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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
188-3.寒がりな怪盗
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「あのね、あたしキトリーって言うの。キトリー・エモニエ」
目元を濡らした涙を袖で拭いながらキトリーが言う。
それに頷きを返し、クリスティーナは慣れない作り笑いを浮かべる。
「伝えておくわね」
「……うん、お願い。怪盗さん、きっと寒がりだから。忘れないで渡してね」
「寒がり?」
「うん」
突然降った話題に意表を突かれ、クリスティーナは目を丸くする。
キトリーの言葉を思わず聞き返せば、彼女は首を縦に振った。
「怪盗さんね、転んだあたしの手を引いてくれた時、震えてたの。きっと寒かったんだと思うわ」
クリスティーナはホールでキトリーに手を差し伸べた時のオリヴィエの姿を思い返す。しかし彼の堂々とした振る舞いは思い出してみた所で到底震えていたようには思えない物である。
恐らくは実際に触れていたキトリーだからこそ気付いた事なのだろう。
「だから、風邪を引かないように温かくしてねって伝えて欲しいの」
「……ええ、わかったわ」
「ありがとう」
意外な話題に気を取られて一瞬呆けてしまうが、クリスティーナはすぐに我に返って頷きを返す。
そして相手が承諾した事を己の目でしっかりと確認したキトリーはクリスティーナに頭を下げると、女性の服の袖を小さく引いた。
「帰ろ、ママ」
「……ええ」
「また来てもいい?」
「……そうね、会えるかはわからないけど」
「うん」
落ち込んだ様子を見せながらも落としどころを見つけた少女は速足で道を歩いていく。それを見送り、追いかけようと一歩足を踏み出した女性はそこでふと三人へ振り返った。
「ありがとうございます」
「いいえ。……これ、返したほうがいいかしら」
「いえ、もしよければそのまま受け取ってあげていただけると嬉しいです」
キトリーや女性へ向けたクリスティーナの言葉。その意図を汲んだ女性は朗らかに笑い、頭を下げた。
「……ありがとうございます。あの子が納得いく様に話を合わせてくれたんですよね」
「ええ。だから本人へ渡す事も勿論出来ないわ。……それでも良いの?」
「私が持っているのが見つかってしまえば余計に落ち込んでしまうでしょうから」
「そう」
『遊翼の怪盗』と面識があるというのはその場凌ぎの噓であり、実際は何の関係もない。
……という体でクリスティーナが進めていた話を女性は上手く察してくれた。
「わかったわ。これは預からせてもらうわね」
「ありがとうございます。……お二人も、気を遣って下さって」
「い、いいえ……!」
「おれはなーんもしてないけどね! 一件落着したならよかったよ」
女性はヴィートとブランシュにも頭を下げると、キトリーを見失わない内にと足早にその場を立ち去った。
三人は視線の先、再び涙を流しそうになっているキトリーとそれを優しく慰める女性の姿を静かに見送ったのだった。
目元を濡らした涙を袖で拭いながらキトリーが言う。
それに頷きを返し、クリスティーナは慣れない作り笑いを浮かべる。
「伝えておくわね」
「……うん、お願い。怪盗さん、きっと寒がりだから。忘れないで渡してね」
「寒がり?」
「うん」
突然降った話題に意表を突かれ、クリスティーナは目を丸くする。
キトリーの言葉を思わず聞き返せば、彼女は首を縦に振った。
「怪盗さんね、転んだあたしの手を引いてくれた時、震えてたの。きっと寒かったんだと思うわ」
クリスティーナはホールでキトリーに手を差し伸べた時のオリヴィエの姿を思い返す。しかし彼の堂々とした振る舞いは思い出してみた所で到底震えていたようには思えない物である。
恐らくは実際に触れていたキトリーだからこそ気付いた事なのだろう。
「だから、風邪を引かないように温かくしてねって伝えて欲しいの」
「……ええ、わかったわ」
「ありがとう」
意外な話題に気を取られて一瞬呆けてしまうが、クリスティーナはすぐに我に返って頷きを返す。
そして相手が承諾した事を己の目でしっかりと確認したキトリーはクリスティーナに頭を下げると、女性の服の袖を小さく引いた。
「帰ろ、ママ」
「……ええ」
「また来てもいい?」
「……そうね、会えるかはわからないけど」
「うん」
落ち込んだ様子を見せながらも落としどころを見つけた少女は速足で道を歩いていく。それを見送り、追いかけようと一歩足を踏み出した女性はそこでふと三人へ振り返った。
「ありがとうございます」
「いいえ。……これ、返したほうがいいかしら」
「いえ、もしよければそのまま受け取ってあげていただけると嬉しいです」
キトリーや女性へ向けたクリスティーナの言葉。その意図を汲んだ女性は朗らかに笑い、頭を下げた。
「……ありがとうございます。あの子が納得いく様に話を合わせてくれたんですよね」
「ええ。だから本人へ渡す事も勿論出来ないわ。……それでも良いの?」
「私が持っているのが見つかってしまえば余計に落ち込んでしまうでしょうから」
「そう」
『遊翼の怪盗』と面識があるというのはその場凌ぎの噓であり、実際は何の関係もない。
……という体でクリスティーナが進めていた話を女性は上手く察してくれた。
「わかったわ。これは預からせてもらうわね」
「ありがとうございます。……お二人も、気を遣って下さって」
「い、いいえ……!」
「おれはなーんもしてないけどね! 一件落着したならよかったよ」
女性はヴィートとブランシュにも頭を下げると、キトリーを見失わない内にと足早にその場を立ち去った。
三人は視線の先、再び涙を流しそうになっているキトリーとそれを優しく慰める女性の姿を静かに見送ったのだった。
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