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2-9 斑《ふ》
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一帯にできた水鏡が空の青を映し出している。
地面にできた窪みが昨日の恵みを享け止めた。その畔に顔を寄せたエメスの少年が水を啜る。
水面に映る姿は総じて白い。少年は生まれついて得た体の特徴に疑問を持ったことがない。
自身の境遇を知る機会も、知ろうという気概もありはしない。
『己が身はただ、この不毛の地に在るようにして在る』
泥水に腹を膨らませた少年が起き上がると、周囲に同様の少年たちが疎らに集まり、先の少年の真似を始めた。
少年は枯れかけた木に寄り添い暫し眠る。生命力の節約と、僅かな魔素の摂取を兼ねた少年の日課である。雨が降ればそれを飲み、新たな芽が吹けばそれを守り、育て、共に生きる。雨の振らない日が続けば、やがて僅かな木々は枯れ、彼らも共に息絶える。
木々の間を馬車が駆けてくる。この束の間にできた安寧の地に、また迎えがやってきた。
「はいはい。そこの君たち、早く乗ってね」
血色の悪い痩せぎすの男が馬車から降り、誰に言うともなしに言葉を吐いた。
少年たちは男の言葉を解さない。しかし、不明な唸りを上げる生物が自身よりも遥かに強靭であるが故に男に従う。少年はもう何度かこの光景を見ている。
馬車の荷台には多くの子どもが詰め込まれた。中には少年とは種族の異なる者もある。
荷台に足を踏み掛けたとき、少年はふと枯れ始めた湖畔を顧みた。その先には水を飲み終えたらしい同族の少女がじっと少年を見詰め佇む姿があった。
「……ユカリ、さん」
「止まるんじゃない!」
男の手が襤褸の裾を掴み少年を荷台へと放った。少年は顔を引き攣らせながら、強かに打ち付けた腰を僅かに浮かせた。男は少年の笑顔を見てから満足そうに御者台に飛び乗った。
何事も無かったかのように馬車は元来た道を戻る。
少年はただ轍から跳ねる車輪の衝撃に従って笑い、絶えず積み荷と共に揺られる。
「次まで大人しく待ってるんだぞ!」
残された少女は少年が手塩に掛けた木に寄り添う。
また一つ。不毛の地にある萌芽が、いつの間にか眠りについた少女の傍らに落ちた。
地面にできた窪みが昨日の恵みを享け止めた。その畔に顔を寄せたエメスの少年が水を啜る。
水面に映る姿は総じて白い。少年は生まれついて得た体の特徴に疑問を持ったことがない。
自身の境遇を知る機会も、知ろうという気概もありはしない。
『己が身はただ、この不毛の地に在るようにして在る』
泥水に腹を膨らませた少年が起き上がると、周囲に同様の少年たちが疎らに集まり、先の少年の真似を始めた。
少年は枯れかけた木に寄り添い暫し眠る。生命力の節約と、僅かな魔素の摂取を兼ねた少年の日課である。雨が降ればそれを飲み、新たな芽が吹けばそれを守り、育て、共に生きる。雨の振らない日が続けば、やがて僅かな木々は枯れ、彼らも共に息絶える。
木々の間を馬車が駆けてくる。この束の間にできた安寧の地に、また迎えがやってきた。
「はいはい。そこの君たち、早く乗ってね」
血色の悪い痩せぎすの男が馬車から降り、誰に言うともなしに言葉を吐いた。
少年たちは男の言葉を解さない。しかし、不明な唸りを上げる生物が自身よりも遥かに強靭であるが故に男に従う。少年はもう何度かこの光景を見ている。
馬車の荷台には多くの子どもが詰め込まれた。中には少年とは種族の異なる者もある。
荷台に足を踏み掛けたとき、少年はふと枯れ始めた湖畔を顧みた。その先には水を飲み終えたらしい同族の少女がじっと少年を見詰め佇む姿があった。
「……ユカリ、さん」
「止まるんじゃない!」
男の手が襤褸の裾を掴み少年を荷台へと放った。少年は顔を引き攣らせながら、強かに打ち付けた腰を僅かに浮かせた。男は少年の笑顔を見てから満足そうに御者台に飛び乗った。
何事も無かったかのように馬車は元来た道を戻る。
少年はただ轍から跳ねる車輪の衝撃に従って笑い、絶えず積み荷と共に揺られる。
「次まで大人しく待ってるんだぞ!」
残された少女は少年が手塩に掛けた木に寄り添う。
また一つ。不毛の地にある萌芽が、いつの間にか眠りについた少女の傍らに落ちた。
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