45 / 56
第一章
第一章1 ~異種間恋愛は恋物語の基本ですけども~
しおりを挟む
ルィテ王国国王、イージェルド・ルィテは執務室で頭を悩ませていた。
彼の目の前にある執務机の上には、周辺各国からの書簡が山積みになっている。
それぞれ、立場や関係などによる語調は違えど、要約すると「聖女キヨズミセイラに関する詳細を開示せよ」という内容だった。
「全く……板挟みになって苦悩するこちらのことも考えてほしいものだね……」
新しく届いた書簡の内容もそれに準ずるものだと見たイージェルドは、その書簡を山のてっぺんに放り出しながらため息をついた。
浸かれた様子のイージェルドに対し、部屋にいた彼の弟――オルフィルドが慰めるように声をかける。
「周辺各国も死告龍の動向には注意を払わないとだからな……仕方ないさ、兄さん」
鋭い眼光が特徴の彼は、軍人らしい礼服に身を包んでいる。
そんな彼は自ら用意したティーポットを傾け、紅茶をカップに注いでイージェルドの前に置いた。
イージェルドは軽く礼を言ってからそのカップに口を付ける。
「ああ、わかっているとも。わかってはいるんだけどね……」
「兄さんがうんざりするのも、まあ、わかるけどな」
イージェルドとオルフィルドはこの国の王族であり、この国の民を守る責務がある。
一般的に災害でしかない死告龍を抑えられるというのは、不確定な脅威を制御できるということである。それを制御出来る機会を放棄することはありえない。
ゆえに、それを成し得る聖羅を厚遇するのに問題はない。
ただ、死告龍の制御に『聖女キヨズミセイラ』という存在が仲立ちになっているというのは、ある意味では行幸で、違う面から見れば不確定なことが多く危ういことであった。
「聖女呼ばわりも肖像画の拡散も、今後のためになるといって納得はさせたけど……いつ彼女自身の不満が爆発するか、不安でね……どうだい、そのあたり? オルフィルドの方が彼女と接する機会は多いだろう?」
死告龍を制御出来るのは聖羅だけ。
聖羅が命じれば、死告龍がルィテ王国に牙を剥くということである。
ゆえに、聖羅の動向は彼らが常に気にかけて置かなければならないことであった。
「ああ。毎日の茶会は続けてるからな……いまのところ本気で嫌がってる感じはしない。少なくとも、理屈としては納得してるみたいだ。あとは、まあ、恥ずかしがってるだけだな」
「そうかい……そうだといいんだけど。オルフィルドがそういうなら大丈夫かな。彼女は読みにくくて困る。いまだに警戒されているんだろ?」
「そこなんだよなぁ。そろそろ信用くらいはしてくれてもよさそうなもんなんだが……いまだに俺たちの言葉すら疑ってる節があってな……ここまで信用されないなんて、敵対国相手でもまずないぞ」
彼らは聖羅という人間について『ごく普通で一般的な善良な人間』と見ていた。
特筆すべきほどの何かを見いだしているわけではない。一定の誠実さは感じても、この世界の人間にとって、誠実というのは個々の性格によるものではないためだ。
身体に魔力を宿すこの世界の人間、ひいては生物にとって『嘘を吐く』というのは相応に覚悟のいる行為なのである。
彼らは『嘘を吐く』行為をする度に、言い様のない嫌悪感に襲われるのだ。だから極力『嘘を吐かない』ように動くし、吐く時は相応の覚悟を持って行う。
知っていることを言わないこと、あるいは言わない行為そのものの裏を探ることによって駆け引きは生まれるが、明白な嘘は吐けないのが、この世界の生き物なのである。
無論例外はいくらでも存在するが、聖羅がいた世界とは比べものにならないほど詐欺師や悪人が蔓延りにくい環境なのだ。
「彼女がもう少しわかりやすければ、案ずることも少なくて済むのだけどね……」
そういう事情を持つこの世界からすると、聖羅の誠実さや素直さというものは『至って普通』なのである。
聖羅の世界でいえば、聖羅は『馬鹿正直』と呼ばれるほど、嘘の吐けない誠実な性格であるが、この世界ではそれが普通なのだ。
そして聖羅はそれを理解しないまま、騙し騙されが当たり前の彼女の世界の基準で物事を考えている。
イージェルドやオルフィルドの言葉を頭から信用していないのはそのためだ。
それは正しいことではあるのだが、この世界の者たちからしてみれば、「明確に言葉として発された内容にも疑いを抱くほど、度を超して慎重。あるいは自分たちを全く信用していない証」となってしまっていた。
