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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

89-1.とある歴史書より

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 入ってすぐ目に飛び込んでくるのは無数の本達だ。

 壁を埋め尽くし、それだけでは足りないと余った空間という空間に本棚を詰め込んだかのような本の宝庫。

 中央には大きな机が広がり、生徒達の読書や自習の為に使用されている。また図書室を利用する生徒の為に設けられた広い空間は吹き抜けとなっており、三階の様子までがよくわかる造りとなっていた。

 ゆっくりと二階、三階へ視線を持ち上げればどちらも一階同様に数多くの本棚が立ち並んでいる様子が見てとれる。

 出入り口付近には貸出用の大きなカウンターが設けられており、そこでは数名の司書や生徒が図書館の運営を支えているようだ。

 たまたま視界に捉えた本達の状態は良好。丁寧に手入れが施されているのだろうことが察せられる。

「ここは魔導師育成に力を入れた名門校だ。生徒が学ぶ為の施設は充実している」

 状態の良い本達に囲まれたクリスティーナは思わず感嘆の息を漏らす。
 それを横目に捉えたリオは嬉しそうな主人の様子に柔く微笑む。

 振り返ったレミは二人の様子を見て喉の奥で小さく笑った。

「大抵の文献は備えられている、フォルトゥナ全体で見ても大きな図書館だよ」

 オーケアヌス魔法学院図書館。
 魔法に精通した国の中で、更に優れた魔法知識を保有する魔導師育成機関に設立された図書館。
 そこに集められた文献らはどれも重要且つ貴重な情報源と言えるだろう。

 元より本を読んで過ごすことを好むクリスティーナに図書館のように数多の文献が保管されている場へ足を踏み入れることは喜ばしいことだ。
 それに加え、魔法の名門校に入荷するに値する物として選ばれた本の数々が多くの情報を齎してくれるだろうことは十分に期待できる。

「……好きに見るだけなら構わないのよね?」
「勿論。持ち出すことは出来ないが室内でなら読んでもらって構わないよ」

 先に場所を取っておこうとレミが椅子の背にローブを掛ける。
 それに倣い、クリスティーナ達もその正面の席に軽い荷物を乗せた。
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