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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
166-2.自らに求める物
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優しさに甘んじ、それを利用する愚かさ。
思いやりは必ずしも同じ熱意で帰っては来ない世の理不尽さ。
理不尽な結末を知りながら他者の為に身を削り続ける者。
人の心が変わる瞬間。
保身をやめ、他者の為に一歩踏み出した者達。
やるせなさや苛立ちを覚える事はあったが、それに触れることでわかった他者の内面がある。他者を深く知れたからこそ築けた関係がある。
良いことだけが全てではない事をこの最近の出来事でクリスティーナは痛感していた。
「しがらみのなくなった環境で都合の良い物ばかりを目にしたくはないわ。良い物も悪い物もその全てを目に映した上で、自分のこれからを考えていきたいの」
『お荷物』になりたくないという自身のプライドの為も勿論ある。
だが、それ以上に聖女である自分がその力をどのような時に扱うべきかを考えていく為にも、将来自分がどう在りたいのかを考えていく為にも自分の目や耳に届く範囲の世界の姿程度は自身の胸にきちんと刻んでおかなければならない。そうクリスティーナは思ったのだ。
「もしかしたらすぐにどうにかなるものではなくて、苦しい思いをしてしまうかもしれないけれど……その時は貴方達に言うわ。だからその時は私が強くなる方法を一緒に考えて。……お願いよ、リオ」
リオがクリスティーナの身を誰よりも案じていることはクリスティーナもわかっている。
いつも身を挺してくれる事には心から感謝しているし、信頼もしている。
だがそれだけではいられない、いたくないのだという主張に耳を傾けて貰える様、クリスティーナは穏やかに語りかけた。
「守るだけではなく、見守って欲しいわ。遠ざけるのではなく、傍で支えていて欲しいの」
震えが止まった訳ではない。滲み出る振る舞いからは説得力を感じることが出来ないだろう。
だからその分言葉を尽くした。
リオは口を閉ざしながらクリスティーナの言葉を静かに聞いていた。
そして彼女が話を終えた後も数秒間沈黙を貫いた。
「……その言い方はずるいですよ」
僅かな間の後、重々しく開かれた口から咎めるような声が漏れる。
彼は一つため息を吐く。
「約束してくれますか」
「約束?」
「苦しい時はきちんと伝えてください。一人で堪え過ぎないでください」
「……ええ、約束するわ」
元より自らが通した条件だ。クリスティーナが突っぱねる理由はない。
そして己の身を案じてくれている相手に心労を掛ける我儘を通すのならば何らかの形で自身が報いなければならない物である。
「……それと、以前も申し上げましたが。俺は貴女様に不自由な思いをして欲しい訳ではないのですよ」
「わかっているわ。私を思っての事であるということくらい」
出来るだけ好きにさせてやりたい。けれど傷ついては欲しくない。
そんな思いに板挟みにされているリオの意図は汲み取れる。
主人に逆らった事や不自由さを感じさせてしまった事を後ろめたく思っているのか、リオは小さく言葉を付け加えた。
それに対し、クリスティーナが小さく笑みを零した時。彼女の目を覆っていた片手がゆっくりと下ろされていく。
「ありがとう、リオ」
視界が晴れる。
クリスティーナは深く息を吸い込み、もう一度眼前に広がる光景と対峙することになる。
思いやりは必ずしも同じ熱意で帰っては来ない世の理不尽さ。
理不尽な結末を知りながら他者の為に身を削り続ける者。
人の心が変わる瞬間。
保身をやめ、他者の為に一歩踏み出した者達。
やるせなさや苛立ちを覚える事はあったが、それに触れることでわかった他者の内面がある。他者を深く知れたからこそ築けた関係がある。
良いことだけが全てではない事をこの最近の出来事でクリスティーナは痛感していた。
「しがらみのなくなった環境で都合の良い物ばかりを目にしたくはないわ。良い物も悪い物もその全てを目に映した上で、自分のこれからを考えていきたいの」
『お荷物』になりたくないという自身のプライドの為も勿論ある。
だが、それ以上に聖女である自分がその力をどのような時に扱うべきかを考えていく為にも、将来自分がどう在りたいのかを考えていく為にも自分の目や耳に届く範囲の世界の姿程度は自身の胸にきちんと刻んでおかなければならない。そうクリスティーナは思ったのだ。
「もしかしたらすぐにどうにかなるものではなくて、苦しい思いをしてしまうかもしれないけれど……その時は貴方達に言うわ。だからその時は私が強くなる方法を一緒に考えて。……お願いよ、リオ」
リオがクリスティーナの身を誰よりも案じていることはクリスティーナもわかっている。
いつも身を挺してくれる事には心から感謝しているし、信頼もしている。
だがそれだけではいられない、いたくないのだという主張に耳を傾けて貰える様、クリスティーナは穏やかに語りかけた。
「守るだけではなく、見守って欲しいわ。遠ざけるのではなく、傍で支えていて欲しいの」
震えが止まった訳ではない。滲み出る振る舞いからは説得力を感じることが出来ないだろう。
だからその分言葉を尽くした。
リオは口を閉ざしながらクリスティーナの言葉を静かに聞いていた。
そして彼女が話を終えた後も数秒間沈黙を貫いた。
「……その言い方はずるいですよ」
僅かな間の後、重々しく開かれた口から咎めるような声が漏れる。
彼は一つため息を吐く。
「約束してくれますか」
「約束?」
「苦しい時はきちんと伝えてください。一人で堪え過ぎないでください」
「……ええ、約束するわ」
元より自らが通した条件だ。クリスティーナが突っぱねる理由はない。
そして己の身を案じてくれている相手に心労を掛ける我儘を通すのならば何らかの形で自身が報いなければならない物である。
「……それと、以前も申し上げましたが。俺は貴女様に不自由な思いをして欲しい訳ではないのですよ」
「わかっているわ。私を思っての事であるということくらい」
出来るだけ好きにさせてやりたい。けれど傷ついては欲しくない。
そんな思いに板挟みにされているリオの意図は汲み取れる。
主人に逆らった事や不自由さを感じさせてしまった事を後ろめたく思っているのか、リオは小さく言葉を付け加えた。
それに対し、クリスティーナが小さく笑みを零した時。彼女の目を覆っていた片手がゆっくりと下ろされていく。
「ありがとう、リオ」
視界が晴れる。
クリスティーナは深く息を吸い込み、もう一度眼前に広がる光景と対峙することになる。
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