「交流してる限りは悪意を感じないし、異世界に来ちまって単に警戒してる……だけだと信じたいところだ」
「まだしばらくは様子見……かな。となると……」
そう言って、イージェルドは山積みになった書簡を見渡し、再びため息を吐いた。
周辺各国をどう納得させるか――問題は再びそこに帰結するのである。
少し、時間は遡る。
『リューはね――セイラにツガイになって欲しいんだ!』
あの日、清澄聖羅に『リューさん』と呼ばれている死告龍はそう告げた。
告げられた聖羅は一瞬、なにを言われたのかよくわからなかった。
しかし言葉の意味を徐々に理解するにつれ、戸惑いの気持ちが沸き上がってくる。
「ええと……すみません。その、『ツガイ』というのは……どういうことでしょうか?」
聖羅は、例え元の世界と聞こえている言葉が同じでも、全く違う意味合いになる言葉もあるという前提で考えていた。
翻訳魔法は驚くほど意思疎通を円滑にしてくれているが、それが万能では無いということも彼女は朧気に理解しているためだ。
稀ではあったが、本来の言葉の意味とは全く異なる意味合いで同じ単語が使われることもあった。
ゆえに聖羅は怪しく思えた時は、慎重に言葉の意味を確認するように心がけている。
今回の『ツガイ』という言葉も彼女が想像しているのとは違う、この世界独特の意味を持つ可能性があった。
そのため、尋ねたのだが。
『そのままの意味だよ? リューと子供を創って欲しいの』
死告龍は聖羅が受け取った通りの意味だと、さらりと告げる。
聖羅はそのことで嫌悪感や忌避感を覚えることはなかった。
知らぬ仲ではなくとも、出会ってまだ一月も経たない相手に「自分と子供を作って欲しい」などと言われたとしよう。
よほど親しい関係にでもなっていない限りは、拒否するのが普通だし、下手をすれば嫌悪感が湧いてくるところだが、聖羅はそう思わなかった。
と、いうよりは――ドラゴンから『番いになって欲しい』と言われることが、想像の埒外のことすぎて実感が湧かなかったのである。
「……ええと、まず確認なのですが、リューさんは……男性だったのですか?」
目の前に野生の熊が出没したとする。
そうなった場合、その熊の雄雌が気になる人間はそうはいない。まずはその熊が襲ってくるかどうか、あるいは逃げられるかどうかを考えるのが普通だ。
それと同じで、聖羅は死告龍が雌か雄かなど気にしたことがなかった。
言葉を交わせるようになって、外見からの想像より声が高いとは思っていたが、それは雄雌の影響というよりは年齢が幼いという方向に取ったため、雄雌どちらかは意識していなかったのだ。
聖羅の問いに対し、死告龍は少し困ったように首を傾げる。
『んー。男か女かって言われると……リューたちドラゴンにはセイラたち人間みたいに決まった性別がないから。どっち、っていわれても、ないっていうしかないなぁ』
この世界のドラゴンには明確な性別の区別がない。
普段は無性で、必要に応じて男性器や女性器が出現するのだ。
その事を聞いた聖羅は、意外に感じて目を丸くした。
「そうだったんですか? お兄さんがいらっしゃるといっていたので、てっきり、性別はあるものかと……」
『お兄ちゃんにはもうツガイがいるからねー。強いお兄ちゃんの方が雄になってるの。でも、その気になればまた雌にもなれるはずだよ』
しかしドラゴンは一度ツガイが成立した後、別のツガイを創ることを滅多にしないため、性別を次々変えるということは、そうそうないことではある。
「……そのお相手さんはドラゴン、ですよね?」
『うん、そう。普通のツガイはドラゴンであることが多いよ』
「普通ではない場合があるんですね……」
自分に『ツガイになって欲しい』などと死告龍が求めて来ている時点で、そのことは聖羅にも予想の出来ていたことではあったが、彼女はそう呟いた。
死告龍には彼女の複雑な気持ちを斟酌することはできず、平然と話を続ける。
『ドラゴンという種族にはね。種族として高みを目指す習性があるの。大昔はセイラよりもちっちゃなトカゲだったんだって』
かつては、いまでいう『ドラゴン』という種族自体存在していなかった。
元はただ生存能力に特化しただけのトカゲであったと言われている。
それが長い年月の果てに徐々に力を得て、種族として強くなっていった存在、それが『ドラゴン』という種族である。
