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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

175-2.見え始めた糸口

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「次に植物化の対策だな。これについては古代魔導具の形状が把握できた今、実際に被害を受けている相手から聞いた方が確実ではあるが……。凡その予測はつく」

 そういうや否や、ディオンはリオへと視線を投げた。
 自分がどうかしたのかとリオが瞬きをすれば更に顎で自身を指し示される。

「お前さんが古代魔導具へ接近した時に植物が襲い掛かって来たんだろう?」
「はい」
「それはお前さんを攻撃する事が魔導具にとって都合良かったからだ」
「それって、侵入者を魔導具に近づけさせない為に襲って来たって事?」
「いいや。エリアスが言うように侵入者を退ける為という可能性も考えたが、それに関してはジルベールが倉庫を確認した際に起きた同様の現象が否定している」

 ジルベールは自身が倉庫内で体験した出来事を思い返す。
 そしてディオンが言わんとしている事をすぐに代弁してみせた。

「倉庫に魔導具らしき物はありませんでした。それを鑑みれば、守るべき物がないのにも拘らず襲い掛かって来た事には別の理由がある……という事でしょうか」
「そういうことだ。そしてオレはそれこそが『人を植物化させる』条件だと睨んでいる」
「接触……もしくは傷口からの血液接触等でしょうか。ジルベール様の仰った通り、触らなくて正解でしたね」

「恐らくな。『魅了』が組み込まれているのであれば余計に相手の戦意や防衛本能を喪失させ、隙を生みやすいだろう。リオやジルベールが『魅了』の影響を受けなかったのは使う余裕がなかったか、もしくは行使されたものの効果がなかったかのどちらかだと考えられる」

 話を聞いている内、クリスティーナの額を汗が伝っていく。
 倉庫前で植物に襲われた際、もしジルベールが駆け付けなければリオは間違いなく攻撃を受けていたことだろう。

 彼の不死身の体質については長い付き合いのクリスティーナすらもわからないことが多い。

 例えば、人の本質そのものを変えてしまうような今回の場合に於いて。植物化した体は不死身の力で元の戻すことが出来る物なのだろうか。
 そんな考えが過り、もし万一不死身の能力で補うことの出来ない物であったならと最悪の場合を想像してしまう。

(……改めて、恐ろしい魔法だわ)

 ゾッと背筋が冷えていくのを感じたクリスティーナはそれ以上考えることを止めた。
 考えを振り払うようにゆっくりと首を横に振る。そして静かに息を吐き出して気持ちを落ち着かせた。
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