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呪いの祠
しおりを挟むその祠を見つけたとき、私はただ古びた木の塊だと思った。森の奥、苔むした石の間にひっそりと佇む、朽ちかけた小さな社。仲間たちとそこに辿り着いたのは、ただの衝動だった。暗い森の匂いに惹かれ、木の温もりに導かれて集まっていた。古老の囁き――「触れてはいけないもの」――が遠くで響いていたが、そんな話は笑いものだった。健太が言った。「こんなボロいもの、壊したって誰も気づかないよ」。彼はいつもそうだ。怖いもの知らずで、衝動的。私はその流れに乗り、祠の表面に手をかけ、力を込めた。木は脆く、簡単に崩れた。ガサッと音を立て、木片が落ち、粉塵が舞った。中は空っぽだった。拍子抜けした私たちは笑い合い、先に進んだ。
だが、その夜から異変が始まった。
森の奥、祠の近くで仲間たちと身を寄せ合っていた。夜は冷たく、木々の揺れる音が不穏に響く。突然、健太が震えた。「何か…身体が変だ」と彼は呻くように言った。最初は気のせいかと思ったが、彼の動きが鈍くなり、身体が硬直していくのが見えた。「おい、どうした?」と声をかけると、彼は突然倒れ、震えながら奇妙な音を立てた。まるで内側から砕けるような、乾いた音。
仲間たちがざわめく間もなく、祠の周囲から白い霧が這うように広がってきた。まるで生き物のように、ゆっくりと、しかし確実に私たちを包み込む。霧は冷たく、刺すような刺激臭を放っていた。目がチカチカし、身体が焼けるように痛んだ。「この霧…何かおかしい!」私は叫んだが、声は霧に飲み込まれるように弱々しく響いた。美咲が突然膝をつき、震えながら地面に沈んだ。彼女の顔はみるみる赤くなり、皮膚がただれていくようだった。「助けて…!」彼女の声はすぐに途切れ、動かなくなった。
私は逃げようとした。木の根元を進み、土の間を抜けて必死に動いた。だが、霧はどこまでも追いかけてくる。視界は白く濁り、身体が重く軋んだ。祠のことが頭をよぎった。あの古老の言葉。「触れてはいけない」。壊したことで、何かを怒らせたのか? 呪い? 神の怒り? 動きが鈍りながらも、必死に進んだ。
どれだけ進んだだろう。気づけば私は祠のあった場所に戻っていた。霧はまだ濃く、周囲を覆っている。そこに、ぼんやりとした人影が見えた。ローブをまとった老人。手に奇妙な器具――霧を吐き出す金属の筒を持っていた。彼は無言で霧を撒き続け、祠の隅々へと向けていた。
「お前…何をするんだ!」私は叫んだが、声は霧に吸い込まれ、微かな音にしかならなかった。老人は私を見ず、ただ黙々と作業を続けた。まるで私など存在しないかのように。その瞬間、頭の中で何かが繋がった。あの祠。あの霧。そして、仲間たちの死。
「これは…お前の仕業か! 祠の呪いを…!」言葉を続ける前に、身体が急に重くなった。視界が揺れ、地面が近づいてくる。まるで私の存在そのものが溶けていくようだった。霧が私の全てを飲み込み、意識が途切れた。
「これでシロアリ駆除完了じゃな」
祠の管理人は足元に散らばる無数の小さな亡魂たちを見て呟いた。
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