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第三楽章 春の嵐-Scherzo-
3-2〈記憶の君〉(3)
しおりを挟む生まれと育ちの違いだろうか。探偵と少年との間には、こうした齟齬が頻発する。
そういうときは納得できない気持ちを誤魔化すように茶器に手を伸ばす。
今回も例に漏れず、揃ってクッキーに指を伸ばして、あらためて顔と顔を突き合わせることになった。
「まあ、そういうことだ」
「いや、大事なところが抜けてるから」
セシルは身を乗り出して、パーシィが取ろうとしていたクッキーをもぎ取った。
「おかしくない? そんなに大好きだった子のことを、どうして忘れるのさ。それって大好きじゃないじゃん」
少年の指摘があまりに鋭くて、パーシィは思わず口を噤んだ。
わかってくれるとは端から期待していない。いや。僕は甘えていた。
誰にも見えない自分だけの大切な少女がいるこの男の子になら、理解してもらえるはずだと。
自覚すると、目頭が熱くなった。思っている以上にショックを受けたらしい。
「ごめんって。話して。聞いてあげる」
少年は黙りこくった探偵を見かねたのか、突き放すように言うと、クッキーを二枚とも口に放り込んでから、新しい一枚をパーシィにくれた。それを受け取り、小さく囓る。
「大好きだったさ。だから、何度も引き留めた。けれど彼女は去ってしまった。そうしてヴァイオレット殿とその娘がダ・マスケに戻ってからしばらく経ったある日のことだ。本当に突然だった。今度はいつ会えるだろうと寝ても覚めても思っていた彼女の顔を思い出せなくなった。ショックだった。靄がかかったように、薄ぼんやりとした存在だけは感じた。だから、不安になって僕は家族や身の回りの人に尋ねた。『魔女様の助手を覚えているかい?』と」
青年は、自分の声の沈鬱さに我ながら驚いていた。
「『そんな子はいない』と、口を揃えられた。まさかと思って、ダ・マスケに馬を飛ばした。ヴァイオレット殿は仰られた。『あの子のことはお忘れください』と」
ふと、陽光に黄色く輝くレースのカーテンが、ゆったりと体を揺らしているのに気付く。
ああ。パーシィは思った。あの子もあんなふわふわのワンピースを着ていた気がする。
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