横に振ると苦笑されてしまう。
それ、というのは下手な嘘を吐いて話題を切ろうとすることに対してだろう。
確かに悩みの種は減らないし、何でもない訳はないのだが。彼に話せることが何もない以上、首を横に振る手段しかないのだ。
気を悪くしたのだろうかと数秒程相手の顔色を窺ったが、彼は相変わらず穏やかに微笑むだけ。
「体調が悪いとかじゃないならそれでいいのさ。さて、再開しようか」
「……ええ」
彼から不快感や疑念の類は感じられない。
彼の言葉に深い意味はなかったのかもしれないと思い直し、クリスティーナは新しく用意した石に集中した。
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