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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

171-2.魅了の魔術

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「……っ!」
「脅威有りと見なされる古代魔導具の殆どは闇魔法が絡んでいる。生命に影響を与える物や精神に絡んだ物……闇魔法は他者を攻撃するには都合が良い効果を齎すからな」
「元より争い事の為に生まれた道具ならば尚更だ。それの脅威が高い程、闇魔法の中でも強い効力を持つ魔術を組み込まれているものだ」

 闇魔法と聞いてクリスティーナ達三人の頭を過るのは魔族の存在だ。その言葉に三人の間を僅かな緊張が走る。
 押し黙る三人の代わりにと古代魔導具に携わってきたオリヴィエが詳細を語り、ディオンはそれの補足をした。

「隠し部屋と、その傍で引き籠るようになった話から考えるに……ジョゼフ・ド・オリオールが古代魔導具に相当執着していそうだ。そしてそれが本人の純粋な欲求からのみ来ている感情ではないとオレは考えている」
「……魅了か」
「そういうことだ」

 以前に似た様な効果を持つ魔導具に携わった経験があるのか、オリヴィエがディオンの仄めかしていた『二つ目の機能』を言い当てる。
 古代魔導具に通じている訳ではないクリスティーナ達ではあるが、それでも『魅了』という言葉で連想させられる物があった。

 闇魔法は聖魔法と同じく謎の多い魔法だ。だがその中でも『魅了』の存在は有名な話であった。
 闇魔法の中には人の精神に影響を及ぼす物も多い。中でも『色欲』の魔族アモデウスは男女選ばず自身の虜にさせてしまう『魅了』の魔法を解く意図していたという。
 『魅了』を掛けられたものは対象に妄執的になる、好意の対象は必ずしもアモデウス自身でなければならない訳ではなく、それが物へ向けられるよう仕向けられることもあったという。

 『魅了』は闇魔法の中でもわかっていることが多い類の魔法。
 魔族の扱う魔法の詳細を知った者が同じ効果を齎す術式を完成させてさえいれば魔族でなくとも『魅了』の魔法を扱うことは出来る。

 今回の古代魔導具はそうして出来上がった物であるかもしれない。それがディオンの見解であった。

「『魅了』で特定の人物を古代魔導具に妄執させる。わざわざ術を組むって事はそうするメリットが当時の開発者共にはあったってことだ」
「では、とりあえず……あの古代魔導具は植物化と『魅了』の二つの効力を兼ね備えているという事?」
「機能の面の話だけをするのであれば、そうだ。これだけでも十分厄介且つ危険極まりないが……恐らく今回はそれで片付けられる物じゃあない」
「他にも何か懸念点が……?」
「そういうこと……なんだが、この話をする前に話しておかなくちゃなんねぇことがあるな」

 ジルベールは不安を滲ませ、顔を青くさせながら真剣な眼差しでディオンに答えを求める。
 今一度その場の全員の視線を集めた彼は目頭を揉んで顔を顰めてから、苦々しく笑った。

「魔術ってのはなぁ……無生物以外にも組み込めちまうんだよ」
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