アルカナセイド【ARCANUM;SEDO】

臂りき

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2-4 矛盾

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『他国侵略の激化に伴い、学生諸君らには大臣直々に作戦の同行が認められた。本学は主に部隊の後援を任じられており、随時司令部より下される命令に従ってもらいたい。時期が早まったものの、戦い方は訓練で行っている物と状況とを照らせば何ら問題はない。
 念のためではあるがバックアップは最新のものに更新しておくように。加えて各々、残器の整備及び接続状況の確認を怠らぬよう。――諸君らには期待している』
 ベットの上、洗面台、朝食を前にした今でさえ、起きた瞬間からその言葉が僕の頭を支配した。故に寝不足気味の体に鞭打ち、学内ログにある自身の残器データと、接続状況が『良好クリア』であることを確認する。日を跨いでもう五度目になる。
 校長から頂いた口外無用の訓示は、どう考えても僕ら一般人に出回る優勢説とに矛盾がある。
 従来より国家部隊は、人員、兵器、情報全てにおいて充足しており、殊に兵器を強化したことで人員の削減を実現した。今後著しい自然災害が無い限り国家の安全と平和は保障される。他国の侵略行為に脅かされることもなく、世界最高峰の軍事力、生活水準を保つことができる。
 そんな国で生徒が徴兵される訳がなかった。
「アテルさん、体調が優れませんか?」
「いや、大丈夫」
 だが命令は飽く迄命令だ。僕は黙って従っていればいい。
 命令について必要のない詮索をしている時点で、もしかしたら僕は本当に何か悪いのかもしれない。アリサに言われるまで気付かずに、手元の箸をじっと見つめたままでは確かに調子が悪いと思われても仕方がなかった。
 目下すべきことは目の前のご飯、味噌汁、魚を平らげることである。
「明日から本部への配属が決まったよ。必需品は向こうで手配してくれるから心配ない」
 多少味わいながらもこれまでのロスを取り戻すかのように皿の物を片付け、誰に言うでもなく呟いた。
 盆を引っ手繰り食べ終えた食器をまとめているとき、ふと向こうの妹がちらちらと僕を見ているのに気付いた。だから空に成り掛けた彼女のグラスに水を注いでやった。
 そっとその横を確認する限り、母さんが心なしか心配そうな顔をしている。
 その場に突っ立つ家事用ロボットとの擦れ違い様、後ろの方で椅子を引く音が聞こえたが、構わず厨房へと盆を返すことに専念した。
 彼らが僕をどう思おうと知ったことではない。僕は予てからこんなにも希薄な「家族」という人間関係にうんざりしていた。
 誰が決めた訳でもないこの関係は人類の登場以来進化し続け、ある一定の水準を超えた途端にほとんど意味を持たなくなった。
 勿論、他の生物には不可欠なものとして位置付けられている。しかし個々、もしくは小グループが容易に自立できる現在の社会において、その希薄な関係は単なる過去の遺物、不要な形式と言わざるを得ない。
 それでも尚残り続けるのには、そこに所属することで何かしらの利益があるからに他ならない。ただ、僕についてその存在理由を言及するならば、単に小隊やアリサとの関係の深さを自覚するための一要素と化す。
 あれだけ疎遠な小隊の方がまだマシだと。
「あの、兄さん……」
 玄関前でいつもより強く靴紐を結んでいる所へ背後から妹が声を掛けて来た。
 思わず構えてしまうのを自覚しつつ、普段より倍加されたリュックサックを背負って徐に振り返る。
 そこには一声を発したまま立ち尽くす妹がいて、僕はそれをじっと眺めた。
 体付きから察するに性別は明らかに女性。髪は肩に掛かる程度に整えられ、背は僕より少し低いくらい。着ている制服は僕が通う学校の中等部に属することを示している。
「……いってらっしゃい」
「……ん、うん」
 返答に窮した僕は苦し紛れに絞り出す。
 それを聞くや否や彼女は自身のバディであるヒューマノイドをその場に残して奥へと駆け出して行った。
「私も失礼します。いってらっしゃいませアテルさん」
 ヒューマノイドは一礼して妹の後を追った。よくできた家事用ロボットだ。
 だが以前からロボットや家族に対して干渉を怠ってきたこともあって、僕に対する彼らの素っ気ない態度は当然と言えば当然のことでしかなかった。
「いってきます」
 だから久しく聞くことのなかった「いってらっしゃい」という慣用句にさえ違和を感じながら、誰もいない背後に向かって的確にそう呟いた。
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