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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

73-6.これからの為の話

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「エリアス様、少々席を外しましょう」
「へぇっ? 急に何だよ」

 リオは開け放たれたままだった窓に手を掛けてエリアスへ振り返る。
 エリアスは呼び出された理由がわからず目を丸くしつつも腰を浮かせてその後に続く。

「合流してからというもの、俺を見てはずっと気まずそうにしているじゃないですか。俺やお嬢様が気付かないと思ったんですか」
「いつまでも落ち着きがないと目障りだわ。何とかして来なさい」
「えっ!? 何でバレて……いや、違うんだってこれは」

 本人達は取り繕う努力をしていたようだが、森で合流を果たしてからというものエリアスがリオのことを気に掛けるように見ていたことにクリスティーナとリオは気付いていた。
 行動に支障を来すほどではなさそうであったことや、その時抱えていた問題が問題であっただけにどちらも触れずにいたことだが、ぎくしゃくした雰囲気が長引くことは是非とも避けて欲しい所であった。

「あー、やっぱり分かりやすかったかぁ」
「貴方は上手く隠していたようだったけれど」

 窓から外へ出ていくリオとエリアスを見送り、その窓が閉じたのを確認してからクリスティーナはノアを横目で見る。
 リオに対して気まずさを覚えていたのは何もエリアスだけではない。
 上手く隠していた分リオは気付けなかったようだが、人の心の動きに敏感なクリスティーナはノアもエリアスと同じ様にリオを気に掛けていたことに気付いていた。

 隠しきれていた自信があったのだろう。
 それを指摘されたノアは目を見開いてから肩を竦める。

「……恐れ入ったよ。君には本当に頭が上がらない」

 降参だ、彼はと両手を緩く上げる。

「森で少し妙なものを見たからね……。彼がぎこちなかったのもそのせいだろう。その話が気になるのなら後で話すよ」

 狭い部屋は六人が詰め込まれていた時に比べて部屋は随分と静かになる。
 窓の外からは時折リオとエリアスの声が聞こえてくるが、その内容までは聞き取れない。

 ノアはクリスティーナの正面へ来るよう座り直すと、小さく微笑んだ。
 顔を覗き込むように藍色の瞳を向けているものの、彼が自ら言葉を紡ぐ様子はない。
 恐らくはクリスティーナが言葉に迷っていることを察して待っていてくれているのだろう。

 二人の間に暫く沈黙が訪れる。
 その間少しずつ自分の考えを整理していたクリスティーナはやがてゆっくりと口を開いた。
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