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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

145-2.何度でも差し伸べられる手

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「お、オリヴィエ……どうしてここに」
「そろそろ会いたくなる頃合いだと思っただけだ」

 冗談めかしに笑った彼はしかし、すぐに相手を咎めるように目を細めた。
 全てを見透かしたような、自身に溢れた視線がシャルロットを射抜いた。

「僕を見縊るなよ、シャルロット。お前が吐く嘘くらい簡単に見抜けるに決まっている」

 魔法学院にいるはずの彼が何故この場にいるのか。
 一つの思惑がシャルロットの頭を過るが、そんなはずはないと彼女は無理矢理切り捨てる。

「お前は何かあったとしても人に助けを求めることが出来ない。そういう奴だ」

 だがそんなはずはない、そうでないようにというシャルロットの願いを一蹴するように、オリヴィエは鼻で笑った。

「だから僕が来た。お前が自ら声を出せないのなら、僕が言わせてやる」

(やめて。その言い方じゃあまるで……)

 恐怖を上書きするように、代わりに膨らみ始めた期待に気付いたシャルロットは顔を歪ませる。
 必死に留めていた感情を無理矢理こじ開けるような、力強い言葉が降り注ぐ。

「幸いにも僕は稀代の天才だからな。お前の悩みを聞いてやることくらい些細なことに過ぎない」

(まるで――)

 オリヴィエは窓の傍へ降り立つとシャルロットの顔を覗き込む。
 自信に満ちた力強い笑みが真っ直ぐと彼女を見据えたかと思えば、それは真剣な眼差しへと変わる。

 そして初めて言葉を交えたあの時と同じ様に、彼は手を差し伸べたのだ。

「だから言ってくれ、シャルロット。僕はお前の為に何をしてやれる? 今、お前にそんな顔をさせているのは何だ?」

(私の為だけにきてくれたみたいじゃん……っ)

 事実、オリヴィエはシャルロットの異変にいち早く気付いて駆けつけたのだろう。
 シャルロットの為だけに学院を抜け出し、国の端までやってきてしまった。
 それは言葉で言う程簡単なことではない。ただの学生という身分であっても、親しい友人の見舞いに赴く為の時間と体力を惜しむものだ。

 だがオリヴィエの場合それ以上に厄介な問題が付きまとう。友人の安否を心配して遠出をした、という言葉だけで事が済まされる訳がないのだ。
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