弱体の拳士

霧島 黒史

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弱体の拳士編

最弱の最強

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称号は、誰かが勝手につけた。

──最強の拳士。



レイが最初に「違い」を自覚したのは、物心がつくよりも前だった。

魔力の灯が、どこにもなかった。

村の子どもたちは、五つを過ぎる頃になると、指先に小さな光を灯すようになる。

それは祝福の証であり、才能の芽だった。

だが、レイの手は――

どれだけ集中しても、どれだけ祈っても、何も起こらなかった。



「……まだ目覚めてないだけだろ」



大人たちはそう言って、笑って流した。

だがその笑いは、どこか気まずく、早く話題を終わらせたがっていた。

レイは姿見に映る自分の姿を嘲笑した。

細い手足。

高い声。

そして女の子のような顔立ち。



「おい、お嬢。剣、重くないか?」

「嬢ちゃんは後ろにいな。邪魔だからよ」



──お嬢

いつからそう呼ばれるようになったのか、レイは覚えていない。

笑い声が、いつも背中に突き刺さった。

だがレイは否定しなかった。出来なかった。

言い返しても、何も変わらないと知っていたからだ。

魔力のない身体。それがレイの、他の者にはない特異体質だった。

皆が「無意識」に使っている魔力の補正が、レイにはない。

同じ動作をしても、疲労は倍。

失敗すれば、痛みはそのまま身体に返ってくる。

剣を振れば、すぐに腕が震えた。

魔法の訓練では、レイだけが何もできなかった。

教師は言った。



「向いていない」



優しい声だった。

だからこそ、余計に胸に刺さった。

拳士を目指した理由などなかった。

レイが拳を使い始めたのは、逃げだった。

剣も魔法も使えない。

なら、何もいらない戦い方を選ぶしかなかった。

誰も教えてくれなかった。

だから、見て盗んだ。

『体重移動』『踏み込み』『呼吸法』

最初の勝利は村の外れに現れた魔物だった。

討伐隊が討ち損ねた1体だったのだろう。

豚が二足歩行をしたようなその魔物は、レイを見て笑った。



――小さい。

――魔力もない。



だから、油断した。レイはそれを見落とさなかった。 

油断に付け込む『卑怯』で、『意地の悪い』レイの拳は魔物の『魔力を纏わぬ一点』を貫き、命を没収したのだ。

それは偶然で、奇跡で、二度と再現できない一撃だった。だが、それで十分だった。



そこから変わり始めた視線。

その日から、呼び名が変わった。

「女オトコ」「気味の悪い奴」嘲笑は減らなかった。

だが、近づく者が減った。

恐れと嫌悪は、紙一重だった。

拳士として成長しても、レイの身体は変わらなかった。

結局魔力は、最後まで目覚めなかった。

それでも、拳は研ぎ澄まされた。

魔物を倒すたび、「ありえない」という声が増えた。



やがて――

誰もレイを「お嬢」と呼ばなくなった。

理由は単純だ。

呼んだ者が、無事では済まなかったから。
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