ありそうでない話。

てつや

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全ての始まり

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2019年5月、東京。

 先月28歳になったばかりのシュンは、今日も満員電車という戦場へ足を踏み入れた。彼の身長は165cm。いつも通り高価でも安価でもないスーツを着用。ブサイクではないが、イケメンとはほど遠い顔立ち。

 彼の仕事は営業である。仕事成績はチームで平均的な順位。さほど高くないし、さほど低くない。部署では、頼まれたことは何でも引き受ける「何でも屋」としての地位を確立していた。

 ビジネス的な実力はまだ身につけられていなかったが、同僚からは優しいやつと慕われていた。

そう。彼の1番の長所は優しさである。

 そんな優しさだけが取り柄の、どこにでもいる小さな会社員にも幸運が訪れた。

 

 満員電車での戦いを経て改札を通過。少し疲弊し、何も考えずにオフィスへ向かう。無の境地の状態のせいか、その道中で1人の女性にぶつかってしまった。

 その女性が持っていた書類は地面に散乱する。

 「あっごめんなさい!」

 シュンは持ち前の性格を駆使し、謝罪してすぐに腰をかがめ書類を集める。

 「あっありがとうございます。」

 こんな大都会でぶつかっても、謝罪をする者など全くもっていない。しかしすぐに自分の非を認め、誠意を行動で示すシュンに驚きと感動を隠し切れなかった。

 そんな彼女の名前は、アヤ。シュンと同い年で、シュンより背が高い。ツヤ感高いかき上げスタイルの髪が美しく、足は細く長い。加えて常にヒールの音を奏でながら、日々の生活を送っている。そう、シュンにとってアヤは俗に言う高嶺の花だった。

 このロマンチックとはほど遠い出会いがキッカケで、2人は連絡を取り合うことになる。週末にはデートを重ねた。その結果、お互いの気持ちは益々盛り上がっていった。

 

 2019年8月。

2人でビアガーデンに行った帰り道。

 「シュンの優しさに惚れました。付き合ってください。」 

 アヤからの告白は出会って、3ヵ月後のことであった。

 ありったけの肉と少しの酒が胃袋に居座っているせいか、時より吹く風が何とも気持ちが良い。

 「僕でよければ。」

 こうして、めでたく2人の恋人関係がスタートした。



 ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ

 2026年、4月。

 もしあの時、満員電車との戦いを避けていれば。もしあの時、アヤを無視していれば。もしあの時、ビアガーデンに行っていなければ。もしあの時、高嶺の花を自分の者にしなければ、、、、、。

 過去を思い出し、シュンは手紙と時計をポケットに入れ靴を履く。



続く

※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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