元々は人間に踏みつぶされる程度だった弱小種族が、何千、何万という時間をかけて強くなったのである。
そして、いまでは最強種族の一角に数えられている。
その中でも、戦闘能力が突出した存在がリューという個体。死告龍なのだ。
『リューは強くなるためにがんばったの。身体を鍛えたし、魔法も覚えた。ドラゴンの中でもリューに勝てるのはお婆ちゃんくらいなんだよ?』
「お婆さん……もしや、私もお会いしたことがある、あの長老さんのことですか?」
『そうそう! リューでもお婆ちゃんには勝てないの。あ、ブレスだけの勝負ならたぶん勝てるけど……ドラゴンはブレス頼りになったら終わりだから』
魔法や爪、尻尾なども駆使して戦うのがドラゴンである。
確かに死告龍の即死ブレスは強力だが、必ずしも無敵ではないのだ。
『リューは十分強くなったから……次は、もっとドラゴンを強くするの』
そう言われれば、聖羅にもどういう意図を持っての行動かわかった。
「つまり、リューさんは個としてのドラゴンとしては、突き詰めるところまで強くなったから、さらなる強さを目指すために、多種族の血を取り入れようと……そういうわけですか?」
『そういうこと!』
聖羅は死告龍がどういう理由で多種族の自分に求愛しているのか、その意図を正しく理解した。
話としてはありがちな話ではある。
純血主義、とは全くの逆だが、要はその『血』そのものを強くしようという話で、そういった行為自体は聖羅としても納得できない話ではない。
ただ、それに自分が関わってくる話となると――それも、ドラゴンを産むという話になると――話はまた違ってくる。
端的に言えば、断りたい。
だが、聖羅の身の安全というのは非常に危ういものであるため、申し出を拒否した時の影響が自分や周りにどう及ぶか、わからない。
「か、考えさせてください……」
だから聖羅は時間稼ぎの言葉を口にする。
リューは少し残念そうに顔を歪めつつ、いまのところ聖羅の意思を尊重する気はあるようで、無理強いはしなかった。
だが、もしもその気になれば、死告龍を止められる存在はこの世界にほとんどいないのだ。
ゆえに、聖羅は改めて「早く元の世界に帰らなければ」という決意を固めたのであった。
彼の目の前にある執務机の上には、周辺各国からの書簡が山積みになっている。
それぞれ、立場や関係などによる語調は違えど、要約すると「聖女キヨズミセイラに関する詳細を開示せよ」という内容だった。
「全く……板挟みになって苦悩するこちらのことも考えてほしいものだね……」
新しく届いた書簡の内容もそれに準ずるものだと見たイージェルドは、その書簡を山のてっぺんに放り出しながらため息をついた。
浸かれた様子のイージェルドに対し、部屋にいた彼の弟――オルフィルドが慰めるように声をかける。
「周辺各国も死告龍の動向には注意を払わないとだからな……仕方ないさ、兄さん」
鋭い眼光が特徴の彼は、軍人らしい礼服に身を包んでいる。
そんな彼は自ら用意したティーポットを傾け、紅茶をカップに注いでイージェルドの前に置いた。
イージェルドは軽く礼を言ってからそのカップに口を付ける。
「ああ、わかっているとも。わかってはいるんだけどね……」
「兄さんがうんざりするのも、まあ、わかるけどな」
イージェルドとオルフィルドはこの国の王族であり、この国の民を守る責務がある。
一般的に災害でしかない死告龍を抑えられるというのは、不確定な脅威を制御できるということである。それを制御出来る機会を放棄することはありえない。
ゆえに、それを成し得る聖羅を厚遇するのに問題はない。
ただ、死告龍の制御に『聖女キヨズミセイラ』という存在が仲立ちになっているというのは、ある意味では行幸で、違う面から見れば不確定なことが多く危ういことであった。
「聖女呼ばわりも肖像画の拡散も、今後のためになるといって納得はさせたけど……いつ彼女自身の不満が爆発するか、不安でね……どうだい、そのあたり? オルフィルドの方が彼女と接する機会は多いだろう?」
死告龍を制御出来るのは聖羅だけ。
聖羅が命じれば、死告龍がルィテ王国に牙を剥くということである。
ゆえに、聖羅の動向は彼らが常に気にかけて置かなければならないことであった。
「ああ。毎日の茶会は続けてるからな……いまのところ本気で嫌がってる感じはしない。少なくとも、理屈としては納得してるみたいだ。あとは、まあ、恥ずかしがってるだけだな」
