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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

54-2.悪女のプライドと覚悟

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「仕方ないわ。今の私があの場に残っても足を引っ張るのは事実だもの」
「クリスティーナ様」
「同情も慰めも必要ないわ。私が一番わかっているから」

 嗜めるように名を呼ぶ従者の言葉をクリスティーナは制した。
 リオとエリアスの至る領域が常人ではありえないものであることは重々理解している。故に彼らが持つものと同等の能力を得たいなどと思うつもりはない。
 彼らのように奇襲に気付くことも反応することもクリスティーナにはできない。
 しかし、ならばせめて不得手な部分を埋めるだけの何かを見つけなければならない。

 仮に今回全員でこの場を切り抜けることが出来たとしても、今後同じような場面に出くわした時にクリスティーナが変われていなければ、結局のところ結果は同じものになるはずだ。
 護衛の二人に庇われる、もしくは主人の撤退を優先して動く……どちらにせよ、主人の身を守る為に行動が制限されてしまう。

 だが、もしクリスティーナが自分だけしか持ち合わせない能力――例えば、聖女の力を完全に使いこなせるようになったとしたら?
 彼らが主人を逃がさなければならない理由を、戦線に聖女を残す理由で上回ることが出来たなら?

 セシルはクリスティーナが力を得る為に旅に出ろと言った。そしてクリスティーナ自身もこの旅路に於いて戦力の底上げは重要なことだと感じている。これは総合力的な点に於いてもだが、個々の能力に於いてもそうだ。

 唯一無二の存在だから、主人だからと守られ続け、それに甘んじている間は自分が成長することはないだろう。魔族と対抗できる素質を秘めているものがそれではいけない。自分自身も戦に立てるよう、戦場に立っていても彼らの枷となることがないよう成長しなければ。

 それに、この先待ち構えているかもしれない困難を乗り切る戦力が必要な状況で、主人の安否に気を取られなければならない戦い方がいつまでも続くとも思えなかった。

「主人が守られる立場であることも、聖女という立場の貴重さもわかるわ」
 
 彼らが出来る限りクリスティーナの望みを尊重しようと考えてくれていることは理解している。
 しかしそれでも今回のようにそれが叶えられない場合もある。

「でも、ただのお荷物で居続けることは出来ない。だから私は……」

 クリスティーナは真っ直ぐと正面を見つめる。
 明確になった自身の課題を見据えた眼差しには大きな強い意志と僅かに混ざる悔しさが秘められていた。

「私にしかできないことを見つけて強くなりたい」
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