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第一章 青き誓い

6、王子と赤薔薇姫(4)

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 この家出から、ベルイエン離宮にて再び静養の日々を送ることになったグラスタンは、マルティータと少しずつ近づいていった。
 ある時は図書室で、ある時は常春の庭で、またはグラスタンの部屋で。
 叔母ミゼリア・ミュデリアの眼差しを近く遠く受けながら、二人は逢瀬を繰り返した。
 マルティータがサンデル公爵家の長女であること、ベルイエン離宮には修練を兼ねて神子姫の側仕えに出てきたこと、そして〈ギフト〉を持たぬことを教えてくれたなら、グラスタンも自らの不自由で窮屈な人生を零した。愛読書を交換し、読みあったこともある。何より、彼女は〈獅子王の再来〉の二つ名の重さに背を丸める学者気質の王子に寄り添ってくれた。
 そのうち、どちらともなくグレイズ、マルーと特別な愛称で呼び合うようになった。
 元々グレイズ・ルスランとは、マルティータがつけてくれたものだ。
「上品(グレイス)でお優しく、慎み深い」から、グレイズと複数形にしたそうだ。
 長ったらしくけばけばしい実の名よりもこざっぱりとしているし、何より、世間が求める〈獅子王の再来〉グラスタンから遠ざかることができて、グレイズも気に入っていた。
 ルスランは言うまでもなく、二人の共通点の一つで大切な物語『ルスランとリュドミラ』からとったものである。
 持たざる者同士の孤独を分かち合える唯一無二の相手――マルティータの前でなら、自分らしくいられた。これから共に生きて、重ねていけばいい。 
 彼女に関わることならば未来も明るく感じられた。彼女の笑顔が咲く世界にせねばと思う。
 二人は高貴な出身と、非才なる己を責める昏い思いなど、いくつもの憂いと秘密、孤独とを少しずつ共有しあった。互いに恋に落ち、愛しあい、婚約するまでに長い時間は必要なかった。
 実際、ヴァニアス王国唯一の公爵家令嬢との婚約は、誰にも反対されなかった。
 あの厳しい父さえも、それまで各家から押し寄せていた縁談をすべて断ってくれた。
 そして、グレイズが十七歳の誕生日を迎えるころ、父ブレンディアン五世が離宮に現れた。
 彼はわざわざ迎えに来たのだ。

「妻を娶るならば、それに相応しい男になるのだ」

 要約すると、成人を迎えた王太子として王の騎士に叙任されること、そして、その際必要な〈盾仲間〉を御前試合にて選出せよ、そしてマルティータの成人を待つ間〈盾仲間〉とともに一年の修行を積め、という話であった。しかも御前試合はグレイズの知らぬ間にセッティングされており、既に決勝戦に出場する従騎士が決定しているという。
 マルティータとの婚約を許してくれた手前、断ることなどできなかったし、父王の求める格式ばった覇道のすがたについては、遅かれ早かれ見せねばならないので、グレイズはしぶしぶ承諾した。
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