「そうかい……そうだといいんだけど。オルフィルドがそういうなら大丈夫かな。彼女は読みにくくて困る。いまだに警戒されているんだろ?」
「そこなんだよなぁ。そろそろ信用くらいはしてくれてもよさそうなもんなんだが……いまだに俺たちの言葉すら疑ってる節があってな……ここまで信用されないなんて、敵対国相手でもまずないぞ」
彼らは聖羅という人間について『ごく普通で一般的な善良な人間』と見ていた。
特筆すべきほどの何かを見いだしているわけではない。一定の誠実さは感じても、この世界の人間にとって、誠実というのは個々の性格によるものではないためだ。
身体に魔力を宿すこの世界の人間、ひいては生物にとって『嘘を吐く』というのは相応に覚悟のいる行為なのである。
彼らは『嘘を吐く』行為をする度に、言い様のない嫌悪感に襲われるのだ。だから極力『嘘を吐かない』ように動くし、吐く時は相応の覚悟を持って行う。
知っていることを言わないこと、あるいは言わない行為そのものの裏を探ることによって駆け引きは生まれるが、明白な嘘は吐けないのが、この世界の生き物なのである。
無論例外はいくらでも存在するが、聖羅がいた世界とは比べものにならないほど詐欺師や悪人が蔓延りにくい環境なのだ。
「彼女がもう少しわかりやすければ、案ずることも少なくて済むのだけどね……」
そういう事情を持つこの世界からすると、聖羅の誠実さや素直さというものは『至って普通』なのである。
聖羅の世界でいえば、聖羅は『馬鹿正直』と呼ばれるほど、嘘の吐けない誠実な性格であるが、この世界ではそれが普通なのだ。
そして聖羅はそれを理解しないまま、騙し騙されが当たり前の彼女の世界の基準で物事を考えている。
イージェルドやオルフィルドの言葉を頭から信用していないのはそのためだ。
それは正しいことではあるのだが、この世界の者たちからしてみれば、「明確に言葉として発された内容にも疑いを抱くほど、度を超して慎重。あるいは自分たちを全く信用していない証」となってしまっていた。
「交流してる限りは悪意を感じないし、異世界に来ちまって単に警戒してる……だけだと信じたいところだ」
「まだしばらくは様子見……かな。となると……」
そう言って、イージェルドは山積みになった書簡を見渡し、再びため息を吐いた。
周辺各国をどう納得させるか――問題は再びそこに帰結するのである。
少し、時間は遡る。
『リューはね――セイラにツガイになって欲しいんだ!』
あの日、清澄聖羅に『リューさん』と呼ばれている死告龍はそう告げた。
告げられた聖羅は一瞬、なにを言われたのかよくわからなかった。
しかし言葉の意味を徐々に理解するにつれ、戸惑いの気持ちが沸き上がってくる。
「ええと……すみません。その、『ツガイ』というのは……どういうことでしょうか?」
聖羅は、例え元の世界と聞こえている言葉が同じでも、全く違う意味合いになる言葉もあるという前提で考えていた。
翻訳魔法は驚くほど意思疎通を円滑にしてくれているが、それが万能では無いということも彼女は朧気に理解しているためだ。
稀ではあったが、本来の言葉の意味とは全く異なる意味合いで同じ単語が使われることもあった。
ゆえに聖羅は怪しく思えた時は、慎重に言葉の意味を確認するように心がけている。
今回の『ツガイ』という言葉も彼女が想像しているのとは違う、この世界独特の意味を持つ可能性があった。
そのため、尋ねたのだが。
『そのままの意味だよ? リューと子供を創って欲しいの』
死告龍は聖羅が受け取った通りの意味だと、さらりと告げる。
聖羅はそのことで嫌悪感や忌避感を覚えることはなかった。
知らぬ仲ではなくとも、出会ってまだ一月も経たない相手に「自分と子供を作って欲しい」などと言われたとしよう。
よほど親しい関係にでもなっていない限りは、拒否するのが普通だし、下手をすれば嫌悪感が湧いてくるところだが、聖羅はそう思わなかった。
と、いうよりは――ドラゴンから『番いになって欲しい』と言われることが、想像の埒外のことすぎて実感が湧かなかったのである。
「……ええと、まず確認なのですが、リューさんは……男性だったのですか?」
目の前に野生の熊が出没したとする。
そうなった場合、その熊の雄雌が気になる人間はそうはいない。まずはその熊が襲ってくるかどうか、あるいは逃げられるかどうかを考えるのが普通だ。
