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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

72-2.生首の似合う聖女

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「レミ? そっちから何かでかい音が聞こえてきたんだけど」
「寮長だ」

 静かにしているようにと人差し指を立ててからレミは廊下に出ていく。
 エリアスとオリヴィエは言われた通りに口を閉ざし、その後姿を見送った。

「悪い、ノアの奴が魔導具改造してて」
「またかぁ!? その部屋、度々爆発してないか? 爆発音聞こえる度に気が気じゃないんだぞ」
「言っておくよ」

 扉の先で聞こえるのは出鱈目で誤魔化すレミの声と、それに驚きつつも納得を示す寮長らしき声。
 知人が妙な濡れ衣を着せられる現場を聞かされるエリアスが複雑な顔をしているとその隣でオリヴィエが体を起こした。
 近くに置かれた救急箱に手を伸ばして自分の手当てを始めながら、彼はエリアスへ視線を落とす。

「動けそうか」
「あー……歩くくらいまでなら多分何とか。けど、骨いってる気がするなぁこれ……あだだっ」

 エリアスもまた、呻き声を漏らしつつゆっくりとした動作で体を起こす。
 軽くはない怪我を負っている二人はのろのろとした動きで応急処置を施し始めた。

 その途中でレミが廊下から戻ってくる。
 彼は事情聴取の続きでもしてやろうと意気込んでいたが、自身の手当てを熟している二人の傷を見ると彼は顔を顰めて口籠った。

「……ただ事じゃなさそうだな」

 結局彼は一言だけ呟くに留まり、その後は二人の傍へ腰を下ろすと自力で手当てが難しい箇所を手伝ってやることにした。

「ぼくはてっきりノアが君達の元にいるものだと思ったんだけどな」

 エリアスの背中に布を押し当て、軽く圧迫するように固定してやる。
 その作業の途中で呟かれたレミの言葉に対し、エリアスは小さく頷いた。

「さっきまで一緒にいたのは本当だ。すぐに来ると……思うんだけどな」
「ノア合わせて後三人は追加で来る」
「……っ! そうか」

 魔法陣へと視線を移すエリアスの言葉にオリヴィエが補足を入れる。レミは彼らの言葉に顔を上げた。
 ノア以外の二人がエリアスの連れを指すことは察しが付く。
 一先ずルームメイトの動向を知れたレミはそのことに安堵し、深くため息を吐く。

 聞きたいことも言いたいことも山程あるが、今中途半端に口を挟むよりは一度落ち着いた環境を築いた後に話を聞く方が円滑に事が運びそうだ。
 そう考えたレミは現時点で話を掘り下げることはやめることにした。

 そして丁度エリアスとオリヴィエの処置が終わった頃。未だ浮かび上がっていた魔法陣の光が強さを増す。
 それをレミが視認した次の瞬間、魔法陣からクリスティーナとリオが姿を現した。
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