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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

83-1.オーケアヌス魔法学院

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 クリスティーナとリオはノアの案内に従ってオーケアヌス魔法学院の校舎を歩く。
 学院の制服は黒主体のブレザーで、その上からローブを身に纏うことが定められているようだ。

 ローブの色や型は様々であり、フードのついた型であれば特に指定はなさそうだが、行き交う生徒たちはその全員が黒や紺などの暗い色を選択している。
 制服を着用していない教員らしき人物達ですらそうだ。

 故に白いローブを着用しているノアはとても目立つ。
 更にクリスティーナ達に至っては制服すら着ていない完全な部外者だ。その為悪目立ちした結果呼び止められるなどという可能性をクリスティーナは危惧するが、そんな思惑を汲んだようにノアが笑いかける。

「君達は名目上アレット先生の客人ということになっている。教員の知人や学院の見学なんかで外部の人がやって来ること自体は別に珍しいことじゃあないのさ。だから変に身構える必要はないよ」
「そう」

 昨日の解散後にアレットへ話を通しておいたのだろう。ノアの根回しの早さにクリスティーナは舌を巻く。彼の行動による恩恵で動きやすくなっている事実には素直に感謝すべきだろう。

「お、ノア。おはよう」
「おはよう」

 アレットの元へ向かう最中、ノアは何度も生徒から声を掛けられる。
 その光景はフロンティエールで何度も見たものと酷似していた。
 親しげに彼へ話しかける人々。改めて彼の顔の広さを知る。

「ノア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あー、ごめん。今お客さんいるからさ、また後で!」
「おっと、そりゃ失礼。アレット先生とこの?」
「そうそう」

 挨拶を交わして通行人とすれ違えば更に別の生徒が声を掛ける。
 そんなことを繰り返しているとその内のいくつかは彼を頼った相談であることに気付く。
 大方、彼のお人好し加減は学院内でも健在といったところだろう。

 生徒に呼び止められるうちにノアがクリスティーナ達を客人だと告げる場面も何度か見受けられたが、その度に生徒達は納得したように引き下がる。
 彼の言う通り、誰も部外者であるクリスティーナ達を怪しんではいないようだ。そのことにクリスティーナは安堵を覚えた。

「ノア様の顔の広さは学院でも健在ですね」
「あー、まあ……一応ね」

 リオの何気ない言葉にノアは歯切れを悪くして苦笑する。
 何かを誤魔化すように言い淀む彼の声にはどこか含みがあったが、それを指摘するよりも先に三人は渡り廊下から別の建物へと足を踏み入れた。
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