それと同じで、聖羅は死告龍が雌か雄かなど気にしたことがなかった。
言葉を交わせるようになって、外見からの想像より声が高いとは思っていたが、それは雄雌の影響というよりは年齢が幼いという方向に取ったため、雄雌どちらかは意識していなかったのだ。
聖羅の問いに対し、死告龍は少し困ったように首を傾げる。
『んー。男か女かって言われると……リューたちドラゴンにはセイラたち人間みたいに決まった性別がないから。どっち、っていわれても、ないっていうしかないなぁ』
この世界のドラゴンには明確な性別の区別がない。
普段は無性で、必要に応じて男性器や女性器が出現するのだ。
その事を聞いた聖羅は、意外に感じて目を丸くした。
「そうだったんですか? お兄さんがいらっしゃるといっていたので、てっきり、性別はあるものかと……」
『お兄ちゃんにはもうツガイがいるからねー。強いお兄ちゃんの方が雄になってるの。でも、その気になればまた雌にもなれるはずだよ』
しかしドラゴンは一度ツガイが成立した後、別のツガイを創ることを滅多にしないため、性別を次々変えるということは、そうそうないことではある。
「……そのお相手さんはドラゴン、ですよね?」
『うん、そう。普通のツガイはドラゴンであることが多いよ』
「普通ではない場合があるんですね……」
自分に『ツガイになって欲しい』などと死告龍が求めて来ている時点で、そのことは聖羅にも予想の出来ていたことではあったが、彼女はそう呟いた。
死告龍には彼女の複雑な気持ちを斟酌することはできず、平然と話を続ける。
『ドラゴンという種族にはね。種族として高みを目指す習性があるの。大昔はセイラよりもちっちゃなトカゲだったんだって』
かつては、いまでいう『ドラゴン』という種族自体存在していなかった。
元はただ生存能力に特化しただけのトカゲであったと言われている。
それが長い年月の果てに徐々に力を得て、種族として強くなっていった存在、それが『ドラゴン』という種族である。
元々は人間に踏みつぶされる程度だった弱小種族が、何千、何万という時間をかけて強くなったのである。
そして、いまでは最強種族の一角に数えられている。
その中でも、戦闘能力が突出した存在がリューという個体。死告龍なのだ。
『リューは強くなるためにがんばったの。身体を鍛えたし、魔法も覚えた。ドラゴンの中でもリューに勝てるのはお婆ちゃんくらいなんだよ?』
「お婆さん……もしや、私もお会いしたことがある、あの長老さんのことですか?」
『そうそう! リューでもお婆ちゃんには勝てないの。あ、ブレスだけの勝負ならたぶん勝てるけど……ドラゴンはブレス頼りになったら終わりだから』
魔法や爪、尻尾なども駆使して戦うのがドラゴンである。
確かに死告龍の即死ブレスは強力だが、必ずしも無敵ではないのだ。
『リューは十分強くなったから……次は、もっとドラゴンを強くするの』
そう言われれば、聖羅にもどういう意図を持っての行動かわかった。
「つまり、リューさんは個としてのドラゴンとしては、突き詰めるところまで強くなったから、さらなる強さを目指すために、多種族の血を取り入れようと……そういうわけですか?」
『そういうこと!』
聖羅は死告龍がどういう理由で多種族の自分に求愛しているのか、その意図を正しく理解した。
話としてはありがちな話ではある。
純血主義、とは全くの逆だが、要はその『血』そのものを強くしようという話で、そういった行為自体は聖羅としても納得できない話ではない。
ただ、それに自分が関わってくる話となると――それも、ドラゴンを産むという話になると――話はまた違ってくる。
端的に言えば、断りたい。
だが、聖羅の身の安全というのは非常に危ういものであるため、申し出を拒否した時の影響が自分や周りにどう及ぶか、わからない。
「か、考えさせてください……」
だから聖羅は時間稼ぎの言葉を口にする。
リューは少し残念そうに顔を歪めつつ、いまのところ聖羅の意思を尊重する気はあるようで、無理強いはしなかった。
だが、もしもその気になれば、死告龍を止められる存在はこの世界にほとんどいないのだ。
ゆえに、聖羅は改めて「早く元の世界に帰らなければ」という決意を固めたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる